第47話 義手

 俺は移動拠点となるキャンピングカーの製造を、ドワーフ達と共に行っていた。

 次の目的地はまだ決まっていないが、どこに行くにしても長旅になる。その時野宿や徒歩では疲労がとれないだろう。

 しっかりと休める移動手段を作りたい。


「そう、後部車両を丸々居住スペースにしちゃって」

「この想定だと、ほぼ動く家ッスね」

「うん、その考えで良いと思う」

「宿泊すると考えると、搭乗員は4人位が限界ッスよ」

「だよねぇ。シンプルにキャビンをおっきくしたらどうかな?」

「ん~舗装されてる道が少ないから、あんまりデカいと横転するッス。それに荷台が重くなるとエンジンパワーも必要になるし」

「そっか……坂道とかきついか」

「1台にまとめるよりかは2号車を造ったほうがいいッス。あと車体の武装なんスけど、火炎放射器とアンカーの他にいるッスか?」

「火炎放射器はいらないかな。ならず者みたいだし」


 俺の頭に、汚物を消毒するモヒカンが浮かぶ。


「ってか車に武器っている?」

「大型の魔獣が体当たりしてきたら終わりッスよ。炎で追っ払うのが一番ッス」

「そう考えると火炎放射器って理にかなってるのか……」


 パインと話をしていると、安全ヘルメットを被った族長のパイアさんから呼び出される。


「孫よ、ちょっといいかい?」

「はい、なんですか?」

「あんたにプレゼントがあるんだ。工房の方に来な」

「プレゼントですか?」



「これでOKだね。ちょいと動かしてごらん」


 俺は右腕のピースメーカーにとりつけられた、金属製の義手を動かしてみる。

 鎧のように鈍い銀の光を放つ指先は、ゆっくりと折れ曲がると握りこぶしを作ってみせた。


「動いた」


 なにこれ、ちゃんと俺が思ったとおりに指が動く。すごっ。


「この義手はあんたの魔力を感知するエーテル鉱石で出来ていて、魔力を通すことで自由自在に動いてくれるのさ」

「すげー……こういう機械義手って、たまに冒険者もつけてますよね? モンスターに腕食べられたとか、足ちぎられたとかで」

「そうだな。でも、ちょっと動く程度の安物なんかじゃない。ドワーフ族族長の我が心血注いで造った特注品さ。このエーテル鉱石が加工するにはデリケートで、めちゃくちゃ難産だったけど、ちゃんと動いてよかったよ」


 パイアさんは一仕事終えて、安堵の笑みを浮かべる。


「いいんですか、こんな貴重なのいただいて?」

「いいんだよ。あんたには世話になってるし、飯食う時片手がドリルで不便してるのは知ってたんだ」

「いや、これがあると世界かわりますよ」


 鋼を錬金出来そうな、金属の手をニギニギする。

 両手で物が持てることの素晴らしさよ。

 食事だけでなく服の脱ぎ着も片手では面倒で、ボタンがある服なんかは避けてたが、これでストレスがなくなる。


「この手でモンスター殴ったりしても大丈夫ですか?」

「ああ、合成金属でカバーしてあるから、鎧と同等の硬さと耐久力はある。ただ、岩や鉄を思いっきりぶん殴るとさすがに壊れるから気をつけな」

「わかりました」


 本物の手だと思って扱おう。


「今はまだぎこちない動きしかできないだろうけど、慣れてくるとピアノだってひけるようになる」

「それはすごい」

「まず柔らかいものを握る練習をしてきな」

「わかりました、ありがとうございます」


 俺はこの義手を使ってみようと、村の中を散策する。


「柔らかいものか」


 つまり豆腐を崩さないよう、お箸で持つ練習みたいなもんだろう。

 よくバトル漫画の主人公が、己の力をコントロールするためにやってる訓練だな。

 すると丁度いいことにテミスを発見。

 風呂上がりなのか、金の髪は少し濡れていて艷やかな雰囲気がある。

 格好も周りが女性ばかりなので、あまり気を使わなくなったのか、上は黒のビキニブラと下は丈の短いスカートだけ。


「おーいテミス」

「ん? 何よ」

「これ見てくれ」


 俺は機械義手を見せる。


「えっ? 手?」

「そう、パイアさんに造ってもらったんだ。動くんだぞ」

「へーすごっ」

「今これをしなやかに動かす練習をしてるんだ。ちょっと協力してくれ」

「どうすればいいの?」


 俺はテミスの正面に立つと精神を集中し、頼りないブラ紐で支えられた巨乳を、下からすくい上げるように義手で持ち上げる。


「ん~やっぱり触覚がないからイマイチだな」


 指をぎこちなく動かすと、白い巨乳が指の形に潰れる。


「……あのさ」

「おう」

「なんで乳揉んでんの?」

「揉んではない。これは義手だし、俺には全く感触は伝わってきていない。つまり杖やマジックハンドを使ってるのと同じで、セクハラにはならないんだ」


 テミスの鋭いチョップが俺の側頭部にヒットし、パキッと何かが割れる音と共にもんどりうった。


「あぁぁぁぁ! 側頭骨が砕けた!」

「何謎理論展開してんのよ。殺すわよ?」


 テミスは肩を怒らせて行ってしまう。


「うごごご、なんて鋭い空手チョップなんだ……」


 練習にも付き合ってくれんのか、あの妹は。

 頭蓋骨を触って確かめていると、入れ替わりでミーティアさんがやって来た。


「あら雪ちゃんどうしたの? こめかみらへんが赤いわ」

「野生のクマに空手チョップくらっちゃって」

「まぁ大変、とっても痛そう」


 ミーティアさんはすぐにヒールをかけてくれる。


「痛いの痛いのとんでけ~♡」

「ありがとう。完全に痛み消えたよ」

「その野生のクマっていうのは、まだ近くにいるのかしら? ママが退治してこようか?」

「いや、あのそれは冗談で。実は――」


 義手の練習で、テミスの乳揉んだらひどい目にあったことを伝える。


「なるほど。あっ確かに雪ちゃん右手があるわ」

「うん。パイアさんから貰ったんだ。今はまだ動きが硬いんだけど、じきに滑らかな動きになるって。だから何か柔らかいものをつかむ練習をしてるんだ」

「なるほどなるほど」

「なにか柔らかいものってないかな?」

「そうね……柔らかいもの……」


 ミーティアさんの目が、俺の義手と自分の胸を行ったり来たりする。


「ど、どうしようママので練習しちゃう?」


 ちょっと恥ずかしげに、ちょっと楽しげに言うミーティアさん。

 テミスよりも重量のある双丘。Pスカウターには110を記録するギガンティックブレスト。さぞかし練習のしがいがあるだろう。


「い、いいとですか?」

「う、うん。これは練習だから。ママがリハビリ手伝ってあげるのは当たり前だから」

「それではお言葉に甘え――」


 そーっと義手を、ミーティアさんの乳暖簾に近づける。

 力加減を間違って暖簾を引っ張ったり、弾いたりしてしまうかもしれないな。

 手をワキワキさせながら近づけていくと――


「おいエロ村、歯を食いしばれ」

「えっ?」


 振り返ると野生のクマが、俺の鳩尾にローリングソバットを入れる。


「おごっ!!」

「あんた今度ママの乳触ろうとしたら殺すわよ! あとママもノリノリで練習しちゃう♪ とか誘わないで!」


 くそっ、絶対テミスが見てないところでミーティアママと練習やろう。

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