第19話 ミーティア 愛の暴走特急 後編
ウザ息子もエロガキも通用せず、一体何をすれば好感度が下がるんだ? と考えつつ、俺はミーティアさんと繁華街を歩く。
彼女はふと露天で売られている、服屋の前で立ち止まった。
「何かほしいもの見つかった?」
「雪ちゃん、これどうかしら? 雪ちゃんにあうと思うのだけど?」
ミーティアさんが手にしているのは、チェック柄のダサシャツ。
母親ってなんでチェックシャツ好きなんだろうね。
しかしながらそんなキラキラした顔で言われると、ダサいよねなんて言えるはずもなく。
「う、うん、いいんじゃないかな」
「じゃあこれ買ってこようかしら」
ウキウキのミーティアさんがシャツを持って、店主のもとに行こうとした時、前方から歩いてきたローブ姿の男が、彼女にドンっとぶつかっていった。
「きゃっ!」
「なんだあいつ、完全にぶつかりに来たぞ」
「変な人ね……あれ?」
「どうしたの?」
「お財布がないかも……」
「くそっ、さっきの奴だな」
「いいのよ雪ちゃん、大して入ってないし」
そんなことはない、先程財布を見たらそこそこの額が入っていた。
俺は踵を返し、ローブ姿のスリを追いかける。
恐らくスリの常習犯なのだろう、俺に追われていると気づくと、あっという間に人混みの中に消えていく。
くそっ、絶対に逃がすか。
「へへっ……すげぇじゃねぇか、金貨まで入ってるとは。こいつは当たりだな」
スリは用水路の橋下で、ミーティアの財布の中身をチェックしていた。
懐の温かい奴から盗めて、顔のニヤケが止まらないようだ。
「待てコラ、金返せ!!」
「!?」
俺が橋から飛び降りてきて、ぎょっとするスリ。
「バカな、なんでここがわかったんだ!?」
「お前のHPの数値覚えてたからだよ!」
こいつのHPは100と一般人の中では高い方で、キリのいい数字の為覚えやすかった。
同じHPの人間を探しながら追いかけていると、橋下に向かって走る犯人を見つけたのだ。
「何わけわかんねぇこと言ってんだよ!」
「待てスリ野郎! 金返せ!」
「へんっ、このシマでオレの逃げ足に追いつけるかな!」
スリは全力ダッシュで路地裏を逃げ回る。
しかし俺は奴のHPバーがどこに行くか見ながら、先回りしていく。
「くそっ!? なんでだ、オレしか知らない裏道を走ってるはずなのに!?」
「止まれ、どこ行ったって無駄だぞ!」
俺はピースメーカーに、青果店で貰った岩リンゴを装填する。
この岩リンゴは皮が岩みたいに硬いので、こいつを弾丸として使うことが可能だ。
往生際悪く逃げ惑うスリの背に向かって岩リンゴを撃ち出すと、後頭部に直撃し男はその場に大の字になって倒れた。
「手こずらせやがって、人の金返せ!」
「ちくしょー」
俺は財布を取り返してスリを騎士団に引き渡し、ミーティアさんの元へと戻る。
すると心配で彼女は顔が青ざめていた。
「財布取り返してきたよ」
「雪ちゃん!」
彼女は泣きそうになりながら抱きついてきた。
「財布なんかいいのよ、雪ちゃんが追いかけてケガしたり殺されたりする方が心配なんだから」
「……ママは俺の事が心配だと思うけど、俺も皆を守れる人間になりたいんだ。ママからするとまだまだ子供なんだろうけど、強くなってママたちと肩を並べられるようになりたい」
「……雪ちゃん」
「だから、俺のことは心配しないで」
「…………」
ミーティアさんは何か言いたげにしていたが、子供の成長を受け入れるのも親の役目である。
日も暮れてきた為、台無しにされた親子デートを諦め、帰路につくことにした。
彼女が手にしている紙袋の中には、しっかりとダサチェックシャツが入っていた。
「ん? これは」
王都を出る直前で、怪しげなテントを見つける。
