第39話 マグマン炎上
壊れたバギーを押してマグマンへと戻った俺たちは、広場で捕縛した金メッキを囲む。
幸いドワーフの人質は全員解放できたものの、寸前で奴隷にされてしまうところだった。
スパナや釘バットを担いだマグマンの住民は、よくもやってくれたなと縮こまる金メッキを睨みつける。
「はは、皆さんそんな怖い顔しないでほしいザマス。スマイルスマイル」
「「「…………」」」
そんな冗談が通じる雰囲気ではない。
金メッキは暴走族に捕まってしまった一般人という感じで、今から凄惨なリンチが始まる気しかしない。
「わ、わかった。身代金を払うザマス。100万、いや500万B払うザマス。だからミーを解放するザマス」
それならいいだろう? と言いたげだが、周囲は白けた空気だ。
「テメェ、自分の命は500万ぽっちか? どこまでもケチくせぇやつだな」
ドワーフの中でも一際デカいピーチが、指をボキボキと鳴らしながら顔を近づける。
「桁があと二つは足りないッス」
「ご、5億なんか払えるわけないザマス! そもそもユー達がミーにミスリルを卸していればこんなことには……」
「アタシたちが悪いって言いてぇのかよ、あぁん!?」
「ひぃぃ! 暴力反対!」
あっちはピーチやパインがいい感じにシメてくれるだろう。
その間に、エルドラさんはかつての仲間であるヴィクトリアさんや、ミーティアさんたちと再会を果たす。
「エルドラ!」
「よぉ、久しぶり、牛姉ちゃんにおっぱい」
「封印自力で解いたのかよ」
「ユッキーのドリルで封印が弱まって、ボクの爆熱の紋章が復活した。さすが”ボクの子”だよね」
ちっちゃい体で唯一大きい胸を逸らすエルドラさん。
しかし、その言葉にぴくっと反応するミーティアさんとヴィクトリアさん。
「おいエルドラ、ユキはあたしの子だ」
「はぁ? ユッキーのどこに牛姉みたいな脳筋要素があるんだよ」
「イカレサイコのお前に言われたくないわ」
「んだと脳筋
「うるせぇな、狂犬チワワがよ」
彼女たちの背後に牛さんとチワワのシャドウが見える。
身長差の激しい二人がずいと胸を寄せ合っていると、壊れたバギーをガレージに戻しにいったパイアさんが、険しい表情で広場に戻ってきた。
「全員聞きな、悪いニュースが二つある」
「奴隷商の連中、
その情報に全員がどよめく。
でもまぁ、修理できるなら大丈夫なんじゃないかなと俺は安直に思った。
「もう一つの悪いニュースは、魔力障壁発生装置の故障が石喰いにバレてる」
石喰いとは、地下大空洞の地中を泳ぐ巨大なロックワームで、度々大地震を起こす厄介なモンスターだ。
「元からこの地下空洞は、石喰いのせいで地盤沈下が起こっている。魔力障壁発生装置がマグマンの直下を守っていたから、今までなんとかなっていたが、それがなくなると石喰いは街の下を自由に泳ぎ放題だ」
10メートル近くあるでかいミミズが、自分の家の真下を掘り進んでいくのだ。
当然石喰いが通った地下は
「おそらく次でかい地震が起きれば、マグマンは蟻地獄に落ちるみたいにして消えてなくなる」
思っていたより深刻な状況に、数百人ものドワーフ全員が押し黙る。
「魔力障壁発生装置を修理する3週間、無傷でいることは不可能だ。いや、こうしている間にも大地震が起きてマグマンは沈むかもしれない。そこで我は決断を下す……。これより我らドワーフ族はマグマンを放棄し、地上に出る!」
故郷を捨てると言ったパイアさんの決断に、ドワーフ達は苦渋に満ちた表情を浮かべる。
しかしマグマンが地中に埋まってからでは遅い。
この決定に意義を唱えるものは誰一人としていなかった。
「姉御、外に出てアタイらはどこに向かえばいいんですか?」
「そんなの決まってないよ。とにかく今は自分たちの命を守ることが最優先だ。全員家財まとめて、
パイアさんがパンと手を叩くと、ドワーフ達は弾かれたように自分の家に戻り、大慌てで家財道具をまとめ始める。
「俺たちも皆を手伝おう!」
「ええ!」
全員でドワーフ族が逃げるのを手伝う。
だが荷造りを始めてわずか20分程度で、巨大な地震がマグマンを襲った。
岩山都市が激しく揺れ、それと同時に体が傾く感覚に襲われる。
「やばい、この山傾いてる!」
パイアさんの予想は当たり、石喰いがマグマン周辺の地盤を貫いたのだ。
そのせいで地盤沈下が始まり、岩山都市が大きく傾きながら沈んでいっているのだ。
『総員最低限の物だけ持って退避! 重い鉱石や武器は諦めな!』
パイアさんの怒声が響き、ドワーフ達は自分たちの命とも言える鍛冶道具だけを持ってバイクやバギーに乗り込んでいく。
そんなドサクサに紛れ、一台のバギーが急発進した。
「へへ~ん、バカドワーフ共になんでミーが金を払わなきゃいけないザマスか。覚えておけよ、ミーをコケにしたツケは絶対に払わせてやるザマス」
ザマスの野郎がバギーを盗んで逃げ出したようだ。
しかし、奴が逃げた先の地面が急に割れ、亀裂の中から無数の触手が飛び出した。
「な、なんザマスかこれは!?」
ザマスの乗ったバギーは触手に絡め取られ、身動きが取れなくなる。
亀裂からぬっと顔を出したのは、全身が鉱石に覆われたロックワーム、石喰いだ。
体長10メートルはある巨大な石ミミズは、丸みを帯びた岩石が数珠のように連結した姿をしている。
頭の部分に目はないが縦割れの口があり、開かれた口腔内はピンク色の肉が見えている。
口の内部にはビッチリとした牙が生え揃っており、それが口腔内の肉に合わせてウネウネと動いている。
「ちょ、浮いてるザマス! 誰か、誰か助けるザマ――」
石喰いは口から伸びた触手を使ってバギーを持ち上げると、車ごとザマスの体を喰らった。
石の怪物はボリボリとバギーのパーツをこぼしながらも食事を終えると、口周りに生々しい血の跡が残っていた。
奴は亀裂の中に身を隠すと、地面を潜航する。
直後、再び大きな地震が地下大空洞を襲う。
「まずい、あいつこっちに向かってきてる!」
「全員逃げるよ! 急ぎな!」
全ドワーフがエンジンをスタートさせ、マグマンを飛び出していく。
俺たちも早く逃げなければと思っていると、パイアさんが壊れたバギーより更にデカいトレーラーでやってきてくれる。
「乗りな!」
俺たちは慌てて乗り込み、エルドラさんの鎧も後部荷台部分に飛び乗る。
「行くよ!」
パイアさんがギアを入れると、トレーラーはエンジンから轟音を轟かせ、蒸気パイプから白い煙を上げる。
8輪のタイヤが地面に轍を作りながら力強く前進し、街から離脱していく。
俺は助手席から後ろを振り返ると、砂の中に沈みゆく岩山都市マグマンが見える。
鍛冶で使用していたマグマが溢れ、至る所で火災が発生しており、ドワーフ族の街は赤く煌々と煌めいていた。
俺はマグマンの最期を、きっちりと目の中に焼き付けた。
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