第36話 聞いてるユッキー?
真紅の鎧は、白い蒸気を吐き出しながら巨大ハンマープロミネンスを構える。
その風貌は炎纏う
胸部装甲に取り付けられた三つのカメラアイが、逆三角形を描きながら回転し、金メッキ達を睨みつける。
「ちょちょ、なんザマスか、あの鎧は!?」
「……!」
黒ローブの奴隷商は、躊躇なくボウガンを発射する。
しかし矢は鎧の装甲に届くことなく、炎に焼かれて消滅する。
「そんなんじゃこいつはやれねぇよ、ザコが。お返しだ、死ねよ、抹殺!!」
驚くことに爆炎の大槌は、持ち手部分と槌部分が鎖に繋がれた状態で分離し、チェーンハンマーへと変形する。
高圧蒸気によって弾き飛ばされたハンマーヘッドは、炎をまとう隕石のような勢いで奴隷商へと飛んでいく。
奴隷商は逃げることもできず、両腕をクロスして防御しようとするが、そんなもので威力を殺せるわけもなく、両腕をへし折られ全身が炎上する。
「うわ、うわああああああああ!!」
「はは、小声野郎かと思ったが大声で鳴けるじゃねぇか」
完全に悪役のセリフを、すこぶる楽しそうに言うエルドラさん。
「ひ、ひぃっ!? 勇者だろ! 人殺しなんかしていいザマスか!?」
「勇者は悪人をぶっ殺しても許されるんだよ。テメェは悪、ボクは勇者! 我が正義のために死ね!」
「サイコすぎる!」
金メッキは勝ち目がないと察し、全力疾走で逃げ出す。
「逃げてんじゃねぇよ! プロミネンス!!」
再び爆炎のハンマーが放り投げられると、金メッキは際どいところで避け、ゴンドラに慌てて飛び乗り逃げ去っていく。
「チッ外したか。ザマスは後だ」
エルドラさんは俺の前で鎧を跪かせ、カメラ越しにこちらを覗きこむ。
「ユッキー大丈夫か、死ぬな、生きろ」
「死にはしないけど」
「お前弱いんだから無茶すんな」
「ママからそう言われると結構傷つく」
「よし、ユッキー乗れ」
鎧のボルトが回転すると、バシュッと高圧空気が漏れる音と共に、前面装甲ハッチが上向きに開いた。
中にいたのは身長125センチくらいの少女。
髪型は金髪で、毛先が若干ドリルしたツインテール。
可愛らしい顔をしているが、その目はつり上がっており、牙っぽい八重歯が覗いている。
「ちっさ」
「誰がちっさいだ、早く入れ!」
「入れっていっても、これ一人用だよね? しかもドワーフ用でちっちゃ――」
「ちっちゃいちっちゃい言うな! さっさと入れ!」
俺は鎧の腕に後ろから押され、食われるようにしてコクピット内に押し込まれた。
直後ハッチが閉じて、クソ狭い空間でエルドラさんと密着することになる。
「狭い、暗い、柔らかい」
鎧の中は狭いコクピット状になっており、いたるところにレバーやボタン、操縦桿が見える。
その中で俺はエルドラママのちっさい体の中で、異様に大きい胸に顔をうずめることになった。
「そのままにしてろ。アレス、モニター点灯」
『了解』
真っ暗だったコクピットに、外の景色が映し出される。
どうやらカメラで見た映像が、コクピット内のモニターに映し出される仕組みらしい。
「アレスってなんですか?」
「アレスはこの鎧の名前だ。カッコイイだろ」
「補助戦闘AIって奴ですか?」
「なんだそれ? アレスはアレスだよ。今は説明は後だ、あのザマス野郎をぶっ殺しに行くぞ」
「そうだマグマンが占拠されてるんだった」
跪いていた
「あのエルドラママ、ここミスリル銀山のほぼ頂上なんですけど!」
「だからなんだ?」
「こっから飛び降りたら死にますよ!」
「死なねぇって、行くぞ!!」
モニターに映し出される光景が、洞窟内から外へと切り替わる。
本来ならゴンドラに乗ってここまで上がってくるはずなのだが、今は鎧に乗ってジャンプ中。
この採掘場は地上から約200メートルくらいの高さにあり、地上約40階建ての高層ビルから飛び降りてるのとほぼ一緒である。
一瞬ヒュンっと内臓が浮く嫌な感じがした後、鎧は重力に任せて落下する。
「おぎゃああああああああ!」
「うはははははは、飛んでる、飛んでるぜ!!」
「ほぎゃああああああああ!」
「風だ! 風になってるぜ! ユッキーも風を感じるだろ!?」
「風より死を感じるぅぅぅぅぅ!!」
三半規管がおかしくなるような浮遊感と共に、地面が近づいてきた。
俺にはどこぞのZ戦士のように、ヤムチャしやがってみたいな光景が浮かぶ。
しかし、アレスは地面に着地すると、クレーターをつくりながらも両足で踏ん張る。
コクピット内は激しい衝撃で揺れたものの、何事もなかったかのように走り出した。
「えぇ……頑丈……」
「ドワーフ族の技術なめんなよ」
『両足に過負荷を検知、レッグパーツ及びスチームパイプに破損を確認、速度低下、コントロール技術評価はDですDですDです』
アレス怒涛のD評価。
「エルドラママ、多分アレス怒ってますよ。足壊れたぞ下手くそって」
