第29話 思ってたのと違う
マンティスに勝利した俺たちは、マンティスの白カマを戦利品にして先に進む。
それから数時間後、迷いの森を抜け平地を行くと、分かれ道にさしかかった。
「えー、こっから右に行けばクリスタルフロストで、左に行くと地下都市マグマンか」
右方向を見ると、白い雪を被る山々が見えている。
遠目からでは普通に見えるので、ライフエナジー減少による影響はわからない。
「ママ、何かおかしな点とかあるかな?」
「そうね、大気中の魔力は、マグマンもクリスタルフロストもどちらも乱れてるわ」
ミーティアママに調べてもらった結果、どっちもおかしいと。
「そうなると、距離の近いマグマンからかな」
遠くの方にぼんやりと見えるクリスタルフロストと違い、マグマンは地下に潜らないと状況すらわからないし。
俺たち4人は、マグマンの入口があるトンガ鉱山へと向かうことにした。
◇
1時間ほどかけてトンガ鉱山へと到着。
打ち捨てられた採掘器具が転がっており、この鉱山は採石が終わっているのか人の気配はない。
少し探索するとドワーフ族が掘ったと思われる、トンネルを発見。
入り口の枠は腐食しかかっていて、本当にここから入って良いのか心配になる。
「ここがトンガ鉱山か」
「この採石場から地下へと入っていけるのね」
「らしいけど……暗いな」
トンネル内へと入ると、すぐに光がなくなる。
俺はランタンに火をつけると、ボヤッとオレンジの頼りない光が周囲を照らし出す。
四人でトンネル内を歩いていくと、古びたエレベーターが目の前に現れた。
手すりしかないオンボロエレベーターは、深い縦穴を降りていくらしく、真っ暗で底が見えない地下に向かってワイヤーが伸びている。
備え付けられた操作盤は通電はしているようで、緑の光が灯っていた。
「これで下に行くのかな」
「大丈夫これ? 途中で止まったりしない?」
「どっちみち、これに乗らないと行き止まりなんだから」
エレベーターに乗り込もうとすると、後ろから声をかけられた。
「待つザマス」
振り返ると、ターバンを頭にまいた身なりの良い貴族風の男と、護衛らしき二人のマッチョ傭兵の姿があった。
「ミーも乗せてくれたまえ」
「あなたは?」
「ミーの名はキンメッチ・カネクレー。大手の宝石商ザマス」
「金メッキ金くれ?」
「キンメッチザマス! 失礼な奴ザマス!」
あまりにも胡散臭い金メッキに、テミスがポンと手を打つ。
「あぁ、あたし聞いたことある。サウスサンド地方にある大きな貴金属店がシンメッキって」
「その通り、こう見えてミーは金持ちザマス」
「へー凄いんだ。そんな富豪がなぜこんなところに?」
「宝石の取引ザーマス。ここの地下にあるマグマンで、ミスリル銀鉱が見つかったと噂を聞きつけたのザマス」
「ミスリルって
「その通り。鏡の銀と言われるくらい綺麗な金属で、魔抗能力が高く装備にしてヨシ、アクセサリーにしてヨシの優れた金属。ミーはそれの買付にきたのザマス」
「なるほど、俺たちは――」
「ノンノン、ミーはユーたちに興味ナッシング。タイムイズマネー、時は金なり。ユーたちの無駄な話は結構ザマス」
「そ、そうですか?」
俺たちは変な人だなと思いつつ、全員がエレベーターに乗り込み降下スイッチを押す。
するとゴゴゴガタガタガタと、不安になる音を立てながら下へと降りていく。
「…………長いな、このエレベーター」
「もう5分くらい降りてるわね」
「ドワーフが馬鹿みたいに地下を掘り進めるからザマス」
それから更に5分程して、急に地響きが響く。
「なんだ? 地震か?」
「地面の中で地震とかありえるの?」
エレベーターの中で地震とか最悪すぎる。
俺がぐらついて倒れそうになると、ヴィクトリアさんがしっかり抱き寄せてくれた。
「これ地震も嫌だけど、モンスターだったらもっと嫌ね」
「地中に出てくるモンスターなんて精々モグラくらいじゃ――」
だがテミスの嫌な予感があたり、下降中のエレベーターの壁面に大きな穴が空いて、そこから3本の触手が飛び出してきた。
ヌメヌメとした気持ちの悪い触手は、金メッキの護衛の首と胴体に絡みつく。
「う、うわ! なんだこれ――」
助けようと手を伸ばすも、護衛は触手に持ち上げられ横穴に引きずり込まれていく。
「た、助けてくれ!」
「この野郎!」
ヴィクトリアさんが戦斧で触手を三本まとめて叩き切ると、ピギィっと悲鳴のような声を上げて、千切れた触手が横穴に引っ込んでいく。
「な、なんなんザマスか、あの生物は!? ミーは聞いてないザマス!」
エレベーターが地下に到達すると、全員慌てて外へと出る。
「意味がわからん! いきなり横穴があいたと思ったら、触手が伸びてきて人をさらおうとしたぞ!?」
「多分ミルワーム系のモンスターだな。地中を潜航して、獲物を探す怪物だ。目がないんだが、耳が発達していて地中の音を聞いて襲ってくる」
「じゃあもしかして、エレベーターの駆動音で寄ってきちゃった?」
テミスの予想にヴィクトリアさんは頷く。
「その可能性は高いな」
地下にはそんな恐ろしいモンスターがいるのかと思いつつ、トンネルを抜ける。
すると出口と思われる扉を見つけるが、そこにドワーフ族の女性が二人立っているのが見えた。
「検問かな」
一人は村長の言っていた通り身長は低く、黒マスクに巨乳をサラシで巻き、下は作業ズボン。目つきが鋭く、コンパクトらしきものを見ながら化粧をしている。
もう一人は身長が180センチくらいあって、むき出しの二の腕は筋骨隆々としている。最初男のドワーフなのかなと思ったが、口紅をしているし胸にはサラシを巻いているので女性のようだ。
身長が高いドワーフは、肩にでかいツルハシを担いでおり威圧感が凄い。
よくよく見ると二人のズボンには【採掘魂】【鉱石命】と刺繍されている。
ドワーフ女性二人は俺たちの姿を確認すると、目を細めて睨んできた。
「あまり友好的な雰囲気ではないな」
というか、俺のドワーフのイメージと違う。
炭鉱で汚れながら石を掘る種族と思っていたが、あれでは暴走族だ。
「ドワーフ族は人間と一回関係がこじれてるから」
「そうなのか?」
「ええ、人間がドワーフを奴隷扱いしようとした過去があって、そのことが原因で地下に引きこもっちゃったところあるし」
テミスの歴史話に、俺は少しだけ顔を引きつらせる。
「いきなりぶん殴られるってことないよな? あのおっきいトロルみたいな方にド突かれたら、頭蓋吹っ飛ぶと思うが」
「雪村、あんた通してもらえるよう話して来て」
「話して来てじゃねぇよ、お前も行くんだよ」
くそっ、現実世界ならあんなヤンキーみたいな奴らに、絶対話しかけることなんかないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます