第3話 貰った能力はわりと機能している
◇
転生を果たした俺は目を覚ました。
新たな生を受け、赤ん坊になった自分。傍らには慈愛に満ちた表情の母の姿が――
なかった。
(えっ、どこここ? 外なんだけど)
周囲は暗闇に染まっているので、時間帯は恐らく夜だろう。
激しく揺れる視界と、誰かの荒々しい息遣い。
眼の前に見えるのは、むさ苦しいおっさんの顔。身なりも不衛生な汚れたローブを着ている。前歯が数本ない口からは、酒とドブのような臭いが漂ってきて、赤子ながら顔をしかめてしまう。
どうやら俺はこのおっさんに抱き抱えられて、外を走っているらしい。
(あんた誰だ? 俺の親父か? 嘘だろ、こんな盗賊みたいなオッサンが俺の父親なのか?)
俺の声は言葉にならず「ダーダーダー」と、泣き声になってしまう。
「泣くんじゃねぇよ。お前を親から盗んできたのは悪かったが、そうしないとこっちも生計がなりたたなくてね」
(は? 盗んだ? ちょっと待て、お前まさか赤子攫いか!?)
「魔王を倒した勇者の血を引く赤子だ。奴隷商に売ったら一体いくらになるのか、今から楽しみでしょうがねぇ」
(ふざけんなお前! 俺のママライフはどうなるんだ! いきなりバッドエンドルートから始めるな!)
「ははっ、怒ってんのか? それともオレのことをパパだと思ってんのか?」
(んなわけあるか、鏡見ろ歯抜け!)
「ん、なんだオメェ、右手に何つけてんだ?」
赤子攫いに言われて、俺は初めて自分の右手を見ると俺の死因となった電動オナホがくっついている。
小型化し腕のサイズにフィットしたオナホは、完全に右腕に移植されており、見た目はSF的な武器を装備しているみたいだ。
(ぎょぇぇ!? なんだこれ!? オナホが右手とくっついてる!? くそ、あの女神やりやがったな!?)
「よくわかんねぇけどいいか。売値には関係ねぇだろ」
(お前はもうちょっと疑問に思え! 誰か助けてー! 能力持ってようが、赤ん坊の時に攫われたら何の意味もない!!)
赤子の叫びなど誰かに届くわけもなく、俺は攫われてしまったのだった。
◇◇◇
それから16年後――
俺は転生後、最初の12年を奴隷として過ごすことになった。激しい強制労働によって体はボロボロになり、死ぬ寸前で奴隷商たちから脱出。
その後の4年は、冒険者たちの荷物持ちをしながら自分も冒険者になる為に牙とオナホを磨き続けた。
そうして今現在、一番最初に自分が攫われた街へと帰ってきたのだった。
全身を隠すような漆黒のマントを羽織った俺の隣を、二足歩行する猫や、甲冑を着た冒険者風の男が通り過ぎていく。
荷車を巨大なトカゲが引いていても、街の中央にそびえる中世ヨーロッパのような城を見ても、これみよがしなファンタジー的な光景も今では慣れてしまった。
「ここが城下町ジーナスか……。ここまで帰ってくるのに16年もかかった……。ふざけやがって、あの歯抜けめ」
本当なら優しいママに甘え、母乳をたらふく飲んですくすく育ち、魔王的な何かを倒すサクセス転生ストーリーのはずが0歳児で頓挫した。
自分をここに送り込んだ女神とも一切連絡がつかないし、実は転生したって話もただの妄想なんじゃないかという気さえしている。
この右腕を見ない限りは。
俺の成長と共に、右腕に装着された電動ホールも大きくなり、年齢とともに吸引力、回転力を増幅し続けた。
具体的には大きめの岩を吸引力で引き寄せ、ホール内に吸い込むと回転力で粉々にすることができる。
また逆回転させることで、吸い込んだ石を弾丸のように発射することも可能。
わりとちゃんとした武器となっているのが、腹立たしいところである。
この腕さえなければ漆黒の復讐者ユキムラとして、カッコイイ物語が展開されるはずが、これではオナホの復讐者である。どうあがいてもコメディにしかならない。
俺はマントでアームキャノンみたいな腕を隠しながら街を進む。
「俺を産んだとしたら教会か……」
明るい石畳の大通りを避けて裏道を行こうとすると、街人から急に歓声が上がった。
「勇者パーティーの登場だ!」
「ほんと!? どこどこ!?」
