第59話 ミーティア式悪魔祓い
ホール内へと入ると、すでに500人以上の囚人が整列させられて立っていた。
中は薄暗い体育館みたいな作りで、一段上がった壇上の上には演台が設置されている。
壇のすぐ下に、手を後ろで組んだ看守が並んでおり警備も万端。
ヤンキー高校の全校集会みたいな列に、俺とラッキーも並ぶ。
10分ほどそのまま待機していると、壇上にライトが灯り、潜入していたミーティアさんが上がってくる。
彼女は俺が頼んだ通り、帯状の目隠しをつけ変装した状態で登場。
かなりうっすい変装なので疑われてもおかしくないが、本人とバレなければそれでいい。
目隠しをつけていても前は見えているようで、彼女はまっすぐ演台の前まで歩くと、キョロキョロと周囲を見渡す。
多分俺を探しているんだろうなと思い、わざとらしく伸びなんかしてアピールしてみた。
すると彼女の顔がパッと明るくなり、こちらに手を振ってきた。
読唇術なんて使えないのだが、明らかに口の形が(雪ちゃんママよ~)と動く。
「ママダメだよ、授業参観にきた母親じゃないんだから」
俺が両手をクロスしてバレるよと促すと、彼女ははっとして、すぐに表情を戻す。
「それでは、わずかな時間ですがお話をさせていただきます」
ミーティアさんが頭を下げると、神の教えを説く説教が始まる。
さすがは世界を救ったことがある僧侶、要約すると人を愛し、花を愛し、生きとし生けるものに感謝し、皆で平和を祈りましょうとわかりやすく話をしてくれる。
「どうか皆さん、人に優しく、自分に優しく、愛をもって生きて下さい」
約40分ほどの説教が終わると、涙ぐむ囚人たちもチラホラ。
「雪村……世界って愛で出来てたんだな……」
ラッキーまでもが泣いている。ママ話うますぎ。
ちゃんと偽の司教になりかわっているので、これでデブラたちにバレることもないだろう。
もう終わりかなと思ったが、彼女は急にコホンと咳払いする。
「え、えぇっとですね、お話は終わりなのですが、これからお祓いを行おうと思います。私は僧侶として、悪い気を持つものがわかります。この中に、その悪い気を持つ人物がいます」
ん? ママ急にどしたん?
と思ったら、彼女はこちらを指さしてきた。
「そこの少年、こちらに……お祓いを行います」
「俺?」
驚いていると、看守にケツを叩かれる。
「司教様がお呼びだ。早く壇上に上がれ」
「わかりました」
列から出て俺は壇上へとあがる。するとママは俺に向かって、大きく手を広げる。
「これより悪魔祓いを行います」
「お祓い? 俺とりつかれてるの?」
「今から私のハグによって、貴方に取り憑いた悪魔を押しつぶす、ハグお祓いを行います」
……斬新なお祓いだな。
言われるまま俺はミーティアさんの前に立つと、彼女は俺の頭をその胸で包み込むように抱く。
「悪しきものよ、この者から出ていきなさい!」
さすがハグお祓い。爆乳によって悪魔ではなく、俺の顔が潰される。
「消えなさい悪魔よ!!」
ミーティアさんは、嘘の悪魔祓いをしながら耳打ちを行う。
(良かった雪ちゃん。こんなところに閉じ込められてるなんて)
(テミスから話聞いた?)
(ええ、聞いたわ。ママもなんとか、この後もここに残れるようにかけあってみるわ)
(わかった。デブラに気をつけて、あいつは多分人の心を操るナニカを使う)
(ええ、気を付けるわ。あぁ雪ちゃん雪ちゃん、なんて可哀想な。いじめられてない? ご飯ちゃんと食べてる?)
(う、うん、まぁまぁ)
マルコとのやりとりは黙っておこう。
(雪ちゃんがいないとママおかしくなりそう)
(俺もだよ)
(毎日眠ってる雪ちゃんにキスするのが日課だったのに)
それは聞いてない。
(雪ちゃんキスしてもいいかしら?)
(ここで!?)
この囚人と看守の見守る中。
ちなみにミーティアママは、俺が少しいなくなるだけで体調が悪くなる重度のムスコンである。
(お願い、次いつ会えるかわからないわ)
目元は目隠しでわからないものの、泣きそうな声につっぱねることもできない。
(い、いいよ)
(ありがとう雪ちゃん。じゃあ舌を入れても大丈夫かしら?)
(それはちょっとダメかな!)