「うるせぇ、そんなもん気合でなんとかするんだよ! 突き進めぇぇぇぇぇ!!」
◇◇◇
その頃、マグマンでは――
テミスとミーティアは、魔力封じの首輪をつけられた状態でロープで縛られていた。
この状態では魔法を使えず、いくら勇者と言えど一般女性と同じ能力値になってしまう。
「最悪ね」
「ごめんね、テミスちゃん」
「あの状況はどうしようもないよ」
背後からボウガンを突きつけられた状態では、成すすべもなく捕まるしかなかった。
二人が話していると、その前に黒ローブの奴隷商の男が立つ。
「向こうへ進め」
テミスとミーティアは、他の捕らえられたドワーフと共に広場へと連れてこられる。
そこでは10人ほどの奴隷商が、数百人のドワーフを機械的に品定めを行っていた。
捕らえられた者の状態によって、販売価格を決めているようで、一人ひとり調べた後、数字の書いた木製のプレートをぶら下げていく。
テミスとミーティアの番になり、値段を決めている奴隷商が「ほぉ」っと声を漏らす。
「ドワーフじゃないな」
「見たらわかるでしょ」
テミスが食って掛かると、奴隷商は鼻で笑い、手をかざす。
解析魔法がテミスの体全体をスキャンすると、情報をメモ書きしていく。
「傷病なし、呪いなし、処女膜あり、気は強いが生娘か。良い値で売れる」
奴隷商にあっさり男性歴をバラされ、カッと赤くなるテミス。
奴隷商は120万Bと書いた、木製のプレートを彼女の首にかける。
人の人権をあっさり踏みにじり、商品として値段をつける。
テミスは吐き気のするような悪を睨みつけると、奴隷商は嘲るようにニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「そりゃ、あいつがトラウマになるわ……」
次にミーティアも同じようにスキャンされると、奴隷商は何を思ったか首輪を引っ張ってどこかに連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと、どこ行くつもりよ!」
テミスが怒鳴ると、奴隷商は下卑た笑みを浮かべ「味見」だと言う。
その意味がわかった瞬間、彼女たちはぞっとする。
そりゃそうだ、他者の命を金に換金するクズどもが、女の尊厳なんて守るわけがない。
ミーティアは奴隷商のお眼鏡にかなってしまった為、今から死よりも恐ろしいことをされる。
「やめて! ふざけないで!」
「どのみちお前もこの女も、買われた後に壊されるだけだ」
「”ママ”を連れていかないで!」
テミスが言ってはいけないセリフを言ってしまい、奴隷商が日焼けした顔に満面の喜色を浮かべる。
「母親か……。お前も来い」
テミスとミーティアが親子関係だとわかった奴隷商は、よからぬことを思いついてしまう。
若く美しい母子を手籠めにしたいという獣欲が伝わり、二人は嫌な汗が止まらない。
「この子だけは許して下さい。私はどうなっても構いません」
ミーティアの必死の子を守ろうとする懇願も、男を喜ばせるだけである。
「売値は下がるが、こんな上玉食わないという選択はない」
「お願いします、この子だけは!」
「い、嫌よ、ふざけないで!」
「精々ベッドの上で親子ともども泣くんだな」
奴隷商が二人の首輪を掴んで引っ張っていこうとした時だった。
ドドドドドっと、何かの足音が響く。
何事かと思い、集められたドワーフや奴隷商が魔力障壁の消えたマグマンの外を見ると、真っ赤に燃える鎧が土煙を上げて走ってくる。
その姿が確認できたのと同時に、女の声が響いた。
『ヒーハー!! 久しぶりのシャバに敵がいっぱいだぜユッキー!!』
『オエエエエエ、操縦荒らすぎ……吐きそう』
『ヒャアアアア、どいつから殺すユッキー!? あいつか? それともあいつか!? なぁユッキー聞いてるかユッキー!?』
『オエエエエエ』
テミスはグロッキーになってる男の声が誰か気づく。
「雪村! 雪村!!」
テミスは叫ぶ、しかし鎧の足音がうるさすぎて多分聞こえてない。
しかも鎧は広場とは別方向に走っていこうとしている。
この程度じゃダメだ、もっと大きい声で呼ばないと。
ミーティアとテミスは、二人顔を見合わせてうなずく。
「雪ちゃ~~~~ん!!!」
「助けて”お兄ぃぃぃぃちゃぁぁぁぁん!!!!”」
恥も外聞も捨てて、喉が潰れそうなくらいでかい声で助けを求める。
すると鎧の動きがピタッと止まり、急に転進して彼女たちの元へと走ってくる。
それと同時に雪村の声が響く。
『うおおおおおどこだテミス!! ミーティアママン!! お前らそれに手だしたら、産まれたこと後悔させてやるからな!!』
『いいねユッキー、わかってきてるねユッキー!!』
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