「一目顔だけでも見させてもらおう」
街人が次々に大門へと流れていくのを見て、俺も一旦踵を返して門へと向かう。
決してミーハー心を出したわけではなく、勇者の子として転生した俺にとって、他の勇者はもしかしたら自分の血縁の可能性があるからだ。
「うぉー勇者様だ!」
「勇者様!」
「魔王を倒してくれよ!」
大門に集まった人々の合間から、俺は勇者とやらを観察する。
年の頃は俺と同じくらいか。青の軽鎧を纏い、頭に金のサークレットをつけた勇者風の少年は、出迎えてくれた人々に手をふる。
彼の後ろに
彼ら3人を影から凝視すると、頭上に緑色のHPバーと数字が表示される。
「勇者HP76、戦士HP98……ザコ勇者かよ」
勇者たちのHPの低さを見て、一気に興味をなくす。
女神からもらったHP可視化を使用すると、相手の詳細なHP情報を見ることが出来るため、HPが低い=レベルが低いとわかる。
どれだけ勇者だと大げさに振る舞っていても、この数値は嘘をつかない。
「俺のHPより低いやつが勇者なわけがない。どの街にも最低一組は勇者を名乗るパーティーがいるな」
偽勇者のせいで無駄な時間を過ごしたと思いながら、本来の目的地である教会へと向かう。
扉にX字の刻印がされた
「すみません」
「は~い、なんでしょ~」
目の下にクマを作ったダウナー系シスターが振り返る。
「16年前、ここで勇者が子供を産んだと思うのですが、その時の話を聞かせてもらえませんか?」
「16年前っすか~……さーせん、職員が入れ替わってるんで、ここに10年以上いる者はいないんすよ」
「そうですか……。では勇者が今どこにいるのか知りませんか? ざっくりとした情報でも構わないので」
「あ……知らないんすか? 勇者様たちの今?」
「俺は長いこと別の国にいたので」
「な~る。では軽く説明致しゃす。17年前、ここから北にあるホワイトノルンという地から、数十万の魔物を引き連れた魔王軍が侵攻してきたんす。しかしそれを勇者パーティーが撃退、魔王も倒したんす」
(俺が生まれる1年前か)
「その時各国をまとめ、人類軍を指揮していたジーナス王もすんごい喜んで、勇者パーティー全員に騎士階級の最上位クラス【ヴァルキリー】の称号を与えたんです」
「ヴァルキリー……」
「ええ、最強の騎士に与えられる”聖騎士”の称号より上と言われてやす」
「なるほど」
「でも喜んだのも束の間で、魔王はその2年後に復活。再度討伐の為ヴァルキリーパーティーが結成されたんですけど、魔王も第2形態って奴にパワーアップしててヴァルキリーは全員返り討ち。永久凍土っていう封印魔法を受けて、全員氷の中に閉じ込められちゃったんす」
「それは今も?」
「はい、氷が溶けたっていう報告は今もありゃあせん。魔王軍のはヴァルキリーを倒して安堵したのか、人間をジワジワいたぶって殺すモードに入ったようで、今現在じっくり勢力を拡大していってます」
「そう……ですか。その氷がどこにあるかご存知ですか?」
「あの~もしかしてなんすけど、勇者の身内の方っすか?」
「……わかりません。それを確認するために勇者を探しています」
「そうしたか。兄さん大変すね、X神のご加護がありゃりゃすように」
ずっと甘噛してるシスターは両腕をクロスして、エックスを作って祈りを捧げる。
俺は封印されたヴァルキリーの場所を聞き、教会の外に出た。
「奴隷の時、いつか母ちゃんが助けてくれるんじゃないかって思ってたけど、氷の中に封印されてたのか……」
奴隷として辛い日々を送っている時、助けにきてくれないと悲しむこともあったが、助けにこれなかったんだな。
なら俺が助けないと。
――――――
ギルドカード1
名前 堺 雪村
職業 盗賊
HP 148
MP 20
防具1 布の服(黒)
防具2 防砂マント(黒)
武器 機械腕
体重 54kg
身長 165cm
所持金 1200B (日本円1200円相当)
特殊能力1 HP可視化
特殊能力2 機械腕による吸引、排出。
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