第69話 この後めちゃめちゃ


 その頃、特別棟地下――


 ベアトリクスとロゼリアは、娼館のような地下室で絶望の再会を果たしていた。

 二人はこれから犯されることを理解していたが、まさか姉妹同時とは思っていなかった。

 だがケルナグールの趣味を考えれば、姉妹同時に手籠めにしてやろうという思想になるのもわかる。


「……どうしてこんなことに」


 ロゼリアはベアトリクスを守るために、デブラの悪事を裁こうとした。

 ベアトリクスはロゼリアが暗殺されないよう、監獄で常に警備していた。

 そんな姉妹の絆が深い二人が、そろって犯されるのだ。


 二人は気まずさからお互い視線を合わさず、淡々と浴場で体を清める。

 そして、用意された赤と青の透けた下着を身にまとう。

 ほとんどヒモで、局部だけを隠すような扇状的な下着。

 ガーターベルトと網のストッキングを履いて、溜息を吐く。

 これが今から自分を犯しに来る男を興奮させるためのものだと思うと、怒りや悲しみを通り越して死にたくなる。

 二人は部屋のダブルサイズベッドに腰掛け、男が来るのを待つ。

 勿論部屋の中に避妊具の類はなく、子宮の中まで汚されることはわかっていた。

 彼女たちには妊娠するなと祈る以外他にないが、一晩中獣欲を注ぎ込まれればそれも無駄だろう。

 ケルナグールは恐らく、そう願う彼女たちの心情も理解した上で尊厳破壊を愉しむことであろう。


「姉上……正義とは……なんでしょう?」

「……気をしっかりともちなさい。生きていれば……」


 その後に続く言葉が出ない。生きていればなんなのか? 報われるとでも、妹に声をかければいいのか。

 正しいことをしようとして監獄にぶち込まれ、挙げ句このような格好をして、男を悦ばせるようなことを無理やりやらされる。

 これで本当に生きていて良かったと言えるのか。

 彼女たちが絶望に暮れていると、何かが耳に聞こえてくる。

 チューンという、謎の機械音。


「姉上、何か音が」

「ここは地下ですよ? 音が響くはずが……」


 なんだろうかと首をかしげている時だった。

 地下室の扉が開き、下卑た笑みを浮かべたケルナグールが入室してきた。

 音なんかどうでもいい、今からこの男に暴力の限りをつくされる。その運命はかわらない。


「フフフ、良い体だな。孕ませがいがある」

「「…………」」

「あまり怖い顔で睨むな。そういったのも嫌いじゃないが、良いものを用意した」


 ケルナグールは、チェストボードの上にピンク色の液体が入った瓶を置く。

 蓋を開くと、すぐに桃を煮詰めたような甘い香りが漂う。ベアトリクスは、すぐに匂いの正体に気づいた。


「エルフの媚薬……」

「その通り。夜もふける頃には、自分から腰をふる雌犬に成り下がってるはずだ。感謝しろ」


 二人はどこまで人をバカにすれば気が済むのかとケルナグールを睨む。

 体は犯されても、せめて心だけは高潔であり続けることが最後の抵抗だったが、媚薬まで使われ心まで支配されることになるとは思わず、目尻に涙が浮かぶ。


「ベア、泣いてはいけません。奴を悦ばせるだけです」

「そのとーりだ、泣くならもっと声を上げて泣け。その泣き声もすぐに喘ぎ声にかわるけどな。さて……お前ら天国に連れて行ってやる。感謝しろ」


 ケルナグールは看守服を脱ぎ、上半身裸になって二人へと近づくと、右手をロゼリア、左手をベアトリクスの胸に乗せる。そして丸い胸が、瓢箪のようにひしゃげるくらい強くわし掴んだ。


「へへ、姉妹揃って爆乳じゃないか。孕んだ女は皆殺してるが、お前らは生かしておいてやってもいい。ボテ腹騎士として、囚人たちに視姦されろ」


 優しさなど1ミリもない手に、二人は体を強張らせる。


「おら舌を出せ」


 二人が無視していると、ケルナグールは二人の頬を赤くなるほどひっぱたく。


「イラつかせんじゃねぇよバカ女。殺すぞ?」


 抵抗もできず、彼女たちはおずおずと舌を伸ばす。

 ケルナグールは満足げに二人の顎をつかむと、自分の舌を伸ばす。

 

 舌と舌が触れ合う、その寸前――ベッドが軽く揺れる。


「なんだ? 地震か」

「何か地面から……くる」


 突如床がベキベキと音をたてて割れ、大きな穴が開く。

 そこから顔を出したのは――



「おぉビンゴ、さすが俺」


 俺はピースメーカーのドリルアタッチメントを使って、懲罰房から穴を掘り、特別棟の地下へとやってきた。

 もちろん普通にやっても、そんなに早く掘り進むことはできないが、ヴィクトリアさんのミルクを飲んで力の紋章の加護を受けることによって、わずか10分足らずで掘ることが出来た。

