第67話 刑務訓練

 俺はミーティアママとヴィクトリアママの二人に見られながら、ベアトリクスさんと訓練を行っていた。

 内容は昨日と変わらず、彼女をおぶったままスクワットや腕立て伏せ、戦闘体術訓練だ。


「これでどうです?」

「うぐぐぐ」


 ベアトリクスさんの乳フォールドに手も足も出ず、腕を叩いてギブを示す。


「軟弱ですね……」


 相変わらずの冷たいお言葉。しかしイントネーションがどこか笑っているように感じる。

 するとその様を見ていたママたちがそわそわとしている。

 どうやらこの厳しい訓練を、イチャついていると勘違いしたらしく、自分たちもやってみたいようだ。


「あの、私もやってみたいのですが?」

「司教様がですか?」

「はい、これでも鍛えておりますので」

「そうですか……では、一度お着替えを。その僧侶服は動き回るのに適しておりませんので」


 べアトリクスさんに連れられ、ミーティアさんは着替えの為詰め所へと入る。

 ほどなくしてミーティアさんは、女騎士が装備しているインナーと鎧を纏って戻ってきた。


「う、うわぁ……」


 競泳水着みたいな黒のインナーのサイズがあっておらず、ミーティアさんの格好は胸部装甲がはち切れそうになっている。

 ウォーリアーや騎士が着ていると様になるが、筋肉質じゃない魔法職が着ると卑猥さが勝る。


「では、参ります。ルールは先程と同じ、地面に倒して3秒間フォールしたら勝ちです」


 俺はミーティアさんと向かい合って構える。

 こうやって僧侶のママと近接格闘で対峙する経験はなく、実際彼女がどの程度の強さなのかわかっていない。

 RPG的な経験則からいくと、ヒーラーは物理格闘に弱いというのが相場だが。

 思い切って先手必勝でしかけてみる。


「うぉぉぉっ!」


 両手を伸ばしながら俺が力任せに突っ込むと、あっさりと押し倒せてしまった。

 そのままフォールに入り、ミーティアさんの体に覆いかぶさる。

 そこで彼女の胸が、俺の胸で潰れていることに気づいた。


(すごい、巨大プリンを押しつぶしているような感触が……)


 うっすい水着みたいなインナーなので、余計に感触を感じてしまう。

 いかんいかん、何を不埒なことを考えているのだ。

 油断をしていると、今度はミーティアさんが横回転して体勢を入れ替えてきた。


「えぇい♡」

「ぐおっ」


 俺の下で潰れていた巨大なプリンが、今度は上からのしかかる。

 押しのけようとしても、この軟体物質が無駄無駄と形を変えて覆いかぶさってくる。


「えい♡ えい♡」

「ぐおお」

「3,2……」


 抑え込んでベアトリクスさんのカウントが2秒経つと、ミーティアさんは不自然にフォールを解除してくれる。

 絶妙に手を抜いてくれているようで、押さえられては解除、押さえられては解除を繰り返す。


「3、2……」

「このっ」


 胸を思いっきり持ち上げてフォールを解除する。

 これもう10回目なので、そろそろ八百長とバレてもおかしくない。

 すると、ウズウズしていたヴィクトリアさんが乱入してきた。

 その目は明らかにミーティアばっかずるいと言っている。


「男なら2対1でも大丈夫だよな?」

「え、ええ、もちろん」


 ミーティア、ヴィクトリア VS 俺。

 普通にやりあったら2,3回転生しても勝てないと思うが、そこは二人共八百長してくれる。


「うぉぉぉぉ!」


 ヴィクトリアさんに体当たりして、胸に顔を埋めてみるもびくともしない。

 両肩を押され、反対面にいるミーティアさんに抱きつくようにして倒れる。


「きゃっ♡」


 下になったミーティアさんの胸のクッションで衝撃は吸収される。

 更にその上にヴィクトリアさんが覆いかぶさってきた。

 前に胸、後ろに胸とママパイのサンドイッチ化して、身動きがとれない。


「どうだ、おらおら」

「がんばって♪」

「ぐおおおおピンチだー(棒)」


 どっからどう見ても八百長なのだが、ベアトリクスさんもこれでフォールカウントとっていいのか? と困惑気味だ。

 その後体勢が入れ替わって、ヴィクトリアさんが下になったり、二人で覆いかぶさってきたりと、イチャついてるようにしか見えない状況が続く。


 30分ほどして、見るに見かねたのかベアトリクスさんがパンと手をうって、俺達を引き離す。

 やばい、さすがにバレたか?


「囚人番号0721、あなた女性を攻撃できないですね?」

「ギク……いや、でも押し倒したり、押しのけたり攻撃してましたよ?」

「押し倒すだけで、以降積極的な攻撃ができていないです。押しのけるというより、女体の下でもがいてるだけですし」

「ギク」


 ベアトリクスさんに、あっさりと俺の弱点を看過されてしまう。


「刑務訓練は、出所後にギルド等でやっていける体術スキルを習得させることが目的です。課題があるなら、それに取り組んだほうが良いです」


 俺今のところ、死刑か終身刑の二択と言われているのですが、スキル覚える意味あるんでしょうか。


「そう言われましても、女性を攻撃するのはどうにも抵抗が」

「あなたは女の盗賊や暗殺者に出会った時、無条件に殺されるつもりですか?」

「いえ、さすがにそういうわけでは……」

「これはもう慣れ以外にありません。ここから我ら3人で攻撃します」


 それってつまり、ベアトリクスさんも混じるってことか?

 ミーティア、ヴィクトリア、ベアトリクス VS 俺。


「わかりました。俺も真の平等主義者として、女性をグーで殴れる男になります」

「言葉だけで聞くとクズですね。始めます、今回からフォールカウントは無効で、ギブアップのみのエンドレスとします」

「望むところです、行くぞ!」


 俺はうぉぉぉぉ! と突撃するが、あっさりと組み伏せられた。

 やっぱりパイには勝てないよ。



 訓練が3時間ほど経った後、一旦の休憩を挟んだ。

 ミーティアさんたちは、久々のスキンシップに満足げで優しい笑みを浮かべている。


「すみません、トイレ行ってきます」


 俺は詰め所にあるトイレに入って用を足すと、再び外に出る。

 その時、視界の端にガイアとマルコの姿が映った。

 二人は看守に後ろから見られながら、古くなった監獄の補修を行っている。

 モルタルらしきものをコテに乗せて、壁のひび割れに塗り込んでいると、看守がケツをいきなり蹴り上げる。


「もっと腰を入れてやれ! このウスノロ覗き魔野郎が!」

「か、勘弁してほしいんだな」

「ざけんな、死ねよブタゴリラ」


 看守に罵倒されたマルコが小声で毒づくと、聞こえていたのか看守が派手なラリアットを見舞う。

 マルコは錐揉みしながらふっ飛ばされると、頭からモルタルの中に落ちて、でんぐり返しの途中で止まってしまったポーズでピクついていた。


「うわぁ……悲惨だ」


 男騎士側じゃなくて良かったと心底思う。

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