第17話 聖ママ戦争
俺はマルコに怒り収まらぬテミスの元に向かう。
「荒れてるな」
「あんた……どっから見てたの?」
「あんた今回の件謝罪したの? ってとこ」
「最初からじゃない。……ごめん、罪を償わせようと思ったけど、あいつの言った通り証拠は全部消えちゃってるから」
「まぁそんな殊勝な奴ではないよな」
反省して自分から自首するような奴なら、今回の事件なんか起こしていないだろう。
実際このことを騎士団に報告したとしても、ゴブリン襲撃とマルコの因果関係を立証できないと罪には問われないだろう。
「故郷から完全に縁を切られたことを、あいつの罰にしたらいいんじゃないか?」
「そんなの罰にならないわよ」
「そうか? 俺なら故郷に帰れないって辛いと思うが」
一応村には帰ってきてたし、そこそこ未練はあるはずだろう。
「あいつはあんたみたいに、己のルーツを大切にする奴じゃないの」
「そういやマルコって、誰の子供なんだ? テミスはミーティアさんだろ? ガイアはヴィクトリアさんだし」
「マルコは聖騎士レイって人の子供なの。彼女もトンパ村出身なんだけど、氷は国が管理してる」
「なんで? 封印された勇者は、皆故郷に返されたはずじゃ?」
「彼女は聖騎士っていう、国に認められた騎士なのよ。しかもめちゃくちゃ位の高い」
「あぁ、エリート
「そういうこと」
俺ももしかしたら近いうちに、レイさんに会いに行くことになるかもしれないな。
「そうだ、お前仲間と別れて宿無しになったんだろ? 村長から家貰ったから、お前も住まないか?」
「…………えっ、同棲誘ってんの?」
「違うわ。ミーティアさんたちも一緒だわ」
「でも、あんたママと一緒にいたいんじゃ……」
「母親がいなかったのは、お前も一緒だろ」
「あたし、氷壊すのあんまり手伝ってないし……」
「手伝っただろ、Eパワーチャージしてくれたし。ゴブリンの襲撃受けた時も、村長とタンゴ連れて逃げてくれた。俺は助かったぞ」
テミスは照れたように視線をそらし、後ろ髪をいじる。
「それに俺たちがわかれて暮らしたら、ミーティアさんが困るだろ」
「じゃあまぁ……行くわ」
◇
それから俺たちは改めて家を見に行ったが、村長の言う通り1ルームとキッチン、トイレしかない。
馬小屋からは幾分グレードアップしたものの、ほぼ一人用の家だった。
テミスはそんな小屋みたいな家を見て、若干頬を引きつらせている。
「ここで4人暮らすの? プライベート空間とかなさすぎじゃない?」
「屋根と壁があるだけありがたいと思ってくれ。他の村民も家なくしちゃって大変なんだから」
とは言いつつも、リフォームはいるかな……。
◇
それから俺達は亡くなった者を弔い、火事で燃えた村の修復を手伝った。
1週間ほどで住む場所に困るという村民はいなくなり、快適には程遠いがなんとか生活機能は回復したと言っても良い。
と、言っても家族の元に帰ると決めた人が、村を去ってしまったからというのも大きいが。
「おらおらどうしたユキ、そんなへっぴり腰じゃママには勝てねぇぞ」
「くそぉ……」
俺はヴィクトリアさんと、復興の合間に剣術の指南を受けていた。
指南と呼ぶには一方的に遊ばれているように見えるが、レベル差が天と地ほども離れているので致し方ないことである。
ぜぇぜぇと息を切らした俺は、ドリルを軽くいなされてその場に尻もちをつく。
「はぁはぁ……強すぎ」
「これでも氷の中に閉じ込められて、レベルはがっつり下がってるんだぜ」
「それでこれ……さすが魔王を倒しただけはあるよ」
「ほらほらへたり込んでる場合か」
「くそぉ」
二人で修行していると、ミーティアさんがお茶と茶菓子を持ってやってくる。
「ヴィクトリア、雪ちゃんを独り占めしすぎですよ。わたしと交代して下さい」
「夜中ずっと抱きついたままのくせによく言うよ。あれこそ交代制にするべきだと思うがね」
「雪ちゃんはママと一緒に寝たいわねぇ?」
「ママとだよなぁ?」
「えっと、その……」
笑顔で距離を詰めてくるママの愛情がちょっと重いと思う。
前世でも母親がいたことがないので、通常の母ってこんなにグイグイくるものなの? と困惑する。
その日の夕方、俺はテミスと二人ママたちが封印された洞窟がある、森の泉で釣りをしていた。
全くしならない竿と、バカにすんなよと言いたげに回遊する魚影を眺めながら、ママとの話をする。
「――ってな感じなんだ」
「ママたち、そんなことで喧嘩してたの?」
「二人共全然ひかないんだ。正直物凄いインファイトされて困惑している」
「全力で甘やかそうとしてるわね」
「添い寝って、普通俺の歳じゃもうやらないよな?」
「ん~……貴族のボンボンならなくはないと思うけど。確かにあんたの歳で、そういった甘やかされ方はしないかもね」
「だよな。なんというか過保護がすぎるというか」
「あたし思うんだけど、多分ママ二人共、母親をやりたかったんだと思う」
「どういうことだ?」
「子供を産んで母としてのスイッチが入った後、すぐに氷漬けにされてしまったわけでしょ? だから例え大きくなっていても、あんたのことを赤ちゃんだと思って接しているところがあるんじゃない」
「それならミーティアさんは、お前も同じようにバブちゃん扱いするだろ」
「されてるわよ。朝のちゅっちゅしましょうねってキスしようとしてくるし。ただ
「躱すな。そのせいで俺が全弾ヒットしてる」
「あっ、釣れた」
テミスが話の流れをぶった切って、釣った魚をカゴにいれる。
「実の娘的に、母親が息子かどうかもわからない子を実子扱いしてるってどういう気分なんだ?」
「別にいいんじゃない?」
「軽いな」
「これがどこぞの馬の骨とも知らない子を、自分の子ですって言い出したら止めると思うけど、あんたは誰もできなかった封印を自力で解いてママたちを救ったわけだし」
「俺がもしミーティアさんの子供じゃなかったら、かなり不気味な図だぞ? 赤の他人を溺愛してるわけだし」
自分で言って、ちょっとホラーだなと思った。
「ん~、もう血縁かどうかはあんまり関係ないんじゃない? ママって自分が愛した子を、本当に自分の子と思えるタイプだし」
「聖母かよ。おっぱいくれって言ったら、授乳させてくれそうなレベルだったぞ」
「多分二人共まだ出るわよ。ママたちが封印されたのって、出産してからすぐだし」
「…………」
「何想像してんのよエロ村」
酷いあだ名である。
「ママがママとしてやりたかったことをあんたにしてるわけだから、あんたは逃げちゃダメよ」
「お前もやれよ。二人で分担しようぜ」
「無理よ、
「逆にヴィクトリアさんは、ガイアがいなくなって寂しいから全力で俺のところに来てるのか」
日が暮れてきたので、俺たちは釣りと話を切り上げることにした。
結局釣果はテミスが釣った一匹だけで、小さな我が家へと戻ると中には誰もいない。
ママたちはどこに行っただろうかと裏手に回ると、直径3メートルほどもある大きな木樽に、水魔法で水を貯めているミーティアさんの姿があった。
「あれ? なにこれ?」
「うふふ、これは風呂樽よ。ヴィクトリアに頼んで、王都で買ってきてもらったの」
「へー、こんなおっきいの売ってるんだね」
昔手洗いで使われていた洗濯桶を、そのままでかくしたようなものだ。
「ここに水をはって、火の魔法石を一つ入れるだけでお風呂の完成よ」
「えっ、嘘、お風呂入れるの? やった!」
当然女子のテミスは喜ぶが、俺はこの時点で少し嫌な予感がしていた。
「ママ、風呂……ちょっとデカくない?」
「皆で入るんだから、これぐらい大きくないと」
当たり前じゃないと嬉しそうに手を打つミーティアさん。
まずい、とうとう風呂まで一緒に入ることになりそうだ。
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