第23話 TONPA Ⅳ

「うわっ!?」

「どうしたの!?」

「ボススライムが排水管につまってる!」


 テミスも驚いて覗き込むと、ブリンとした巨大ゼリーみたいなスライムに唖然とする。

 俺たちは顔を見合わせて頷いた。


「サンダーストライク!」


 テミスが排水管に向かって雷を放つと、魔法に驚いたのか排水管内が振動した。そしてところてんのように、ボススライムが排水管からぬるっと滑り落ちてきた。


「でかっ……」

「スライムのほんと100倍くらいのでかさだな」


 巨大水餅みたいなボススライムは電撃に怒っているのか、はっきりとわかる球体核をぷるぷると震わせている。


「さくらんぼみたいな核しやがって」

「もう一発行くわよ! サンダーストライク!」


 テミスがもう一度電撃を放つが、ボススライムに命中しても一瞬発光しただけで消えてしまう。


「うぇっ、全然効いてない!?」

「体内の水の質量がでかすぎるんだ。生半可な魔法じゃ効果がない」

「じゃあどうすんのよ!?」


 ボススライムは突如ウニのように体をトゲ状に変化させ、俺たちを襲う。

 間一髪かわしたものの、水路の石壁には穴が開いている。


「ちょっと、あいつ明らかにあたしたちのレベル越えてるんですけど!」

「俺に任せろ!」


 俺はこれまでムチムチママに添い寝されるという修行を耐えて、Eゲージはマックスをキープしていた。

 ドリルをハイパワーモードで高速回転させ、ボススライムに突っ込む。


「俺のドリルで永久とわに眠れや!」


 そのさくらんぼみたいな魔核をぶっ壊してやる!

 だが、分厚い水の体に阻まれドリルは核に到達できない。


「あぁダメだコレ! スライムの中身をかき混ぜてるだけだ!」

「くそ使えないわねザコ村! あと永久に眠れってのも英雄病で超キモいんだけど!」(※英雄病=中二病)

