第68話 鬼畜

 それから俺はまたベアトリクスさん達の元へと戻り、男騎士側と比べてぬるい体術訓練を行う。


「それでは今日の訓練はここまでとします」


 日が落ちかけた頃、訓練は終了。

 ミーティアさんとヴィクトリアさんは、ボロが出る前に先に着替えて撤退。

 次はサウナかと思っていた時、男看守3人が俺達の前に姿を現した。

 中心に立つ長身筋肉質な看守は、暴力的なことで有名な、感謝せよのケルナグール看守長だ。

 ベアトリクスさんが彼の前に立ち、要件を聞く。


「何か?」

「随分楽しそうにやってんなと思ってね」

「楽しそうです?」

「あぁ、囚人とキャッキャしながらくんずほぐれつって感じでよ。感謝が足りてないんじゃないか?」

「意味がわかりません。執行官からの更生カリキュラムを実施しているだけです」

「カリキュラムね~」


 ケルナグールは俺の前に立つと、なんの前触れもなく警棒で俺の顔をぶん殴った。

 目から火花が散り、一発で気絶しそうになる。


「!? 何をしているのです!?」

「何を? 感謝が足りない顔をしているから感謝を授けているのだ」


 1ミリも言ってる意味がわからん。

 ケルナグールは、また前触れもなく反対側の顔面をぶん殴ってきた。


「んぎ」


 歯を食いしばって耐えるも、額から血が流れる。


「何をしているのです!?」

「右の頬を感謝したら、左の頬を感謝しなさいという言葉があるだろう?」

「そんな言葉ありません! 無意味に傷つけるのはやめなさい!」

「……お前、生意気だな。女騎士は男騎士より身分が下であると、この国の議会で正式に決まっているだろう」


 なんだその無茶苦茶な法は。

 ケルナグールはベアトリクスさんの前に立つと、無造作に彼女の胸を鷲掴んだ。


「人形みたいな無感情な女だと思っていたが、それなりに楽しめそうだな。おい、今晩特別棟へ奉仕しに来い。立場ってのをわからせてやる」


 特別棟に来い。つまり地下の娼館みたいな施設に来いってことだ。

 あそこで奉仕という名の性的行為が行われており、ケルナグールは彼女の体を要求していた。


「ケルナグール様、この女前に奉仕に誘ったことがあるんですけど、のらりくらりとかわしてきたんです」

「ん~? ”御威光の効き”が悪いのか? なぁ女、メスはオレ達の玩具だよなぁ?」


 御威光……デブラの洗脳と見て間違いないな。

 ケルナグールはベアトリクスさんのハイレッグインナーを掴むと、強引に持ち上げて股に食い込ませる。


「…………」

「なんだその噛みつきそうな顔は~? ちゃんと私は玩具ですと言ってみろ」

「……私は……玩具です」

「それでいい。たっぷりその体を犯して、感謝を刻んでやる」


 ケルナグールは獣欲に満ちた目で言うと、彼女の尻を叩いて去っていく。

 ベアトリクスさんの目は諦めなのか、色がなく、本当に人形のようになってしまっていた。


 これは俺の予想になるが、ベアトリクスさんは今まで洗脳にかかったふりをしながらロゼリアさんを守っていた。

 それを続けるには、洗脳者デブラが作った奴隷のようなルールに従うしかなく、ケルナグールの言いなりになるしかない。



 その日の晩――

 本来ベアトリクスさんと一緒に入るはずのサウナは今回はなし。

 彼女は特別棟にある専用の湯殿で体を洗うらしい。

 懲罰房に戻った俺は、ベッドの上で天井を仰ぎ見る。

 本当に今日一日レイさんは帰ってこないようで、夜になっても戻って来る気配はない。 

 もしかしたら監獄島を出て外泊してるのかもしれない。


「はぁ……」


 大きなため息をつく。こうしている間に、ベアトリクスさんがケルナグールに……。


「特別棟にある専用の湯殿って、そういうことだもんな」


 ラブホについてる風呂みたいなもんだろ?

 助けに行きたいが、大前提としてここから出られないし、ケルナグールをぶちのめしたら死刑は免れないし。ほぼ八方塞がりである。

 でも俺の姉ちゃんかもしれない人が、あのクソ野郎にやられるとか耐えられん。


 そんなことを考えている時だった、女騎士がノックと共に部屋に入ってきた。

 切りそろえられた金髪ショート、他の騎士と比べて肉感のある女性は一発でテミスとわかった。しかも彼女の足元にはビーフがいる。


「二人共、よくここまで潜入してこれたな」

「ええ、警備が手薄だったから」

「そんなことよりまずいで兄ちゃん」

「どうした?」

「ロゼリアって囚人、特別棟に連れて行かれたで」

「なに!?」

「男看守が話してるの聞いたけど、今日ケルナグールが特別棟を使うから封鎖されるって。その理由は、ロゼリア、ベアトリクスの姉妹を一晩中犯すからって」

「ふざけやがって」

「あいつ姉妹丼食うつもりやぞ、マジ許せんな!」


 明らかに妬みの入った怒りをぶつけるビーフ。

 テミスもそれを補足してくれる。


「奴は他の看守と一緒に、常習的に女騎士や囚人を輪姦してるわ。あと……」

「あと?」

 

 テミスは言うかどうか、一瞬ためらった後口を開く。


「妊娠した女は殺してる……」

「囚人や女騎士が妊娠したら、男看守が強姦してることバレてまうしな。死んだって処理してまうのが早いで」

「…………」


 テミスとビーフの説明に一瞬言葉を失ったが、すぐに煮えたぎるような怒りが湧いてきた。

 わりと温厚だと自負がある俺だが、腹は決まった。


「よし、とりあえずあいつ殺そう」


 生かしててもなんも良いことしないだろ。

 奴は人の形をしたゴブリンだ。いや、権力を傘に罪をもみ消すから更にタチが悪い。


「言うて兄ちゃん、ここで殺したら騒ぎやで」

「案がある。ビーフ、俺のドリルアタッチメント見つけてくれたか?」

「おう、見つけてるで」


 ビーフはオエッと口の中からドリルを吐き出す。

 唾液が絡んでいて汚い。


「テミス、大至急ヴィクトリアママからミルク貰ってきて。あとエルドラママからスマボも借りてきて」

「わかったけど、どうする気?」

「穴掘って、地下から特別棟に入る。ビーフ用意しなきゃいけないものがあるから手伝って」

「おう、姉妹丼阻止や」


 なんならレイママとの親子丼狙ってる節もあるしな。

 NTRエンドなんか絶対させないからな、覚悟しろ。

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