第41話 エデンへ

 俺たちは地上へと上がると、落石によって完全に塞がれた洞窟の入口を見ていた。


「ビクともしないですね」


 俺が岩を押して見るが、ピクリとも動かない。

 トンガ山のエレベーター側の経路も見に行ってみたが、案の定エレベーターは壊れており、シャフトの下にはマグマが滞留しているのが見えた。

 つまり地下は、もうマグマの海に沈んでしまったということだ。


「ダメだなこりゃ。もうマグマンには戻れん」


 パイアさんが諦めてため息をつくと、バイクやバギーが並ぶ、暴走族の集会みたいになったドワーフ族の仲間たちの元へと戻る。


「姉御、どうです?」


 ピーチの問いにパイアさんは首を振る。


「我らの故郷は岩に埋もれて完全になくなった。地下空洞も、恐らくマグマで溢れかえっている」

「「「そんな~」」」


 ドワーフ達の激しい落胆。

 着の身着のまま避難するしかなかった為、今日暮らす物資もない。

 アレスから降りたエルドラさんが「なくなっちまったもんはしょうがねぇじゃん」と、前向きな開き直りを見せる。


「ねぇママ、どっか適当に人間の都市に転がり込んだらいいんじゃねぇの?」

「無茶言うな娘。我らドワーフは、長いこと鎖国みたいなことをしてきたんだ。今更助けてくれる人間なんかいないよ。もし仮に助けてくれる奴がいたら、そいつは絶対下心を持ってる」

「下心って?」

「戦争するために、タダで武器を大量に作れとか」

「それは最悪だ」

「だけど姉御、アタシらマグマンに住むドワーフ族は約1800人いるッス。転がり込んだ先の食料を圧迫することを考えたら、見返りなしで住ませてもらうのは難しいッス」


 パインの意見に眉を寄せながら頷くパイアさん。


「お前の言うことはもっともだ」

「畜生、どこかに人間に利用されずに暮らせる土地はないのかよ!」


 ピーチは悔しげに地面の砂を蹴り上げる。


「姉御~、もうあたしらが適当に家作って住めばよくないッスか? 例えばここにキャンプ作っちゃうとか」

「どこも国の領地なんだよ。もし仮にここに新しいドワーフの街を築いたら、ジーナス城から兵隊がやってきて即刻撤去しろって言われるよ」


 途方にくれるドワーフ達。

 彼女たちは故郷だけでなく領地すら失ってしまい、どこかに身を寄せれば、戦火の種になることを理解していた。 

 俺はママたちと顔を見合わせた後、おずおずと手をあげる。


「あの、お困りでしたら実はトンパ村というのどかな村がありまして」


 俺はそこが火事になって困っていること、本当はドワーフ族に建築を頼もうとしていたこと、そこが勇者達の故郷であることを話す。

 更にヴィクトリアさんが良い条件を捕捉してくれる。


「トンパ村のちょっと奥に森と鉱山があるんだけど、あそこら一帯あたしらヴァルキリーの共同領地なんだよ。だよなミーティア?」

「ええ、魔王を倒した時、ジーナス王から領地として頂いた場所よ。だけど管理してないから荒れ放題だけど……」


 そう言うとエルドラさんはニマっと笑う。


「ボクらドワーフだぜ? そういうなんにも無いとこに街を作るのは得意だ」


 ドワーフたちの命を預かるパイアさんは慎重になっており、この条件にも「むぅ」っと深く考える。


「その土地は誰の名義になってるんだい?」

「あたしらのリーダーだったオルトリンデかな」

「でも確か彼女は亡くなってるんだろ?」

「ああ、つまりオルトリンデの正式な子であるユキが引き継ぎ先だな」

「俺?」

「ああ」


 へー俺土地がもらえるんだー。

 そういやゲームのヴァルキリーマムでも、そんな感じで領地をもらった気がする。

 ゲームだとどうなるんだっけな? とぼんやり考えていると、パイアさんは嬉しそうに頷く。


「なるほどな。そこなら人間の下に入る必要もなく、我らは自由にやれるってわけだ。それにエルドラの子の土地ってことは、つまり我らドワーフの土地ってことじゃないか?」

「その理屈はおかしいのでは?」

「皆、次の移住先が決まったよ! マシンに乗り込みな!」

「「「了解、姉御!」」」


 ドワーフ達はバギーやバイクに乗り込むと、蒸気エンジンをスタートさせ「ヒャー新天地エデンだぁ!」と土煙を上げてトンパ村へと向かう。

 この暴走集団を見て、村長失神しないといいけど。



 トンパ村へと到着すると、案の定村長は目を丸くしていた。


「雪村や、なんじゃこのドワーフの集団は?」

「えっと、話すと長くなるからかいつまんで言うけど、あの人達故郷がなくなっちゃったから、ここに移り住むことになったんだ。トンパ村の奥に街を作ることになると思う」

「雪村、急にこんないっぱいやってこられても困るんじゃが」


 まぁ確かに一応トンパ村にも10数人だが人が残ってるし。

 村長が困っていると、パイアさん達ドワーフ族数人が挨拶に来る。


「すみませんトンパ村の村長。我はこのドワーフ達の族長パイア。我ら故郷をなくし、流れ者になった者。どうか皆さんにご迷惑はおかけしませんので、裏に住まわせてもらえませんか?」

「「「よろしく、オナシャス」」」


 後ろで腕を組んだ彼女たちは勢いよく頭を下げる。

 するとタンクトップから零れ落ちそうな胸の谷間が覗く。


「むほぉバルンバルンじゃぁ!」


 さすがエロジジイ、すかさずドワーフ達の巨乳に視線が釘付けになっている。


「我らも先住者の土地を荒らしたくはありません。どうしてもダメなのでしたら、このまま新天地を探す旅に出ますが」

「とんでもない。雪村や、この件は全てワシに任せておけ。村人にはワシから話しておこう。何、どうせ王都に帰る予定の老いぼればかりじゃ、ワシが軽く言いくるめてやる」


 さすがエロジジイ、音速で手のひらが返った。

 こうしてドワーフの新天地となったトンパ村は、凄まじい勢いで仮住居が建築されていった。

 数日もすると、火事でボロボロになったトンパ村も綺麗に元通り、というか前より遥かに良い家に改築してもらえた。

 かわりと言ってはなんだが……。


「ひょぉぉぉぉぉ、雪村! ワシは今日も風になるぞ!」


 ハーレーみたいなバイクに跨った村長が、ブオンブオンっとエンジン音を響かせ村の周囲を爆走していた。

 あのジジイすっかりドワーフたちにあてられて、ライダーかぶれになってしまった。


「村長事故らないようにねー。その歳で事故ったら棺桶行きだよー」

「ワシのような暴走天使が、そんな間抜けするか。ひょぉぉぉぉぉぉ血が滾るわい!」


 事故って本物の天使に連れて行かれないか俺は不安だよ。






―――――――

次回で2章エピローグとなります。

カクコン9に参加しております。

今月いっぱいまでですので、よろしければ評価フォロー等していただけると幸いです。

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