第15話 3:両方だと思う
「その……言いにくいことなんだけどね」
俺が本当の母について聞くと、ミーティアさんが気まずそうに言いよどむ。
空気読み機能が働いた俺は、あっ、これ俺誰の子供でもないなと察した。
しかし意外な事実をヴィクトリアさんが言う。
「誰が本当のママなのか、あたし達にもわかんねぇんだ」
「えっ? どういうことです?」
「ん~とな……あたしたち勇者パーティーは魔王を一度倒した後、今後のことを考えて子孫を作ることに決めたんだ」
「その話はお聞きしています。皆でリーダーの勇者の子を残すことに決めたって」
「おう、そうなんだけどリーダーも女だからさ」
「え?」
さらっと明かされる衝撃の事実。
「勇者パーティーってリーダー含め、全員女だったんですか?」
「ああ、名前はオルトリンデって言って、ずっとフルフェイスの兜被ってたからな。まぁ女が勇者やってるなんてけしからんっていう奴らもいるから、訂正せずに旅してたんだよ」
「そうだったんですか……」
「そんで
「世界樹で子供を作る……?」
木の又からポンと赤ちゃんが生えてくるのだろうか? 全く想像がつかない。
俺が頭に???を浮かべていると、ミーティアさんが捕捉してくれる。
「えーっとね、妊娠したい者同士の魔力を世界樹に送り込むと、光の玉みたいなのが出てくるの。それが赤ちゃんの魂みたいなもので、自分のお腹の中にいれると妊娠するの」
「な、なるほどファンタジーだ」
マンガでもたまにある光の玉妊娠システム。
つまりマルコやガイア達も、そうやって産まれて来たってことか。
「だけど問題が起きて、世界樹からなぜか予定していた人数より、一人多く赤ん坊が出てきたんだ」
「謎の光の玉が出てきたわけですね」
「そう、その予定外の赤ちゃん。つまりお前の魂はオルトリンデが腹の中におさめた。だから、お前を産んだママっていう意味だとオルトリンデが正しい。ただ、あたしたちの中の誰とかけあわさって出来たのかはわからん」
「なるほど、ってことは俺には父親がいなくてママが二人いるってことですね」
「そういうこった」
勇者実は女、Wママ、世界樹出産とわりと凄い話をされたはずなのだが、ファンタジーなのでそういうこともあるだろうと話を飲み込んでしまった。
俺がちゃんと勇者の子であるという事はわかったものの、結局母に関しては不明。
「多分私がママだと思うわ。さ、雪ちゃんマーマと呼んでみて」
ずいっと身と乳を寄せるミーティアさんを、ヴィクトリアさんが引っ張る。
「違う、多分アタシがお前の母だ。あんだけ強い正拳突きができるんだ。あの攻撃力と勇気はアタシ以外ありえん」
「いえ、とても心優しくて、この回復力は間違いなく私の子です」
「あ~ん? ユキはお前みたいにひょろっちくねぇよ」
「それを言えば、雪ちゃんにツノや尻尾がない時点でヴィクトリアは候補から外れるのでは?」
「オルトリンデは
「いーえ、親の魔力を完全に引き継ぐとは限らないわ。雪ちゃんは絶対私の子です」
「いーや、アタシだ」
ママ二人がずいっと乳を寄せ合って、親権を主張しあっている。
「もういっそ雪ちゃんに選んでもらう?」
「それがいい」
お互い証明が出せない以上、結論が俺の元に回ってくるのはわりと自然なことである。
しかしそんなどちらか好きなママを選べみたいな事言われても、選択できるはずもなく。
「あ、あの……勇者パーティーって11人いるって聞いたんですけど。その人達も、もしかしてママかもしれないんですか?」
「そうね……可能性はあるわね」
困ったな、ってことはやっぱり2人共ママじゃないという可能性は残ったままなんだな。
彼女たちの言うように、似ている部分もあれば似ていない部分もある。
「…………外れの可能性を考えてるけど、当たりの可能性だって十分あるよな」
自分の子と信じて疑わない二人のママを見て、俺は困りはてる。
これがゲームの世界なら、俺のママは――
【1:ミーティアママだと思う】
【2:ヴィクトリアママだと思う】
と選択肢を出されているだろう。
この世界がもしヴァルキリーマムのゲームの世界なのだとしたら、この時点で本当のママというのは確定しておらず、ゲームを進めないと誰が血縁になるかはわからない。
こうやって俺が選択肢を選び続けることで、ルートが分岐していくのか?
いや、俺がただのゲーム脳なだけか? ヴァルキリーマムの世界だと俺が思ってるだけだもんな。
前世のことまで考えると、頭から煙が上がりそうな気分だ。
「よし」
決めた。
今までずっと母親がいなかったのだ、多少欲張った提案をしても許されるだろう。
ルート分岐なんか知ったことではない。俺は俺の選びたい道を選ぶ。
「2人ともわかるまでママじゃダメでしょうか? 氷を砕く時は、全員が母親のつもりで砕いてましたし。今まで1人だったので……ママ達と一緒にいたいです」
決意とは裏腹に、人生で初めて甘えたことを言い、俺の頬が羞恥で赤くなっていく。
その答えに二人は顔を合わせると、泣きそうな表情で俺に抱きつく。
「ごめんな、今までずっと1人にさせて。やっと会えたのに喧嘩なんかしてたら嫌だよなぁ」
「一番いてほしいときにいなかったママを許して」
二人は俺の手をとると、至近距離まで顔を寄せ、決意に満ちた表情で頷いた。
「「わたしたちがママだから」」
◇
とりあえずひとまず母親問題は解決(?)すると、二人は唇を尖らせて俺を見やる。
「どうかしました?」
「雪ちゃん、ママによそよそしくないかしら?」
「そうだぞ、ママに敬語な息子なんかいないだろ」
それは偏見だろう。多分親に敬語使う子供も結構いると思うぞ。
「もっとこう打ち砕けて、ママに甘えてみて」
「そうだ、さっきママって言ったよな? もう一回言ってくれ」
「いや、あの、この歳でママというのはかなり抵抗がありまして、母さんではダメなのでしょうか?」
「ダメよダメダメ、絶対子供にはママって呼んでもらうの」
「そうだぞー、アタシはどっちでもいいけど面白そうだからママと呼べ」
早速ヴィクトリアさんの人となりが出ているな。
「ほらほら恥ずかしがらず、マーマと呼んでマーマ♡」
ヴィクトリアさんはわりと冗談で言ってる感があるが、ミーティアさんの方はこれガチで言ってるな。
「ま……ま」
「もっと大きな声で~」
「マ、マ」
「よく出来ました、雪ちゃんママですよ♡」
ミーティアさんは、俺を抱きしめ頬ずりをしてくる。扱いが完全にバブちゃんである。
やばい、ミーティアママは砂糖大盛り系甘やかしママだ。
「ほらほら、アタシにも言ってみな」
交代交代と顔を寄せてくるヴィクトリアさん。
ここまで来たら恥ずかしがってる方が恥ずかしいか。
どうせ誰もいないんだし、多少の恥はかき捨てよう
「ま、マーマ」
「可愛い! アタシの子可愛い! 世界で一番可愛い!」
「雪ちゃんもう一回! もう一回! ママと言って頂戴!」
「マーマ♪」
「マーマじゃねぇよバブ村ぁ」
低い声がして振り返ると、テミスが部屋の扉を半分開け、引きつった顔と白い目で俺を見ていた。
死にたい☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます