第45話 ギルドヴァルハラ Ⅲ


 ドワーフ達と運送業を開始して数日――

 バギー10台、バイク20台に護衛されたトレーラーが大量の食料を乗せてジーナス王都へと向かっていた。


「ヒャー進め進めぇ!」


 先頭を行くのは、バイクのサイドカーに乗ったエルドラさん。

 彼女に続いてオフロード仕様のバイクとバギーが、丘をビュンビュンと飛び越えていく。

 搭乗しているドワーフは皆ガスマスクや肩パッドをつけており、傍から見ると世紀末な無法者集団にしか見えない。

 決して次に荒らす村を探しているわけではなく、生産地から受け取った品を輸送している最中だ。


 そう俺たちはジーナス王国とギルド協会に認められた、正式なギルド【ヴァルハラ】として登録された。

 運送をメインとする珍しいギルドで、魔王を倒したヴァルキリーが所属していると大々的に打ち出したおかげで、営業をかけなくても最初から依頼が舞い込んでいた。


 俺は族長のパイアさんと共に輸送トレーラーに乗り、渓谷地帯を走っていた。


「生産地の人が言うには、この辺で山賊が出るそうですよ」

「山賊~? この人数に喧嘩売るバカいるのかい?」


 パイアさんが笑っていると、本当に岩陰から弓や斧で武装した6人ほどの荒くれ者が姿を現す。


「テメェら、ここを通りたければ荷物を置いていけ!」

「うわぁ、ほんとに山賊出た!? しかもコレ以上無いくらいコッテコテな奴が!」

「止まらなければ撃つぞ!」


 恐らくこの辺りを通る輸送隊を襲っている連中だろう。

 弓矢を構えれば止まると思っているのかもしれないが、ここにいるのは肝の座った暴走ドワーフ達ばかり。

 パイアさんはファーンと甲高いクラクションの音が響かせると、アクセルを踏み込む。

 いかつい装甲車のような輸送トレーラーは、機関車のごとく蒸気を吹かし、猛スピードで山賊目掛けて突撃していく。 


「おい! とま、止まれ、オイィィ! 聞いてるのか!?」

「ダメだ、突っ込んでくる!」


 山賊たちは横っ飛びで躱すも、トレーラーの後ろにいたバイク隊にぎょっとする。


「ヒャー山賊だ! 殺せ!」


 山賊より血に飢えたドワーフの護衛達は、山賊に向かってボウガンを発射する。


「ヒーハー! どけどけ! ぶち殺すぞクソ山賊共!!」


 その中でも特にイキイキとしてたエルドラさんは、高笑いを響かせ、逃げ惑う山賊たちを追いかけ回していく。


「なんだよあいつら!?」

「畜生ジーナスの連中、軍隊を雇ったのか!?」

「アッハッハッハッハ怯えろ竦め! ボクらはギルドヴァルハラ! テメェらの仲間にも伝えな、お前たち悪党を叩き潰す正義の名を!」


 正義の名のもとにハンマーを振り回すエルドラさん。

 これもうどっちが山賊悪者かわかんないな。

 物資強奪を狙っていた山賊たちは、ケツに向かってボウガンをしこたま撃たれながら逃げ惑う。


「アハハハハハハ、誰か襲ってくる奴はいないのかー!?」


 一番渋ってたママが一番ノリノリな気がする。



 こんな感じで山賊やモンスターを返り討ちにしながら輸送仕事をこなしていく。

 俺たちは格安で運送を行うかわりに、必ず商品にヴァルハラのサインを入れさせてもらうことにしていた。

 それが功を奏し、ジーナス国各地に商品と共にギルドヴァルハラの名前は知れ渡り、運送の仕事ならヴァルハラと言われるようになった。


 それから数日、運送が軌道に乗った後、俺は族長のパイアさんから相談を受けていた。


「なぁ孫よ、運送の仕事が順調なのはいいのだが、我らドワーフはやはり鍛冶の民、武器や防具を卸したいと思うのだが」

「それならもう考えてあるんですよ」

「なに?」


 俺はドワーフたちに頼んで、トレーラーの荷台に鍛冶道具一式を乗せたキャラバンカーを作成。

 これは元の世界のアイス屋とかのキッチンカーを参考にした、鍛冶出張サービスだ。


「田舎すぎて客が来ないなら、こっちから売りに行けばいいと思いまして」

「移動式の鍛冶屋ってことかい?」

