第37話 ロケットボーイ
「爆熱・粉砕!! アハハハハ!! どけどけどけ!!」
真っ赤な鎧が燃え盛るハンマーを振り回し、奴隷商たちを追い立てていく。
多少の破壊なんか知ったことではないと、マグマンの広場諸共ぶち壊していく。
鎧の中にいる俺は爽快感があるが、高笑いと共に攻撃していくエルドラさんの姿は、ほぼバーサーカーである。
「エルドラママ、俺降りて捕まえられた人たちを解放してきます」
「おぉ、こっちは任せろ。ゴミ掃除してきてやるからよ」
鎧のハッチが開き、俺は広場へと降り立つと、捕らえられたドワーフたちを片っ端から解放していく。
確かこの辺からテミス渾身の「お兄ちゃん」が聞こえたのだが。
「雪村!」
叫び声にふり返ると、奴隷商がロープで縛られたテミスとパイン、ミーティアさん、他数人をワゴンみたいな箱型の蒸気車に押し込んでいる。
また別の車には、ドワーフ族が採掘した希少鉱石が乗せられていた。
「こいつら高く売れそうな女性と、金銀を盗んで逃げようとしてるの!」
「黙れ!」
奴隷商はテミスの頬を一発ひっぱたくと、彼女の体を車の中へ無理やり押し込む。
「この野郎、待て!」
俺が追いかけるも、間一髪でワゴンは発車してしまう。
盗品と女を乗せた車数台が、地下洞窟を逃げ去っていくのを俺は見送るしかない。
「くそっ! 足がないと追いかけられないぞ!」
その時だった、別方向から採掘用バギーとバイクが数十台、土煙を上げてマグマンにやってくる。
まさか敵の増援か? と思ったが、よくよく見ると乗っているのはマグマ結晶をとりに外に出ていた採掘チームだ。
おそらく街の異変に気づいて、急いで帰ってきたのだろう。
先頭のタイヤがでかい車両には、パイアさん、ピーチ、ヴィクトリアさん達が乗っていて、俺のすぐ隣に車をつける。
「大丈夫かユキ!」
「ママ、あいつら捕まえたドワーフ族やテミスたちを連れて逃げてる!」
「あぁ、遠くから見て把握してる。乗れ!」
俺は慌ててバギーに乗り込むと、マグマンに残っていた奴隷商を全部倒したエルドラさんも戻ってきた。
「おぉっ! エルドラ、解放されたのかよ!?」
『牛姉ちゃん久しぶり。おっママ、じゃなくてお袋もいるじゃん』
「やっとお目覚めかい寝坊助って、今はほっこりしてる場合じゃないよ! エルドラ、あんたも早く乗りな!」
族長のパイアさんに言われ、エルドラさんは鎧ごとバギーの天井に飛び乗る。
エンジンパワーのあるバギーは、重量に負けず力強く発進する。
「奴ら絶対許さねぇ、ドワーフ族なめてんじゃないよ!」
アクセルをベタ踏みして、『紅蓮天女』のノボリをつけた採掘チームの車両が追いかける。
しかし逃げに入ったルインズ商会の連中は、足が速くなかなか追いつけない。
奴らの影すら見えず焦りを感じていると、運転席のパイアさんがスマボを使って全車両に指示を出す。
「全車ニトロを使いな!」
『『『了解、姉御!』』』
彼女はハンドル隣の明らかに怪しい赤いボタンを押す。
すると、バギーの後部から緊急展開用のジェットエンジンがせり出てきた。
「ニトロターボ点火!」
採掘チームのバギーが、全車一気に加速し距離を詰めていく。
すべての車両が後部のエンジンを赤く光らせ、ボコボコの地下洞窟をバウンドしながらも疾走していく。
その様は群れで獲物を追い詰める狼たちのようなのだが、全車背のちっちゃいドワーフが乗っているので、どこか可愛らしく感じてしまう。
「奴らのケツが見えてきたよ!」
ターボ加速によって、ルインズ商会の車が見えてきた。
パイアさんはスマボを使い、再び全員に指示を出す。
「敵は10人乗りのカーゴ車に、めいいっぱい人を乗せてるせいで速度が出ていない。バギーは4方固めて無理やり停車させな。バイクチームはアンカーで動きを止めるんだよ」
『『『了解、姉御』』』