「うるせぇ! スライムは防御力が高いんだから魔術師メイジのお前がなんとかしろよ!」

「これならどう、サンダー……ボルテックス!!」


 テミスが中級雷魔法を詠唱すると、収束した魔力が解放され、空気を切り裂いて太く青白い雷が飛ぶ。

 電撃はボススライムに命中し激しいスパークを起こすと、周囲の魔力灯がパンパンっと弾け飛んでいく。


「やったか!?」


 だが、ボススライムは眩く発光した後、雷魔法をそのままテミスに跳ね返す。


「嘘」

「伏せろ!」


 魔法を反射されたことに、一瞬呆然としていたテミスを無理やり引き倒す。

 電撃がおさまった後、後ろを見ると壁が真っ黒に焦げて抉れていた。


「なんなのよあいつは!?」

「多分奴は攻撃された魔法を吸収して、それをそのまま吐き出せるんだ」

「なによインチキ! 王都の地下に出て良いモンスターじゃないわよ!」

「またウニ攻撃が来るぞ!」


 俺達はスライムに追い立てられるように水路を走り、T字路を曲がって息を整える。


「ハァハァハァ……屈辱ね、スライムから敗走するなんて」

「ハァハァ、あいつ物理半減、魔法反射がついてるだろ。反則だって」

「どうすんのよこれ、あたしの魔力もさっきのサンダーボルトで結構消費しちゃったし。多分強いのは、撃ててあと一発が限度よ」

「やっぱり強い攻撃で、奴の核まで貫通させるしかない」

「でも、あんたのドリルはきかないし、あたしの魔法も跳ね返されちゃうわよ」

「…………テミス、一度試したいことがあるんだ」

「なに?」


 俺が作戦を話すと、彼女は眉を吊り上げ「本気?」と聞き返す。


「あぁ、理論上はいけるはずなんだ」

「そうかもしれないけど……めちゃくちゃ痛いわよ?」

「それでもやる」

「どうなっても知らないわよ。その作戦をやったら、あたしのMPは0だし、回復もしてあげられない」

「大丈夫、なんとかなる。逆に俺を回復させようとしてMP残すなんて真似するなよ」

「わかったわ。あんた今ドリル何%?」

「えっ、まだ74%あるぞ」

「万全を期して100まで上げるわよ。今から3秒だけ、あたしの方見ていいから」

「見ていいって、どういう意味だ?」


 言われた通りテミスの姿を見やる。

 彼女の服は先程のスケベスライムのせいで破損しており、大きな胸の北半球と南半球が露出している。

 その双丘をローブを破いて作った即席ブラが、赤道のように巻かれている。

 いつもより多く露出されている胸に、Eゲージがギュンと上がる。


「ナイスおっぱい! OKパワー100%!」

「よし、行くわよ」


 二人で肩を並べてT字路から飛び出すと、ボススライムは何度来ても無駄無駄と言わんばかりに、体をプルプルさせる。


「行くぞ! 一撃で仕留める!」

「えぇ、あたしの全魔力持ってきなさい! サンダーボルトパワーゲート!」


 テミスが術を詠唱すると、中空に稲妻の光を放つ魔法陣が現れる。

 俺は両足に力を込め、雷の力に満ちた魔法陣をトンネルを潜るように飛び越える。

 金色の魔力が俺の体を包むと、血管の中全てに暴走する電流が宿ったように雷のパワーが満ちる。

 それと同時にピースメーカーのドリルがジェットエンジンの如く、キィィィィンと音に聞こえるレベルで高速回転する。

 テミスが付与した雷エネルギーがピースメーカーに限界を越えた電力を与え、回転エネルギーが増幅されたのだ。


「うおおおおおおおおっ!! 俺のドリルで眠れやぁぁぁぁ!!」


 己が感電しながらの捨て身の強化バフ。

 バチバチと電流を発しながら、超高速回転するドリルをボススライムに突き刺す。

 螺旋の回転力がその粘体ボディを弾き飛ばし、球体核へと到達する。

 核が砕け散ると同時に、スライムはその姿を保てなくなりドロドロの液体へと戻った。


「はぁはぁはぁ」


 石畳にへたり込んだ俺に、テミスが慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?」

「まだ目の奥がチカチカするけど」

「当たり前よ、体全身にサンダーボルト浴びた状態だったんだから」

「まぁでも倒せたし」


 ミーティアママに回復してもらえば、すぐ元に戻るだろう。


「ドリルと魔法の合体技が決まったな。これをリミットブレイクと名付けよう」

「ほんと無茶苦茶ね」

「まぁ4万の仕事じゃないことは確かだ」


 二人でこれだけ苦労して、しょっぱい報酬なのを嘆く。


「俺しばらく動けないから、先にギルド行って完了報告してきてくれ」

「わかったわ。ボススライムの核を見せたら、ちょっとくらい報酬上がるかしら?」

「逆に水路の補修代金要求されたりして」

「怖いこと言わないで」


 テミスは砕けたボススライムの核を拾い集めると、地下水道から地上へと上がる。

 まだ手や足にビリビリとしたしびれが残る俺は、ピースメーカーが壊れていないか確認を行っていた。


「あーなんだこれ? スライムがへばりついてんな……」


 ピースメーカーに少し引っかかりのような違和感を感じていたのだが、どうやらテミスを助ける時に吸いとったスライムの残骸が、回転を邪魔していたようである。


「あーあースライムにオナホの型がついちゃって……型?」


 俺は大量に転がったボススライムの死骸を見やる。


「……………商機か、これ?」



 その日の夜、スライムの粘液を大量に持ち帰った俺は、ミーティアさんに浄化魔法をかけてもらい殺菌消毒した後、ピースメーカーに詰めていた。

 ウォーム機能を使ってスライムの粘液を固めると、ホールの型がとれた。

 これと大量にあるスライムの粘液を使って、男性用ジョークグッズの製造を始める。


「おぉ……これは……すごい」


 翌日――俺は色眼鏡に付け髭で変装した姿で、王都にある風俗街の入り口に立っていた。

 そこをプラプラと歩く男性を見つけると声をかける。


「あーオニイサンオニイサン、凄いものアルヨ」

「なんだ?」

「これね、TONPAっていうジョークグッズね。特性のスライムローションを使って使用するとすんごいよ。ローション付きで1000Bでいいよ」

「怪しいな……。まぁでも1000Bなら」


 俺は風俗街に来た男性を捕まえてはTONPAを販売していく。

 すると一週間後、リピーターがリピーターを呼び、路地裏で怪しい薬物を販売するかのように取引が行われた。

 スライムの粘液がなくなる頃には値段が高騰し、一つ1万でもいいから売ってくれという客が続出した。



「まさかわずか一週間で改築費用が貯まるなんて……」


 テミスはTONPAの大量生産で疲れ果てた俺を見やる。


「あんたどうやったわけ? ポンっと200万Bも持ってきたけど……」

「そうね、ほとんど費用は雪ちゃんが負担してくれたし……」

「ユキ、まさか強盗とかやってないよな? ママ泣くぞ」

「逆だよ、むしろ男に夢を売る仕事をしてたよ」

「「「?」」」


 周囲には柵が立てられ、それぞれ個人部屋のある家に改築された我が家。

 割と平均的な田舎の一軒家くらいにはなっただろう。

 これならプライバシーも守られて、狭い家に嘆くこともない。

 改築なので、無理やり部屋を継ぎ足した感はあるが、それでも仮設住宅みたいな家より遥かに進歩したと思う。


「これで平穏は守られた」


 しかし――

 夜になると、ママたちが枕を持って俺の部屋にやって来ていた。


「あの……ママたち、せっかく自分の部屋があるんだしさ」

「そんな寂しいわ……ママ、雪ちゃんと一緒に寝るわ」

「そうだぞ、別に部屋を使わなきゃいけないってこともないだろ」

「それはそうなんだけど。それだと逆に狭くなっただけな気が……」


 まぁママはこうなるんじゃないかと思ってたし、一番ブーブー言ってたテミスが利用してるならそれでいいか。

 そう思っていると、部屋の扉が開きテミスが顔を出す。

 頬を少し赤くして唇を尖らせつつ、その瞳は拗ねているようにも見える。不貞腐れてるのか、照れてるのかよくわからない表情。


「どうした?」

「なんか……急に一人で寝ると寂しいんだけど。ここで寝るわ」

「なんの為に改築したんだよ!」

「っさいわね、ちょっと場所あけて」

「やめろ割り込むな!」


 結局何の為に苦労したのかよくわからない話だった。




 雪村とテミスは合体攻撃【リミットブレイク(雷)】を習得。

 テミスが強化付与魔法【エレメンタルパワーゲート】を習得。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る