第47話 義手
俺は移動拠点となるキャンピングカーの製造を、ドワーフ達と共に行っていた。
次の目的地はまだ決まっていないが、どこに行くにしても長旅になる。その時野宿や徒歩では疲労がとれないだろう。
しっかりと休める移動手段を作りたい。
「そう、後部車両を丸々居住スペースにしちゃって」
「この想定だと、ほぼ動く家ッスね」
「うん、その考えで良いと思う」
「宿泊すると考えると、搭乗員は4人位が限界ッスよ」
「だよねぇ。シンプルにキャビンをおっきくしたらどうかな?」
「ん~舗装されてる道が少ないから、あんまりデカいと横転するッス。それに荷台が重くなるとエンジンパワーも必要になるし」
「そっか……坂道とかきついか」
「1台にまとめるよりかは2号車を造ったほうがいいッス。あと車体の武装なんスけど、火炎放射器とアンカーの他にいるッスか?」
「火炎放射器はいらないかな。ならず者みたいだし」
俺の頭に、汚物を消毒するモヒカンが浮かぶ。
「ってか車に武器っている?」
「大型の魔獣が体当たりしてきたら終わりッスよ。炎で追っ払うのが一番ッス」
「そう考えると火炎放射器って理にかなってるのか……」
パインと話をしていると、安全ヘルメットを被った族長のパイアさんから呼び出される。
「孫よ、ちょっといいかい?」
「はい、なんですか?」
「あんたにプレゼントがあるんだ。工房の方に来な」
「プレゼントですか?」
◇
「これでOKだね。ちょいと動かしてごらん」
俺は右腕のピースメーカーにとりつけられた、金属製の義手を動かしてみる。
鎧のように鈍い銀の光を放つ指先は、ゆっくりと折れ曲がると握りこぶしを作ってみせた。
「動いた」
なにこれ、ちゃんと俺が思ったとおりに指が動く。すごっ。
「この義手はあんたの魔力を感知するエーテル鉱石で出来ていて、魔力を通すことで自由自在に動いてくれるのさ」
「すげー……こういう機械義手って、たまに冒険者もつけてますよね? モンスターに腕食べられたとか、足ちぎられたとかで」
「そうだな。でも、ちょっと動く程度の安物なんかじゃない。ドワーフ族族長の我が心血注いで造った特注品さ。このエーテル鉱石が加工するにはデリケートで、めちゃくちゃ難産だったけど、ちゃんと動いてよかったよ」
パイアさんは一仕事終えて、安堵の笑みを浮かべる。
「いいんですか、こんな貴重なのいただいて?」
「いいんだよ。あんたには世話になってるし、飯食う時片手がドリルで不便してるのは知ってたんだ」
「いや、これがあると世界かわりますよ」
鋼を錬金出来そうな、金属の手をニギニギする。
両手で物が持てることの素晴らしさよ。
食事だけでなく服の脱ぎ着も片手では面倒で、ボタンがある服なんかは避けてたが、これでストレスがなくなる。
「この手でモンスター殴ったりしても大丈夫ですか?」
「ああ、合成金属でカバーしてあるから、鎧と同等の硬さと耐久力はある。ただ、岩や鉄を思いっきりぶん殴るとさすがに壊れるから気をつけな」
「わかりました」
本物の手だと思って扱おう。
「今はまだぎこちない動きしかできないだろうけど、慣れてくるとピアノだってひけるようになる」
「それはすごい」
「まず柔らかいものを握る練習をしてきな」
「わかりました、ありがとうございます」
俺はこの義手を使ってみようと、村の中を散策する。
「柔らかいものか」
つまり豆腐を崩さないよう、お箸で持つ練習みたいなもんだろう。
よくバトル漫画の主人公が、己の力をコントロールするためにやってる訓練だな。
すると丁度いいことにテミスを発見。
風呂上がりなのか、金の髪は少し濡れていて艷やかな雰囲気がある。
格好も周りが女性ばかりなので、あまり気を使わなくなったのか、上は黒のビキニブラと下は丈の短いスカートだけ。
「おーいテミス」
「ん? 何よ」
「これ見てくれ」
俺は機械義手を見せる。
「えっ? 手?」
「そう、パイアさんに造ってもらったんだ。動くんだぞ」
「へーすごっ」
「今これをしなやかに動かす練習をしてるんだ。ちょっと協力してくれ」
「どうすればいいの?」
俺はテミスの正面に立つと精神を集中し、頼りないブラ紐で支えられた巨乳を、下からすくい上げるように義手で持ち上げる。
「ん~やっぱり触覚がないからイマイチだな」
指をぎこちなく動かすと、白い巨乳が指の形に潰れる。
「……あのさ」
「おう」
「なんで乳揉んでんの?」
「揉んではない。これは義手だし、俺には全く感触は伝わってきていない。つまり杖やマジックハンドを使ってるのと同じで、セクハラにはならないんだ」
テミスの鋭いチョップが俺の側頭部にヒットし、パキッと何かが割れる音と共にもんどりうった。
「あぁぁぁぁ! 側頭骨が砕けた!」
「何謎理論展開してんのよ。殺すわよ?」
テミスは肩を怒らせて行ってしまう。
「うごごご、なんて鋭い空手チョップなんだ……」
練習にも付き合ってくれんのか、あの妹は。
頭蓋骨を触って確かめていると、入れ替わりでミーティアさんがやって来た。
「あら雪ちゃんどうしたの? こめかみらへんが赤いわ」
「野生のクマに空手チョップくらっちゃって」
「まぁ大変、とっても痛そう」
ミーティアさんはすぐにヒールをかけてくれる。
「痛いの痛いのとんでけ~♡」
「ありがとう。完全に痛み消えたよ」
「その野生のクマっていうのは、まだ近くにいるのかしら? ママが退治してこようか?」
「いや、あのそれは冗談で。実は――」
義手の練習で、テミスの乳揉んだらひどい目にあったことを伝える。
「なるほど。あっ確かに雪ちゃん右手があるわ」
「うん。パイアさんから貰ったんだ。今はまだ動きが硬いんだけど、じきに滑らかな動きになるって。だから何か柔らかいものをつかむ練習をしてるんだ」
「なるほどなるほど」
「なにか柔らかいものってないかな?」
「そうね……柔らかいもの……」
ミーティアさんの目が、俺の義手と自分の胸を行ったり来たりする。
「ど、どうしようママので練習しちゃう?」
ちょっと恥ずかしげに、ちょっと楽しげに言うミーティアさん。
テミスよりも重量のある双丘。Pスカウターには110を記録するギガンティックブレスト。さぞかし練習のしがいがあるだろう。
「い、いいとですか?」
「う、うん。これは練習だから。ママがリハビリ手伝ってあげるのは当たり前だから」
「それではお言葉に甘え――」
そーっと義手を、ミーティアさんの乳暖簾に近づける。
力加減を間違って暖簾を引っ張ったり、弾いたりしてしまうかもしれないな。
手をワキワキさせながら近づけていくと――
「おいエロ村、歯を食いしばれ」
「えっ?」
振り返ると野生のクマが、俺の鳩尾にローリングソバットを入れる。
「おごっ!!」
「あんた今度ママの乳触ろうとしたら殺すわよ! あとママもノリノリで練習しちゃう♪ とか誘わないで!」
くそっ、絶対テミスが見てないところでミーティアママと練習やろう。
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