「相手は地下を走ったこと無い素人だ、追い込んで事故らせるんじゃないよ。車の中には我らの仲間が乗ってるって肝に銘じな!」
『『『了解、姉御』』』
後方の味方車両はニトロターボで一気に加速し、奴隷商のワゴンに追いつく。
一台が一気に抜き去り、前後左右を味方の車両で固めてしまう。
こうなるとスピードを出すことが出来ず、奴隷商の車は減速していくしかない。
また別の奴隷商車両は、5人のバイクチームが後方からアンカーガンを発射する。
後部バンパー部分に鎖付きのアンカーが突き刺さり、バイク5台が一斉にブレーキをかけて無理やり失速させる。
「凄い連携力だ」
「採掘も戦いも連携が命だからね」
「姉御、残りの車両はあと一台だけど、あいつニトロ使ってやがる!」
ピーチが車体から身を乗り出して、一番速い奴隷商の車を確認する。
確かに先を走るワゴン型の車は、俺たちの車と同様、背面部からブースターを点火させているのがわかる。
「こっちがニトロ使ってるの見て気づきやがったね。なんて賢い奴らなんだい」
ニトロターボはハンドルの隣に、ニトロ(危)と書かれたボタンがあるので、勘の悪いやつでも装置の存在に気づくと思う。
向こうも同じくターボを使っている上、こっちはエルドラさんの鎧を乗せているため、一向に差が縮まらない。
「チームアップル、チームレモン、向こうと同速で我らじゃ追い込めない。あんた達が挟み込んでプレッシャーをかけな!」
『『了解、姉御!』』
指示を出すと、味方の赤と黄色のバギー2台が力強く先行し、逃げる車両を左右から挟み込む。
だが、奴隷商に魔法を使えるやつがいたらしく、敵の車内から火球が放たれ赤色のバギーが爆発炎上する。
「アップル! レモン下がってアップルを救助しな! 奴は我らが追う」
『すみません姉御!』
無事だった黄色のバギーが下がり、爆発した仲間の救助に入る。
これで奴に追いつける位置にいるのは、俺たちの車両しかなくなった。
逃げる車両から身を乗り出し、ザマスがこっちに向かって舌を出してやがる。
あの野郎、しぶとく逃げてやがったか。
しかも奴はこちらに見せつけるように、テミスとミーティアママの顔を出させる。
「あんの野郎ぉ……」
この女は頂いていくとでも言いたいのだろう。ふざけやがって。
「これ、奴らどこに向かってるんですか?」
「この先に車でも通れる洞窟があって、そこから地上に上がれるんだ。奴らが外に出た瞬間、トンネルを封鎖するだろうから、
多分外で待ってるルインズ商会の連中が、仲間が脱出してきた瞬間トンネルを爆破してでも封鎖してしまうだろう。
そうなったら連れ去られたテミス達を取り返すことは出来ない。
敵は追いかける俺たちのバギーにむかって、連続で火球を投げてくる。
車両を右に左に揺らしてなんとか躱すが、もしトンネルみたいな狭い道に入られたら終わりだ。
『ママ、こうなったらボクがハンマーを投げ込むしかない』
「そんなことしたら人質全員死んじまうだろ!」
ハンマー……。
俺は頭に電球が点灯し、ピコンと策を閃く。
「エルドラママ、俺思いついたことがあるんだけどハンマーって炎消せる?」
『消せるけど』
「俺、ハンマーに抱きついてるから、そのまま放り投げてくれない?」
この状況の打開策とは、俺自身がハンマーとなって飛んでいくことである。
エルドラさんのチェーンハンマーに抱きつき、空を飛んで敵の車に取り付く。
『そんなの振り落とされちゃうぞ』
「いや、多分大丈夫」
ピースメーカーをバキュームモードにして、ハンマーにくっつけておけば吸盤代わりになるはず。
俺の作戦にパイアさんはクククと笑う。
「いいじゃないかエルドラ。あんたと同じで頭のネジが2、3本飛んだ子だよ。やらせてやんな」
「お願いします!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます