第31話 ゴートゥーヘル号

 金メッキが追い返された後、俺達は門番と共に扉をくぐる。

 するとそこには広陵とした地下空間が広がっており、熱気と硫黄の臭いが立ち込めていた。


「地下大空洞って奴か……暑いな」

「地下火山があるっスから」


 パインが指差す先を見ると、そそり立つ剣のような地下火山が見えた。

 しかも頂上部分から、真っ赤なマグマが流れ出ている。


「あれは大丈夫なの? 燃えないか?」

「アタシたちドワーフ族は、採掘と鍛冶の民族だ。熱い炎がある方が、良い武器が作れるんだぜ」


 理屈はわかるが、マグマが流れる火山の隣に街を作ってしまうとは。


「地下都市マグマンまでは、ここから1キロくらいあるが、このゴートゥーヘル号に乗っていけばすぐだ」


 ゴリドワーフのピーチが、エンジン付きのトロッコを押してくる。

 遊園地のアトラクションみたいなトロッコは、前部に電灯、後部に蒸気エンジンが積まれている。

 俺たちがゴートゥーヘル号に乗り込むと、ピーチはリコイルスターターを引いてエンジンをかけてくれる。

 するとトロッコは、排気管からプシュプシュと白い煙を吐きながらレールをゆっくり進んでいく。


「街についたら姉御に顔出しな。悪いようにはしねぇ」

「姉御?」

「マグマンのヘッドなんで、多分街のテッペンにいるっス」

「わかった。ありがとう」


 門番に見送られ暗いレールを進むと、遠目に見えていたそそり立つ地下火山が近づいてきた。

 人差し指を天に突き出したような岩山からは、指先から血液みたいに真っ赤な溶岩が垂れ流れている。

 次に見えたのは巨大な光のシェルター。その光の繭の中に、地下都市マグマンらしき影が見える。


「なんだあの光のドーム」

「あれはね、地下都市マグマンを守る魔力障壁装置グラズヘイムよ。あれがバリアになって、落石やマグマから都市を守ってくれるの」


 ミーティアさんの解説にへーっと学びを得る。

 どうやらあのシールドがあるから、マグマンが地下に存在することができるようだ。

 トロッコはゴトゴトと揺れ、加速しながらグラズヘイムへと近づいていく。

 俺は光の障壁が迫ってきて、あることに気づく。


「あのバリアって岩石とかを防ぐんだよな? レールはこのまま中に繋がってるけど、俺たちあのバリアにぶつからないか?」

「人体には無害なんじゃないの? あっ、ちょっとあれ見て」


 テミスが俺たちの前を飛んでいたコウモリを指差す。

 コウモリは光の壁に衝突すると、ジュッと音を立てて消し炭になった。


「本当に大丈夫か!? 俺たちもジュッってなるんじゃないのか!?」

「ちょっと待って、ゴートゥーヘル号ってそういう意味なの!?」


 その時俺は、トロッコの左右にハンドルがついていることに気づいた。


「グラズヘイムに入る前に、このハンドルを回してね。じゃないと障壁にぶつかって死ぬよ……」


 ハンドルの上に書かれた、ドクロマーク付きの注意書きを読み上げて、俺たちは顔が青くなる。


「回して!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺が全力でハンドルを回すと、トロッコ後部からオープンカーみたいな屋根が上がってきた。


「早くして!!」

「お前も反対側のハンドル回せよ!」

「「ふおおおおおおおお!!」」


 俺とテミスは、人生でこれ以上早くハンドル回すことはないだろうというスピードで回すと、なんとか屋根が完成。

 すると屋根からトロッコ全体を覆うバリアが展開される。

 トロッコはそのまま障壁内に突入すると、なんとか無事通過することができた。


「危なかった。危うく死んでたところだ」

「めちゃくちゃバテたわ……」


 地下都市マグマンの中に入ると小さな駅に停車。

 トロッコから降りて天井を見上げると、驚くことに空と陽射しがあった。

 どうやらドーム状のバリアに、外の映像を投射しているらしく、地下なのに外にいる気分だ。


「はぁ~、ドワーフ族の技術って凄いんだな」


 街の中に入ると、ドワーフ族の街というのは一戸建てが連なってできるのではなく、でっかい山をくり抜き、そこを住まいに改造した岩山マンションという感じだ。

 岩山都市内ではいたるところでマグマを利用した鍛冶が行われており、カーンカーンという金属を叩く音が響く。

 山の頂上にアクセスしやすいように、蒸気ゴンドラが整備されており、ツルハシを担いだドワーフたちが上へと上がっていく姿が見える。


「すごっ」

「鍛冶だけじゃなく、何か機械も作ってるわね」


 テミスの視線の先に、複雑な歯車や蒸気エンジンが取り付けられた二輪のバイクが見えた。

 無骨な鉄のボディには、真っ赤な炎のペイントがされており、タイヤはオフロード用で分厚い。

 後部には紅蓮天女と書かれた、のぼりがとりつけられている。


「まんま暴走族では?」


 俺たちは姉御と呼ばれる族長を探すため、岩山都市の頂上を目指す。

 全員でゴンドラに乗り込み岩山を登っていくと、マグマンの中にある施設を一望することができた。

 溶岩を利用した武器屋、防具屋、バイク屋、バイク屋、車屋、バイク屋。


「バイク屋多くない? マグマンのドワーフ、ほぼ走り屋なんだけど」


 バイク作っても、この地下空間だと気持ちよく走れないだろ。


 数分後、ゴンドラは頂上階に到着。

 すると丁度住居スペースから、族長らしき女性が外に出てきたところだった。

 見た目は身長130センチくらいで、外ハネのロングヘア。

 安全ヘルメットを頭に被り、黒のタンクトップに作業ズボン。

 褐色の肌をしたワイルド姉さんという風貌だ。


「あっ、もしかして姉御さんですか?」


 タンクトップから零れ落ちそうな胸に視線がいっていると、テミスからショートエルボーを喰らう。


「あん? いかにも、我が名はドワーフ族族長パイアだ。お前らがパインの言っていた人間か?」

「そうです、封印をときに来ました」

「封印をねぇ……。まぁいい、ついてきな」


 俺たちはパイアさんに連れられて、採掘用のバギーに乗せられマグマンを出る。

 そして岩山がたくさん並ぶ採掘地帯へとやって来た。


「ここだ」


 バギーが止まったのは、赤茶色だらけの鉱山の中で目立つ、銀色の山だ。

 俺たちが銀山へと足を踏み入れると、その美しい光景に息を呑む。


「すごっ……一面鏡みたい」


 銀山はそこかしこに銀色の鉱石が埋まっており、それがミスリル鉱石なのは言わずともわかった。


「すごい……全部鏡みたいで綺麗」


 自分の姿を反射する鉱石を見て、テミスが感嘆の息を漏らす。


「動けないから、せめて綺麗なところに置いてやろうと思ったんだ」


 パイヤさんは、死んでしまった子供をせめていい場所に弔ってやりたいと願う、子を失った親のような表情を浮かべる。

 俺たちは彼女と共に、ミスリル銀山内に取り付けられたゴンドラに乗り頂上を目指す。


「エルドラはてっぺんが好きな子でな。氷柱は頂上に置いてあるんだ」


 いよいよエルドラママと対面か。

 俺のドリルで壊せればいいが……。

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