第58話 敵はどこで会っても敵

 特別棟を出て一旦テミスたちと解散し、俺達は刑務作業の雪かきへと戻った。幸い俺達が戻るのと丁度のタイミングで交代の看守が現れた為、抜け出していたことがバレることはなかった。


「よし蛆虫ども、本日1400時から、司教様のありがたい講演がある。貴様らは昼食後、多目的ホールへと移動せよ」


 看守はそれだけ言い残してさっさと去っていく。

 俺とラッキーは食堂に戻ると、朝とかわらない黒パンと水みたいなスープを受け取ってテーブルをウロつく。


「どうしたんだ、座らないのか?」

「今のうちにビーフの仲間を探しておこうと思って」

「あぁ、マルコとかいう奴だっけ? 知り合いなのか?」

「知り合いというか、敵というか義兄弟というか」

「兄弟なら、そいつらにも脱獄の協力を頼んだらどうだ?」

「無理だ。あいつら死ぬほど俺のこと嫌いだし、絶対協力してくれないと思う」

「さすがにこんなとこに捕まえられたら協力するだろ」

「いやぁ、あいつらはそういう合理的思考する奴じゃないんだよ。ラッキー、もし奴らを見つけても脱獄の話はしないでくれ。知られたら妨害される可能性が高い」

「そんなに仲悪いのか?」

「悪い……ただ、操られたレイさんの目を覚ますには、実子マルコの力が必要かもしれない」


 俺はウロウロと歩き回って、ようやく一見爽やか青年に見えるゲス勇者と、マッチョなんだな戦士を見つける。


「一旦俺一人で様子見してくる」

「わかった」


 ラッキーと分かれ、俺はマルコたちに近づく。


「よぉ、こんなところで何やってんだ?」


 二人は俺を見て、明らかに顔をひきつらせた。


「ゲゲッ、雪村なんだな」

「なんでテメェがこんなところに。失せろ、テメェと同じ空気なんか吸いたくねぇ」


 あまりにも相変わらずで、逆に気を使わなくてよくて安心する。


「まぁまぁ同じ囚人同士仲良くしようぜ。俺のレンガみたいな黒パン半分やるから」

「いらないんだな」

「なれなれしくすんじゃねぇよ」


 全力で拒否されているが、俺は構わず二人の隣に座る。


「お前らなんでここにいるんだ?」

「テメェに話す義理はねぇ」

「もしかしてママに会いに来たのか? レイさんってマルコの実母だろ?」

「そうなんだな。マルコはレイママの持つ、凍氷剣コキュートスをとりに来ただけなんだな」

「凍氷剣? なんだそれ?」

「ヴァルキリーの持つ、アーティファクト武器なんだな」


 ヴィクトリアさんの持つ大斧アルデバランや、エルドラさんの火炎ハンマープロミネンスと同じか。


「ガイア、余計なこと言うんじゃねぇ」

「はっ、しまった。危うく最近勇者として信用されなくなってきたから、アーティファクト武器を所持することで、信用回復を図ろうとしてたことを言ってしまうところだったんだな」


 ガイアがバカで嬉しい。

 こいつが仲間でなくて本当良かった。


「お前、親の武器パクってまでニセ勇者やる気だったのか?」

「オレはニセじゃねぇ」

「母ちゃんの武器パクろうとノコノコやってきたら、ここの騎士団に捕まったってわけか。ちゃんと犯罪じゃねぇか、母ちゃん泣くぞ」

「うるせぇ、テメェには関係ねぇって言ってんだろ」

「マルコ、一つ大事な話があるんだが」

「あぁ?」

「氷柱からこっそりパクるつもりだったのかもしれないが、レイさんの氷、もう溶けてるぞ。彼女この監獄にいる」

「は? 嘘つけ」

「ほんとだ。俺はもうレイさんに会った。でも様子がおかしい、なにかに操られてるようだ」

「どういう意味だ?」

「自分の意識がなく、本人が絶対にしないような行動をとってる。魔法で意識を操作されてるか、薬盛られてるかだと思う」

「だからなんだ?」

「だからなんだって、お前自分の母親が誰かに操られてるかもしれないんだぞ?」

「知らねぇよ。オレはヴァルキリーレイを自分の母親だと思ってねぇ。この話は前にもしたはずだ」

「お前、それでも目の前で母がピンチだったら助けるのが子の……」

「はぁ? オレは助けてもらったことなんかねぇのに、なんで助けなきゃいけねぇんだよ?」

「恩を感じてないから助けないってのはどうかと思うぞ。母親がいなかったら、お前はこの世に生を受けてないんだし。産んでくれたことが一番の恩だろ」

「はっ、凍氷剣差し出したら考えてやってもいい」


 わりといい話したつもりだったが、鼻で笑われ一蹴されてしまう。

 清々しいほどにクズだなコイツ。


「ここで助けたら、レイさんはお前の母として今後頼れる存在になるかもしれないだろ。人は皆一人じゃ生きていけないんだ、お前も母に思いっきり甘えたいときも――」

「そんなもんいらねぇっつってんだろ! 欲しいならテメェにくれてやるよマザコン野郎。一生ママの乳にしゃぶりついてろ」


 言われなくてもそうするけどさ……。

 苛立ったマルコは俺のトレイを腕で払い除け、ガシャンと音をたてて床にスープと黒パンが散らばる。

 皿が割れる音に看守たちの目が光り、警棒片手に近づいてきた。


「すんませーん、こいつがいきなり暴れ出して皿割りましたー」

「おまっ!」

「ぐふふ、ざまみろなんだな」


 罪を俺になすりつけた二人は、落ちた黒パンを靴で踏みつけてから食堂を出ていく。

 ほんとお前らがちゃんと嫌な奴で安心するよ。

 俺は食事を粗末にした罰で、看守から腹パン10発を貰い、散らばった食事の掃除を行った。



 それから食事抜きで、俺とラッキーは多目的ホールへと向かう。


「遠目で見てたが、お前とあいつらが仲悪いことはよくわかった」

「俺はあいつらに故郷の村を焼かれたし、あいつらは俺に勇者のポジション奪われたと思ってるからな」

「根が深そうだな」

「時間ある時に説明する」


(オイ、お前ら!)


 声が聞こえてふりかえると、豚のふりをしたビーフがホール脇のトイレから顔を出していた。

 俺達は人目がないことを確認してトイレに入る。


「よぉ相棒、調子はどや?」

「お前に相棒呼ばわりされるのは抵抗がある。まぁマルコとガイアは見つけたよ」

「おっ、ほんまか?」

「でも、俺あいつらと仲悪くて協力とかしてもらえる雰囲気じゃなかった」

「そうか残念やな。今度あいつらの閉じ込められてる牢屋の番号調べといてくれんか? ワイが直接訪ねるさかい」

「わかった。そうだ、ミーティアママに講演を行う時、変装してくれって言っといて。マルコとガイアにバレると、看守にママたちのことバラしそうだ」

「わかった言うとくわ。ワイはこれからちょいちょい現れて、お前らとママさんの伝達役やるから。なんかあったらワイに言うてくれ」

「バレないように気を付けてな」

「任せとけ。そんじょそこらの飼いならされた豚と一緒にすんなよ」


 ビーフはブーブーと、完璧な豚の偽装をして去っていく。

 あれを見破れる人間は少ないだろう。

 俺達はミーティアさんの講演を聞くため、ホールへと入った。

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