第8話 クラスのみんなに挨拶したら変な空気になった

 痴漢されるというまさかのアクシデントによって、俺達は少し遅れて学校に到着した。


 事前に岬姉ちゃんが電話してくれていたので、職員室で少し事情を聞かれただけだった。

 その後、担任の先生の案内で自分の教室に行く。


「は~い、みんな静かに~。二時間目の授業を始める前に、今日からこのクラスに入る転校生の紹介するよ~」


 俺は廊下で待って、先生の合図があるまで待つ。


「えっ?転校生!?それってもしかして男の子ですか!?」


「転校生の男の子なんてドラマの世界の話でしょ?現実にあるわけないじゃん」


 教室のドア越しに女子達の声が聞こえてくる。

 転校生が男だと期待する声、男なんか転校してこないと呆れる声など反応は様々だ。


「ちっ、また新しい女が来るのかよ」


 不機嫌な男の声もちらほら聞こえて来た。

 やっぱりこの世界の男は女嫌いが多いみたいだな。


「そう思うでしょ?転校生はなんと……男の子です!!さぁ、入ってきて!」


 俺は教室のドアを開けて教室に入ると、さっきまで騒いでいた生徒たちが一斉に静かになる。


「今日から同じクラスになる西井蒼太君よ!」


「今日から私立桜小路学園に通う事になりました、西井蒼太です。よろしくお願いします!」


 俺は笑顔で挨拶をする。


 その時、一人の女子生徒が手を挙げた。


「はいは~い、西井君はどうしてこの学校に転校してきたの?」


「僕、元々男子校で男ばっかりの環境で育ってきたんだ。でも女性とも関わってみたいなぁと思ったから、この学校に転校してきたんだよ」


 俺は質問してくれた女の子の目を見ながら、答える。


「えっ?」


 質問してくれた女の子が驚いた様子で目を見開いていた。


「ふ、普通に答えてたよ……」


「しかもあんな優しく!」


「今まで女に接してなかった世間知らずタイプね……じゅるり」


 他の女子達がヒソヒソと話し始める。


「はい!あ、あの!じゃあ好きな女性のタイプ教えてください!」


 また他の生徒からの質問が飛んできた。


「えっ?好きなタイプかぁ……、笑顔が素敵な子かな」


 やっぱり女の子は笑っている時が一番可愛いと思う。


「笑顔?こんな感じですか!?」


 質問してきた女の子は満面の笑みを浮かべ、その顔を俺に見せてきた。


「そうそう、そんな感じ。可愛いと思うよ」


「ほえっ!?」


 笑顔を褒めてみると、その女の子は見る見るうちに顔が赤くなっていった。


 周りをよく見ると会話の流れを聞いていた他の女子達が全員、口をぽかーんと開けて俺の方を見ていた。


 え?俺なんか変なことしたかな……。普通に可愛かったから可愛いって言っただけなんだが……。


「ん?どうかしたの?」


 俺は質問してきた女の子に聞いてみる。


「へ?ななななっなんでもないれす!」


 女の子は俺から視線を外し、俯いてしまった。


「ねぇ、今の聞いた?」


「き、聞き間違えじゃないわよね?」


「絶対可愛いって言っていたわ。録音しておけばよかった……」


 また女子達がヒソヒソと話し始める。


「は、は~い。質問タイム終わり!じゃあ西井君は空いてる席に座ってね。授業始めるますよ~」


 俺は先生に言われた通り、窓際の一番後ろの空いている席に座る。


 俺は隣に座っている女子に挨拶をしようと思い、横を見る。


「今日からよろし……く」


 隣を見ると、キャラメルブロンドの髪を赤いリボンでポニーテールにしている女の子が座っていた。


 その女の子は笑顔で俺を見ていて、思わずその美しさに見惚れてしまう。


「どう?私の笑顔は?」


「えっ?き、綺麗だったよ……」


 俺は少し戸惑いながらも思ったことを答える。


「本当?嬉しいなぁ~、綺麗って言われちゃった!」


 女の子は小さく舌を出して、笑った。


「あっ!そうだ!自己紹介してなかった!私、神楽坂茜かぐらざかあかね!よろしくね」


神楽坂かぐらざかさんね、これからよろしく」


 神楽坂さんは俺の様子を見て、首を傾げた。


「あれ?私の名前を聞いても何にも思わないの?」


「えっ?何が?」


「わ、私の事知らないの!?」


「うん」


「そっか~、西井君って面白いね!私の事を知らないし、それに女の子にこんな優しい男性は初めてだよ!」


 神楽坂さんは嬉しそうに俺の目を見ながらそう言った。


「?どういう事?」


「いいのいいの!気にしないで!これから仲良くしよ!」


「うん!早速だけど、教科書見せてもらってもいい?俺、教科書まだ届いてなくて……」


「全然いいよ!じゃあそっち行くね!」


 神楽坂さんは机を俺の方に寄せ、俺の机とくっつけた。


「ねぇ、あれ見て」


「ず、ずるい!私も近づきたい!」


「さすが神楽坂さんね……」


 前に座っていた女子達が俺達の方を横目でちらちらと見ていた。


「ふふっ、やっぱり私が近づいても嫌がらないんだね」


「だって嫌じゃないからね」


「それ本気で言ってるの?」


「嘘なんて付かないよ」


 神楽坂さんは顔を近付け、俺の目を見つめてくる。


「な、なに?」


 神楽坂さんの顔があまりにも綺麗すぎたので、思わずドキッとしてしまった。


「やっぱり西井君って面白いね」


「何も面白い事言ってるつもりないんだけど、どういう事?」


「なんでもない!」


 それだけ言うと、前を向いて先生の話を聞き始めた。


 神楽坂さんの謎の行動に俺は小さく首を傾げた。



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