第40話 石喰い
燃えながら砂の中に埋まっていくマグマン。
一つの都市が崩壊するというのは、なんともやりきれない気持ちになる。
感傷に浸る間もなく再び大きな地震が起こり、トレーラーが激しく揺れる。
俺は窓から後ろを見ると、地面に埋まった長く赤いHPバーが、車目がけて近づいてきているのがわかった。
「石喰いが追いかけてきてる!」
「ざけんじゃないよ! 街一つぶっ壊してまだ足りないってのかい!」
パイアさんはアクセルをベタ踏みして逃げるが、地中をサメみたいに泳ぐ石喰いは、グングントレーラーに近づいてくる。
『よし、ボクがマグマンの仇討ってやる』
そう言ってエルドラさんは、アレスを立ち上がらせようとする。だが、立ち上がった瞬間、プスンと間の抜けた音と共に膝から崩れ落ちた。
『おっ、どうしたんだアレス!?』
『脚部破損により姿勢制御不能』
『は、お前マジか!?』
『技術評価D! 技術評価D! 技術評価D!』
エルドラさんが無茶させるから、足がぶっ壊れて立てなくなったらしい。
アレスも「お前の操縦が下手なんじゃ」と連呼している。
「やばい、パイアさん右から来ます!」
「あんた地中の石喰いの位置がわかるのかい!?」
「浅い位置にいれば、相手のHPバーが見えるのでわかります」
俺の警告でトレーラーを左に移動させると、予測通り石喰いが右側の地面をぶち破って顔を突き出した。
奴は攻撃を外したとわかると、すぐに蛍光グリーンの気持ち悪い液体を吐き出す。
液体はトレーラーの荷台部分に付着すると、ジュウジュウと音をたてて金属を溶かしていく。
『ギャアア! 変な汁で荷台の天井が溶けてるぞ!?』
「酸液か。まずいね、この車には発破用のダイナマイトをしこたま積んでるから、何度も攻撃を受けると大爆発しちまうよ!」
『ユッキー、次出てくるタイミング教えて!』
「どうするんですか!?」
『別に足が動かなくたって、攻撃はできるんだよ!』
俺はより近くで石喰いを観察するため、助手席から荷台部分に飛び移る。
天井が溶かされた荷台は見晴らしが良い。ただパイアさんの言った通り、ダイナマイトが入った木箱が積まれていて、次酸液攻撃を受けたら盛大に吹っ飛んでしまうだろう。
エルドラさんはなんとかアレスを膝立ちさせ、ハンマーを構える。
『ユッキー、野郎どこにいる?』
「俺たちの真後ろにピッタリつけてきてます」
俺は石喰いの出現タイミングを教える。
「……今です!!」
俺が叫んだタイミングで、石喰いが地面を突き破ってきた。
『モグラ叩きだオラァァァーーーー!!』
エルドラさんは赤熱するハンマー、プロミネンスを思いっきり投げつける。
鎖から伸びたハンマーヘッドが、燃え盛る隕石のごとく飛び、石喰いの頭部に命中した。
『しゃぁオラ! どうだ!』
しかし石喰いはハンマーをくらって一瞬のけぞったものの、再び土の中へと戻った。
『はっ!? マジかよ、きいてねぇのか!?』
「石喰いの外殻はマグマすら弾くんだ、物理攻撃じゃダメージは与えられないよ!」
パイアさんのアドバイスに、歯ぎしりするエルドラさん。
『ぐぬぬぬ、ボクのハンマーが効かないなんて』
俺はどうしたもんかと考えていると、再び石喰いが酸液を放ってきた。
「セイントシールド!」
俺を追って荷台にやってきたミーティアさんが、光のシールドを張って酸液をガードしてくれる。
「ミーティアママ、ナイスガード!」
「雪ちゃんに酸をかけるなんて許せないわ!」
ガッデームとプンスカ怒るママン。
よし、これで奴はトレーラーに攻撃できない。
そう思ったが向こうも頭が回るらしく、今度はトレーラー下部に向かって酸液を吐き出した。
最初、何やってんだこいつ? と思ったが、空気が破裂する激しい音で理由はすぐにわかった。
右側の後輪が酸液によってバーストし、激しく揺さぶられる。
「クソ、あいつタイヤを攻撃してやがる!」
8輪あるタイヤの1つが死んだだけなので、なんとか走れてはいるが、あのミミズ車の弱点をわかってる。
「ごめんミーティアママ、運転席に戻って前輪を守って! 前輪がパンクしたら一発でアウトだ!」
「わ、わかったわ!」
ミーティアママにかわって、テミスとヴィクトリアさんが荷台にやってくる。
「手伝いに来たわ」
「おぉテミス、酸液を弾けるバリアはれるか?」
「そんな頑丈なの無理」
「じゃあやることねぇよ」
「あのさ、ここにあるダイナマイトをあいつに投げつけたらどうかしら?」
テミスは荷台に積まれている、ダイナマイトの木箱をあける。
「いやプロミネンスの攻撃で、石喰いに30しかダメージが入ってない。多分ダイナマイトでも無理だ」
「ちなみに石喰いはHPいくつなの?」
「4200」
「たっか……」
『ボクのハンマー100回当てても死なないのかよ』
「なんとか奴の弱点を見つけないと」
あれ? ちょっと待てよ、この話最初にしたような記憶が。
【雪村が食われて、内部からドリルで突き破るってどうかしら?】
「…………口の中だ。奴の口の中にダイナマイトをぶちこむ」
「天才じゃん」
テミスが「それな」と俺を指差す。
しかしヴィクトリアさんが困った表情を浮かべる。
「って言っても、あいつ酸液を吐く時しか口開けねぇぜ?」
そう確かに口を開けるタイミングが非常にシビアで、酸を吐く時にダイナマイトを投げつけたとしても、酸に当たって爆発してしまう。
加えてこの揺れるトレーラーの中からダイナマイトを放り投げたとしても、多分石喰いの口には入らないだろう。
「クソっミミズ野郎め、海なら釣り餌のくせによ」
「釣り餌……」
俺はポンと手を打ち、ピースメーカーのドリルを外して、ダイナマイトを内部に装填していく。
「あんた何やってんの?」
「このピースメーカーはバキュームモードを逆回転させることで、中に詰めたものを弾丸みたいに吐き出せる」
「いや、そういうのを聞いてるんじゃなくて」
「俺が餌になる」
「はっ? 喰われたら一瞬で消化されるって聞いたでしょ?」
「奴の口の中に、安全にダイナマイトを放り込めるのは捕食されるタイミングしかない」
「安全って……」
このピースメーカーはどうなってるか知らないが、見た目以上に内部に弾を詰め込むことが可能なので、ダイナマイトを30本も収納することができた。
これを腹の中に打ち込んでやれば、弾ける美味しさに石喰いも悶絶して大満足だろう。
「ヴィクトリアさん、多分俺は触手にからめとられるんで、ダイナマイトを奴の口の中に放り込んだら俺を助けて下さい」
「で、できるかな」
「できないと俺が死にます。エルドラさん、奴の腹が爆発してもまだ生きてたら、プロミネンスでかち割ってやって下さい」
『むむむ、割れるかな』
「あなたの爆熱の紋章ならきっとやれると思います。故郷を破壊されたことを考えて下さい」
『そう思うと段々腹たってきたな』
俺は囮になるために、皆に下がってもらい自分だけ前に立つ。
そして運転席のパイアさんに向かって叫んだ。
「速度落として下さい!」
よくわかっていないパイアさんだったが、トレーラーの速度をゆっくりと落とす。
すると餌にかかった石喰いは地中から飛び出すと、凄まじい速度で這いずりながらトレーラーの荷台に食らいついた。
俺たちの目の前には口を大きく広げ、内部のピンク色の肉が露出した口腔内が見えている。
奴は牙がウネる口の中から触手を伸ばし、俺の体を絡め取る。
「触手出してるときは口閉じられないよな!」
俺はピースメーカーを構え、石喰いの口の中にダイナマイトを連続発射する。
全弾残さずぶち込んだが、石喰いは構わず俺の体を触手で引っ張り喰らおうとする。
「助けてぇ!」
「ウチの子持っていこうとするんじゃねぇよ!!」
ヴィクトリアさんの大斧が触手を全て断ち切る。
そこで石喰いは始めて「ピギィ!」と豚みたいな鳴き声を上げる。
直後、腹の中で酸液と反応したダイナマイトが爆発を起こした。
心臓に響く音が連続で続く。
奴の頭上に表示されるHPが、爆発する度にゴリゴリと減っていく。
そのままくたばっちまえと思ったが
「まずい、400くらいHPが残った!」
ダイナマイトを食わされたのに、まだ生きている石喰い。
瀕死のくせに、それでも荷台に食らいついた顎を離さない。
『ボクがトドメさしてやんよ! 牛姉、二人で行くよ!』
「おう!」
エルドラさんの爆熱の紋章と、ヴィクトリアさんの力の紋章が輝く。
二つの紋章は互いに力を分け合っているようで、能力を高めあっている。
俺の稲妻の紋章、テミスの生命の紋章も光っており、共鳴した全ての紋章がエルドラさんとヴィクトリアさんに力を与えているようだ。
『灼熱のプロミネンスで、お前の頭カチ割ってやんよ!!』
「あたしの力の斧、アルデバランで叩き斬ってやる!!」
振り下ろされたハンマーで石喰いの外殻が叩き壊され、大斧で露出した肉が叩き切られた。
石喰いのHPが完全に0になると、トレーラーの荷台に突き刺さった牙が抜け、ゴロゴロと地面を転がり落ちていった。
直後、巨大な岩石が石喰いの上に落ち墓標みたいになった。
「勝ったぞ!」
『マグマンの仇は討ったぜ』
トレーラーは崩壊する地下大空洞を抜け、光ある地上へと出るのだった。
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