(……ママ残念)
キスくらい親子でもするだろと言いはれるマザコンの俺も、ママとディープは躊躇する。
「では、このモノより悪しき霊よ出ていきなさい!」
ママはお祓いのフリをして俺の両頬に手を添えると、こちらの口にキスをする。
俺はこれがファーストキスなのか? いやでもママだしノーカンか? いやミーティアさんと非血縁だったらファーストかといろいろ思考を巡らせる。
(…………)
(…………)
まずい、ママのお祓いが思ったより長い。口をあわせてすでに3分くらいは経過している。
さすがにこんなことしたら他の囚人にバレる!
しかし
「なるほど、ああやって口から悪霊を吸い出しているのか……」
「魂も死んだら口から出るっていうもんな」
「なかなか出てこないのは厄介な悪霊なのかもしれない」
悪魔祓いを知らない囚人たちは、こんなもんなのだろうと勝手に納得してくれていた。
5分ほどして、ようやく満足してくれたのかミーティアさんは顔を離してくれる。
赤面したその顔はどこか艶っぽく、自身の唇を指でなぞっている。
「ふぅ……」
「あのお祓いはどうなったの?」
「お祓いは失敗しました」
こんだけやって失敗したらしい。
「後ほどじっくりと時間をかけて行いましょう」
「は、はい」
俺が壇上から降りようとすると、急に列で並んでいた囚人の一人が倒れた。
それがマルコだと気づき、俺は嫌な予感がした。
こいつまさかミーティアさんだと気づいて……そう思ったが、マルコはなぜかのたうち回る。
「ぐあああああっ! オレ様の体に、悪魔がとりついている!」
何やってんだコイツ? と白い目で見ていると、奴は一人芝居を始める。
「”ふっふっふっふ、コイツの体はこのオレ、サタンが頂いた。”ぐあっやめろぉぉぉ。”コイツの体はオレのもの。そこの女、いくら司教でもこのオレはお祓いできないだろう”」
マルコはとりつかれる自分と、とりつくサタンの二役を交互に行う。
どうやら先ほどのお祓いを見て、自分も悪魔にとりつかれたらエロいお祓いしてもらえるんじゃないかと思ったようだ。
「く、苦しい! 司教様、どうか救いの手を! ”ふははははこの男はまもなく死ぬだろう、悔しければお祓いしてみろ!”」
とりついてる体殺しちゃダメだろ。アホなのかこの悪魔は。
というか勇者クラスの僧侶であるミーティアさんから見たら、嘘か本当かなんて一発でバレるのによくやる。
ミーティアさんもマルコの嘘に乗っかってくれたのか「まぁ大変」とかけよると、どこから取り出したのか清めの塩をパッパとマルコにふりかける。
「これで悪魔は去りましたよ♪」
マルコは思ってたのと違うと顔をしかめる。
「……あの、悪魔の吸出しとかやらないんですか?」
「あれはちょっと特別な人にしかやらないスペシャルお祓いなので」
テレテレと赤面するミーティアさん。
マルコは押しが足りないと思ったのか、更に苦しそうにする。
「ぐああああ心臓が! 全然お祓いできていない! ”ぐはははこいつの命はあと1分だ。それまでにお祓いできなければこいつは死ぬ。”あぁ司教様、どうかオレ様にもスペシャルお祓いをお願いします!」
一人二役で忙しい奴だ。
ミーティアさんも、明らか嘘なマルコを見て困った表情を浮かべる。
「仕方ないわね……じゃあ本気の悪魔祓いを行います」
「”なに本気の悪魔祓いだと、サタンのオレでもやられてしまうかもしれない。”司教様、どうかスペシャルお祓いお願いします!」
「じゃあスペシャルな……セイントビーム!」
ミーティアさんが胸の前で十字を切ると、極太のビームがマルコに照射される。
「んぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
聖属性魔法がマルコを貫き、ホールの壁に大の字になって埋まった。
彼のHPが凄まじい勢いで減り、1にまで減少するが1以下にはならない。
恐らく悪魔や悪霊ならこのまま浄化されるのだと思うが、生者に対しては生かさず殺さずの凶悪な魔法になるようだ。
「セイントビーム、上位奇跡魔法の一つでこれを浴びると悪魔は死にます」
そんなエターナルフォースブリザードみたいな魔法は、徐々に光が弱まり消えていく。
照射が終わり、壁の模様みたいになってるマルコは膝から崩れ落ちた。
「悪魔祓い完了です♪」
しょうもない嘘つくからこんなことに……。
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