「はい、ジーナス王都で毎週末やってる露天祭があるので、それに参加しようと」

「いろいろ考えるねアンタは」

「いや、俺は車と鍛冶屋をくっつけただけですから」

「まさかウチの壊すしか脳がない娘から、こんな頭使う子が産まれてくるとはね」


 パイアさん、自分の娘エルドラママが壊すしか脳ないって認めちゃうんだな。



 週末――時刻は午前9時半。

 快晴の空の下、ジーナス王都の広場で開催される露天祭りに、俺はドワーフたちと共に参加。

 出品者たちが露天の準備を進める中、鍛冶エプロンをつけた、パインやピーチ達は緊張した面持ちをしていた。


「ひ、人来るんスかね」

「に、二代目、アタシらこうやって人間の祭りに参加する機会がなくてよ」

「別に緊張すること無いよ」

「武器の販売やってるのアタシらくらいだぜ。他は皆、食い物とか服とかだし」

「まぁフリマ的な感じだしね。逆を言うと、他の人達が出品してないものを出品するって、競合相手がいなくていいんだよ」

「そ、そうなんスか?」

「あっ、そろそろ始まるよ」


 時刻は10時になり、今週の露天祭が始まる。

 広場に人が入ってくると、すぐにドワーフ達のキャラバンカーに気づき、物珍しさから客が集まってくる。


「ほぉ、これがドワーフの武器か」


 お客は並べられた武器や防具をしげしげと見やっている。


「に、二代目、なんか人がいっぱい集まってきてんぞ」

「ドワーフが出店出すって初めてだからね。おまけにこの移動式鍛冶屋だから、そりゃ注目浴びるよ」

「や、やばい、人多すぎてアタシ目が回ってきた」


 ピーチは集まってきた人々に対して挙動不審になっている。


「ピーチはガタイのわりにビビりすぎッス。別にどこにいようと同じ仕事をするだけッス」


 パインは冷静を装うが、明らかに視線が泳いでいる。

 そんなテンパっている俺たちの前に、一人の冒険者らしき男が立った。

 筋肉質な前衛戦士という感じで、中級以上の冒険者の風格を感じる。


「それを見させてくれ」

「お、おう」


 ピーチは立てかけられていた斧を冒険者風の男に渡す。


「軽いな……切れ味は大丈夫なのか?」

「んだテメェ、文句つけんのか!?」

「いや、すまない。別に悪く言うつもりはないんだが、軽いものはすぐ柄が折れるイメージがあるんだ」


 俺はこの男性のHPを見ると890とかなり高く、首にぶら下げているギルド章も星三つのトライアングル。

 恐らく本当に自分の経験に基づいた感想を言っただけだろう。


「なら試しにこれを斬ってみな」


 ピーチが持ってきたのは、王国衛兵がよく所持している鉄製の丸盾である。


「ジーナス王国の職人がどんなもんか確かめるために、この前買ったんだ」

「しかし……金属盾を斬ると刃こぼれしたりするが」

「あたしが良いって言ってんだ。もしほんのちょびっとでも刃こぼれしたら、その斧タダでやるぜ」

「…………ならば」


 冒険者の男は斧を振りかぶり、丸盾を唐竹割する。

 すると、盾は中央からスパッと真っ二つに割れた。

 これには斬った男も驚き、目を白黒させる。


「まさか、なんて斬れ味なんだ……」


 斧の方を確認するが、ピーチの言った通り刃こぼれ一つ無い。


「重くて硬いは当たり前ッス。ドワーフは軽くて硬い武器を作ってるッス」

「おみそれした。これを頂こう」


 冒険者がお金を支払って店の前を立ち去ると、それを見ていた他の冒険者たちが殺到する。


「すまない細剣はないだろうか?」

「俺は頑丈な盾を探してるんだ」

「金属ロッドを探してるの」

「軽い鎖帷子みたいなのってある?」

「希少金属を持ってるんだが、これで武器を作って貰えないだろうか?」


「うぉっ、すげぇ人だ!」

「皆ドワーフの武器が気になってたんだよ」

「あわわ、さばき切れないッス!」


 それから露天祭が終わる夕方まで忙しさは続き、第一回出張鍛冶屋は大成功をおさめたのだった。

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