第30話 ドリルガチ勢

「何者だお前たちは?」


 ドアの前で待ち受けていた、二人のドワーフ女性。

 ツルハシを担いだ背の高い方が近づいてきて、俺を見下ろす。

 髪は短髪でサラシに包まれた胸と、シックスパックの腹筋、丸太のような腕には紅蓮天女とタトゥーが掘られている。


「天女って……こんなのゴリラじゃないか……」

「あぁん? なんか言ったかチビ?」

「いえ、なにも言ってません。あの失礼ですが、ドワーフ族の方ですよね?」

「どっからどう見てもドワーフの女だろうが」


 どっからどう見ても、ゴリ……トロル……。

 俺はここに来た事情を、門番のドワーフ二人に説明する。


「俺たちは勇者の封印をときに来たんです」

「封印? 総長のことか?」

「総長?」

「総長って言ったらエルドラさんのことだよ! わかるだろ!」

「わかりますわかります!」


 怖い、ぶん殴られるかと思った。

 すると背の低い方のドワーフが、手のひらサイズの映像記録魔石板スマートホログラムボード、通称スマボを取り出し、指で板をツイツイと操作する。

 彼女は石板を見ながら、ミーティアさんとヴィクトリアさんの周りをグルグル回る。


「あぁ、この二人勇者の紋章あるっすね」


 彼女は石板をこちらに向けると、板にはミーティアさん達の過去の写真が映し出されていた。


「ピーチ、こいつらマジで総長の昔の仲間ダチっぽ」

「マジかよ。でも総長のダチって、皆氷漬けにされたんじゃなかったのか?」

「ともかく姐さんに聞いてみる」


 ちっさい方のドワーフは、スマボでどこかに連絡を取り始める。

 そんなことより、あのゴリさんドワーフの方、名前ピーチって言うの? 可愛すぎない?


「あっ、どうも、こちら東ゲートのパインなんすけど、総長のダチが来てて。はい、紋章照合しました。間違いなく本人っス。総長に会いに来たみたいで、通していいっスか? ……はい、はい、わかりました」


 通話を終えると、ちっこい方のドワーフパインは、こっちを見ながら扉を親指で指す。


「本人確認がとれてる戦士と僧侶は通っていいって」

「俺たちは?」

「お前たちはダメっす」


 マジか、まさか門前払いをくらうとはと思っていると、ミーティアさんが食い下がる。


「封印解除には、ウチの子のドリルが必要なんです」

「ドリル?」


 俺は右手のピースメーカーを見せる。

 見たこともない装備に、ピーチとパインは慄く。


「な、なんだこれは……?」

「このドリルで封印の氷を砕くんです」

「「お、おぉ……かっこいい」」


 ピーチ&パインは、チュィィィンと回転するドリルを見て目を輝かせる。

 ゴリラドワーフのピーチが、ドリルと腕がくっついていることに気づき、驚きの声を上げる。


「お前、腕にドリルを移植しているのか!?」

「えぇ、まぁ」

「そうなんです、この雪村ってば採掘が好きすぎてドリルガチ勢なんです」


 テミスが適当なことを言うが、二人はそれを真に受ける。


「マジでやべぇよパイン。コイツ腕切り落としてドリルくっつけたってことだろ」

「き、気合入りすぎだろ。ドリルガチ勢……アタシらでもそんなことできねぇ」

「まぁ産まれた時からついてたんですけどね」

「「産まれた時から!?」」


 この話を聞いて、パインが再び連絡を取る。


「姐さん、東ゲートです。かなりやばい男来てます。右手がドリルになった男で……採掘ガチ勢です。はい、はい、フカシじゃないです。本当です。写真送ります」


 俺はパシャパシャとスマボで右腕の写真をとられ、再度通話が行われる。


「はい、マジです。つなぎ目とかないです。本気で右腕トリル男です。総長のダチの話によると、このドリルで封印がなんとかなるそうです。はい、はい……わかりました」


 通話を終えると、彼女は俺に頷く。


「許可が出た。お前も入って良い」

「ありがとうございます」

「あ、あたしは?」


 テミスが自分を指差す。


「お前はダメだ」

「えぇなんで!?」

「なんでじゃねぇんだよ! 気合が足りねぇんだ! それともお前、このドリル男のスケか?」

「違うわ――」


 音速で否定しようとするテミスの口を押さえる。


「はい、俺のスケです」

「なんだお前のスケかよ。じゃあ入っていいよ」

「えっ、軽っ……」


 なんとなく彼女ら、よそ者にはめちゃくちゃ厳しいが、身内には甘い気がしたのだ。

 ヤンキー同士でよくある、ダチのダチはダチみたいな感覚だろう。今回はダチのスケはダチだけど。


 俺たちが扉をパスすると、今度は金メッキたちの前で門番が立ちふさがる。


「お前たちはダメだ」

「なんでザマスか!? ミーもあいつらのダチザマス!」

「そうなんスか?」


 パインに聞かれて俺は首を振る。


「いや、エレベーターでたまたまあっただけの人」

「ムキー、本当のことを言うなザマス!」


 そら知らない奴なんだから梯子外すだろ。

 ピーチは、下がれと金メッキを押しのける。


「お前ら、以前来た宝石商だろ。その話は決裂したはずだ。アタシらは、お前たちに金属を卸さない」

「今日はシンメッキ商会オーナーのミーが直接来たザマス! もう一度話をするザマス!」

「ダメっス帰れっス」

「あんな化け物に襲われて、ノコノコ帰れるわけないザマス!」

「化け物?」

「エレベーターで出てきた触手おばけザマス!」

「あぁ【石喰い】か。奴に襲われたくないなら、さっさと引き返せ」

「嫌ザマス! いいザマスか、こっちはお前らみたいな学のないバカドワーフから、金を払って買ってやろうと言っているザマス! こっちが優しくしているうちに応じないと、ミーのバックにいる【呪印ルインズ商会】が黙って――」


 金メッキがギャーギャーと騒ぎ立てていると、ピーチはツルハシを足元に叩きつける。

 あわや叩き潰されていた一撃に、金メッキは腰が抜ける。


「ひぃっ!」

「失せろ人間。次はお前の頭を潰すぞ」

「……くそっ、ミーは諦めたわけじゃないザマス!」


 走り去る金メッキと護衛達。

 その様子を見て、テミスはため息をつく。


「やっぱり変な奴らだったわね。雪村、雪村?」

「ん、なんだ?」

「汗酷いわよ」

「暑いしな」


 俺は金メッキが口にした、ルインズ商会に心当たりがあって動揺していた。

 ルインズ商会とは悪名高き奴隷商会であり、サンド地方を拠点とする闇組織である。

 そこは昔、俺が奴隷として囚われていた商会だった。


(他国まで逃げれば大丈夫だと思ってたのに、こんなすぐに遭遇するなんて……)


 俺の背中に刻まれた、奴隷商のムチの記憶が蘇り、傷はもう治っているはずなのに痛みが再燃する。

 頭の中に、奴隷商の吐き気のする笑みがフラッシュバックしてくる。


「くっ……テミス、後ろからおっぱい押し付けてもらうことできるか?」

「できないけど?」


 くそっ、一応スケ設定なんだからやってくれよ。

 後でママにやってもらおう。

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