大きく占星占いと書かれた看板が掲げられており、本場ファンタジー世界の占いを試してみようと、最後に親子の相性を占ってもらうことにした。
テント内に入ると星型のサングラスをかけた、怪しすぎる老婆が水晶の前に鎮座している。
「すみません、相性占い良いですか? 私と雪ちゃんの」
「よかろう、1回1万B(1万円相当)じゃ」
クソたけぇ。やっぱやめようかな。
「ママ、さすがに高いよ」
「そ、そうねぇ」
「ワシは真実しか言わん。お主ら、何か悩みを抱えておるな」
ま、まさかこの占い師、俺とミーティアさんが本当の親子かどうか悩んでいることに気づいて……。
いや、そんなわけないな。
人間誰しも悩みを抱えているんだから、占い師の常套句って奴だろう。こういうのに騙されては――
「はい、悩んでます!」
「ママー?」
「恐らくそっちの男との関係で悩んでおるな?」
「は、はい、なんでわかるのかしら!?」
いや、一緒に街歩いてたら何かしら関係があるってわかるでしょ。
「雪ちゃん、多分この人本物よ」
「ママー?」
「では1万B払い、占いを受けられよ。今ならこの500Bクーポンで9500Bにしてやろう」
「まぁお得! 払います!」
「ママー?」
僧侶が占い師にいいように騙されないでほしい。
ささっと料金を支払ってしまったが、今度から変な勧誘が来たら、全部俺が断ろう。
水晶を前にした老婆が、ホニャラララ~っと呪文を唱えると、水晶がカッと輝く。
「出たぞい」
「ドキドキするわ、相性悪いって言われたらどうしようかしら」
「占いだし、別に悪くてもこれからの伸びしろがあると思おうよ」
「結果じゃが、相性は抜群じゃ」
「おー」
「良かったわ~」
「かたい絆に結ばれ、どのような時も一緒にいるじゃろう」
「素晴らしいわ」
「男はあれこれと尽くす女の愛情の強さに戸惑うが、水流に身を任せるように受け入れればうまくいくじゃろう。女はかわらず愛情を注ぐとよいが、ときには男に頼ることも必要じゃ。こ奴は、女が思うほど弱い男ではない」
「見ていたかのような内容……」
「はい!」
「二人の道は複雑に絡み合って離れることはない。お互い愛する者のサポートを受けて更に飛躍するじゃろう。子宝にも恵まれ、理想的な結婚生活を送るじゃろう」
「ん?」
子宝?
「男の方は、他の運命星に引っ張られることもあるじゃろうが、女が頑張ればなんとかなるじゃろ」
「そのへん雑だな……。あのお聞きしたいんですけど、相性占いですよね?」
「相性? 今ワシがやったのは恋愛占いじゃが? これほど相性の良い仲はそうはおらん。もしこれで結婚までいかんかったら、ワシは首切って死んでも構わん」
「「…………」」
俺とミーティアさんは、気恥ずかしさを感じながら占い師の天幕から出る。
「まさかママとの恋愛運をみられるとは……」
「しかもとってもいいなんて……」
「あの占い師、ハズレたらクビきって死んでもいいって言ってたね」
「そ、そうね……」
「まぁまぁ皆に言ってる言葉だよね」
「そ、そうよね」
きっと高いお金をとった分、誰にでも最高の運勢と言っているのだろう。
しかし後ろの天幕から「キェェェェイ! 最悪じゃ! 貴様らの運命は最悪じゃ! 即刻別れたほうがええ!」と占い師の声が響いてきた。
「「…………」」
「とりあえず帰ろうか」
「う、うん……そうね」
俺とミーティアさんは握りしめた指を絡めて帰路へとついた。
そして当たり前だが、彼女の過保護が治ることはなかった。
―――――――
新年あけましておめでとうございます。
2024年もありんすをよろしくお願い致します。
フォロー、星もよろしく(・ω<)
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