第29話 思ってたのと違う

 マンティスに勝利した俺たちは、マンティスの白カマを戦利品にして先に進む。

 それから数時間後、迷いの森を抜け平地を行くと、分かれ道にさしかかった。


「えー、こっから右に行けばクリスタルフロストで、左に行くと地下都市マグマンか」


 右方向を見ると、白い雪を被る山々が見えている。

 遠目からでは普通に見えるので、ライフエナジー減少による影響はわからない。


「ママ、何かおかしな点とかあるかな?」

「そうね、大気中の魔力は、マグマンもクリスタルフロストもどちらも乱れてるわ」


 ミーティアママに調べてもらった結果、どっちもおかしいと。


「そうなると、距離の近いマグマンからかな」


 遠くの方にぼんやりと見えるクリスタルフロストと違い、マグマンは地下に潜らないと状況すらわからないし。

 俺たち4人は、マグマンの入口があるトンガ鉱山へと向かうことにした。



 1時間ほどかけてトンガ鉱山へと到着。

 打ち捨てられた採掘器具が転がっており、この鉱山は採石が終わっているのか人の気配はない。

 少し探索するとドワーフ族が掘ったと思われる、トンネルを発見。

 入り口の枠は腐食しかかっていて、本当にここから入って良いのか心配になる。


「ここがトンガ鉱山か」

「この採石場から地下へと入っていけるのね」

「らしいけど……暗いな」


 トンネル内へと入ると、すぐに光がなくなる。

 俺はランタンに火をつけると、ボヤッとオレンジの頼りない光が周囲を照らし出す。


 四人でトンネル内を歩いていくと、古びたエレベーターが目の前に現れた。

 手すりしかないオンボロエレベーターは、深い縦穴を降りていくらしく、真っ暗で底が見えない地下に向かってワイヤーが伸びている。

 備え付けられた操作盤は通電はしているようで、緑の光が灯っていた。


「これで下に行くのかな」

「大丈夫これ? 途中で止まったりしない?」

「どっちみち、これに乗らないと行き止まりなんだから」


 エレベーターに乗り込もうとすると、後ろから声をかけられた。


「待つザマス」


 振り返ると、ターバンを頭にまいた身なりの良い貴族風の男と、護衛らしき二人のマッチョ傭兵の姿があった。


「ミーも乗せてくれたまえ」

「あなたは?」

「ミーの名はキンメッチ・カネクレー。大手の宝石商ザマス」

「金メッキ金くれ?」

「キンメッチザマス! 失礼な奴ザマス!」


 あまりにも胡散臭い金メッキに、テミスがポンと手を打つ。


「あぁ、あたし聞いたことある。サウスサンド地方にある大きな貴金属店がシンメッキって」

「その通り、こう見えてミーは金持ちザマス」

「へー凄いんだ。そんな富豪がなぜこんなところに?」

「宝石の取引ザーマス。ここの地下にあるマグマンで、ミスリル銀鉱が見つかったと噂を聞きつけたのザマス」

「ミスリルって鏡銀鉱キョウギンコウってやつだよな」

「その通り。鏡の銀と言われるくらい綺麗な金属で、魔抗能力が高く装備にしてヨシ、アクセサリーにしてヨシの優れた金属。ミーはそれの買付にきたのザマス」

「なるほど、俺たちは――」

「ノンノン、ミーはユーたちに興味ナッシング。タイムイズマネー、時は金なり。ユーたちの無駄な話は結構ザマス」

「そ、そうですか?」


 俺たちは変な人だなと思いつつ、全員がエレベーターに乗り込み降下スイッチを押す。

 するとゴゴゴガタガタガタと、不安になる音を立てながら下へと降りていく。


「…………長いな、このエレベーター」

「もう5分くらい降りてるわね」

「ドワーフが馬鹿みたいに地下を掘り進めるからザマス」


 それから更に5分程して、急に地響きが響く。


「なんだ? 地震か?」

「地面の中で地震とかありえるの?」


 エレベーターの中で地震とか最悪すぎる。

 俺がぐらついて倒れそうになると、ヴィクトリアさんがしっかり抱き寄せてくれた。


「これ地震も嫌だけど、モンスターだったらもっと嫌ね」

「地中に出てくるモンスターなんて精々モグラくらいじゃ――」


 だがテミスの嫌な予感があたり、下降中のエレベーターの壁面に大きな穴が空いて、そこから3本の触手が飛び出してきた。

 ヌメヌメとした気持ちの悪い触手は、金メッキの護衛の首と胴体に絡みつく。


「う、うわ! なんだこれ――」


 助けようと手を伸ばすも、護衛は触手に持ち上げられ横穴に引きずり込まれていく。


「た、助けてくれ!」

「この野郎!」


 ヴィクトリアさんが戦斧で触手を三本まとめて叩き切ると、ピギィっと悲鳴のような声を上げて、千切れた触手が横穴に引っ込んでいく。


「な、なんなんザマスか、あの生物は!? ミーは聞いてないザマス!」


 エレベーターが地下に到達すると、全員慌てて外へと出る。


「意味がわからん! いきなり横穴があいたと思ったら、触手が伸びてきて人をさらおうとしたぞ!?」

「多分ミルワーム系のモンスターだな。地中を潜航して、獲物を探す怪物だ。目がないんだが、耳が発達していて地中の音を聞いて襲ってくる」

「じゃあもしかして、エレベーターの駆動音で寄ってきちゃった?」


 テミスの予想にヴィクトリアさんは頷く。


「その可能性は高いな」


 地下にはそんな恐ろしいモンスターがいるのかと思いつつ、トンネルを抜ける。

 すると出口と思われる扉を見つけるが、そこにドワーフ族の女性が二人立っているのが見えた。


「検問かな」


 一人は村長の言っていた通り身長は低く、黒マスクに巨乳をサラシで巻き、下は作業ズボン。目つきが鋭く、コンパクトらしきものを見ながら化粧をしている。

 もう一人は身長が180センチくらいあって、むき出しの二の腕は筋骨隆々としている。最初男のドワーフなのかなと思ったが、口紅をしているし胸にはサラシを巻いているので女性のようだ。

 身長が高いドワーフは、肩にでかいツルハシを担いでおり威圧感が凄い。

 よくよく見ると二人のズボンには【採掘魂】【鉱石命】と刺繍されている。

 ドワーフ女性二人は俺たちの姿を確認すると、目を細めて睨んできた。


「あまり友好的な雰囲気ではないな」


 というか、俺のドワーフのイメージと違う。

 炭鉱で汚れながら石を掘る種族と思っていたが、あれでは暴走族だ。


「ドワーフ族は人間と一回関係がこじれてるから」

「そうなのか?」

「ええ、人間がドワーフを奴隷扱いしようとした過去があって、そのことが原因で地下に引きこもっちゃったところあるし」


 テミスの歴史話に、俺は少しだけ顔を引きつらせる。


「いきなりぶん殴られるってことないよな? あのおっきいトロルみたいな方にド突かれたら、頭蓋吹っ飛ぶと思うが」

「雪村、あんた通してもらえるよう話して来て」

「話して来てじゃねぇよ、お前も行くんだよ」


 くそっ、現実世界ならあんなヤンキーみたいな奴らに、絶対話しかけることなんかないのに。

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