 泥まみれの俺が顔を出すと、タコみたいに唇をすぼめたキモいケルナグールと、ポカンとした表情のロゼリアとベアトリクス姉妹の姿があった。


「ワオ、エロい下着。ってかくっさ、なにこの部屋。甘ったるくて吐きそう」

「貴様、どうやってここに!?」

「穴掘ってだよ」


 俺は義手から換装した右手のドリルを見せる。

 俺のアイデンティティみたいな武器なのに、長らく出番がなくて悲しかった。


「感謝を邪魔するとは許さんぞ!」

「なにが感謝だレイプ魔野郎が」


 ファッキュー! と俺は凸指をたてる。

 ケルナグールは「今すぐ死刑にしてやる!」と立てかけられていたサーベルを抜くと、こちらに向かって突撃してくる。


「かかってこいや!」


 そう言いつつ俺は反転して即座に穴の中に引っ込むと、懲罰房側へと匍匐ホフクで逃げる。


「逃がすか!」


 穴は俺の体のサイズにしか掘っていない。ガタイの良いお前が、俺より早くに動けるわけがないんだよ。

 俺は懲罰房へと戻ってくると、すぐさま用意していたものを流し込む。

 それはビーフと一緒に用意した大量のモルタル。

 夕方マルコたちが、壁の補修工事に使っているのを見てピンときたのだ。

 これ、穴の中に流し込んだら終わりじゃね? と

 モルタルが流れ込みやすいように、穴はV字型に掘っているのでケルナグールは地下穴で固まって終わりだ。

 しかも一度穴に入ると反転するスペースもないので、進みきる以外にこの穴を出る方法はない。

 俺は躊躇なくモルタルを流し込んでいく。

 自分がモルタルで埋め固められているのに気づいたのか、穴の中からケルナグールの声が響いた。


「ぐわっ、やめろ! こんなことしてただで済むと思っているのか!」

「テメェは地下に埋まって、謎の行方不明者になって終わりなんだよ!」

「ふざけ! ぐあっやめろ! 助けろ!」

「やかましいわ! 犯した女と殺した妊婦に懺悔しながら化石になれ!」


 それからしばらくして、ケルナグールの声は聞こえなくなった。

 一応念の為穴を覗き込むと、モルタルで窒息したらしくケルナグールのHPバーが0になっているのが見えた。

 俺は奴を埋めた穴とは別の穴を掘って、再び特別棟へと向かう。

 今度は別の穴から顔を出すと、二人はまた目を丸くする。


「君はモグラなのか?」

「奴は?」

「追っかけてきた穴の中にセメント入れて埋めた」

「えっじゃあ」

「奴には地中で行方不明になってもらいます。時が来たら俺からレイさんに言いますけど」


 俺は所持していたスマボを取り出す。これには奴がタコみたいな顔で、二人に襲いかかっていた姿が録画されている。

 これは看守が囚人と女騎士に性的暴行をしていたという事実証拠に使えるだろう。

 ただ、今レイさんに出しても、看守の罪は見逃すようになってるから、彼女の洗脳をといてから提出する。


「さて、二人はこの監獄の秘密について知ってますよね? 特にロゼリアさんは、デブラの秘密を暴こうとして捕まったんだから。俺も奴が騎士たちを洗脳していることはわかってます。唯一騎士の中で洗脳がきかない貴方たちに仲間になってほしいんです」


 そう伝えたが彼女たちは何も答えず、呼吸粗くこちらを見つめている。


「あれ? どうかしました?」

「媚薬の……効果で……」


 このくっさい部屋の正体か。

 なぜそんな火照った目でこちらを見つめてくるのか。

 そしてなぜベッドの上でW女豹のポーズなのか。


「君には二度も助けられることになったね」

「礼くらいはしないと……」


 まずい目の中にハートが浮かんでいるのを初めて見てしまった。

 二人はやらしい格好で俺の両サイドを固めると、耳や首を舐め始める。

 あかん、これ始まる奴や。

 そう思っていると、俺が掘った穴からビーフとテミスが顔を出す。


「おいゆきむら、あの看守が埋まってる方の穴は埋めて証拠隠滅しといたぞ。 って……あれ?」

「雪村、大丈……」


 ベット上の俺達と目と目が合う。

 トロンとした目のロゼ&ベア。首筋にはキスマークがついている。


「こら失礼しました、事が終わって事が始まるところや」

「ゆーきーむーらー?」


 阿修羅像の如く、憤怒の表情を浮かべるテミス。

 どうやらR18展開にはならなさそう。

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