第75話 決闘裁判

 レイさんの無罪判決を覆せないデブラは、頭に血管を浮かび上がらせながら唇を噛みしめる。


「ぐぬぬぬぬ」

「それと最後に絶大な説得力がある証拠がある」

「なに?」

「あそこに立っているのは私の子だ。私の子が悪事を働くわけがない」


 レイさんもしかしてトンパ村で、俺との関係知ったのかな?

 まぁレイさんの子はマルコなので、ちゃんと悪事働いてますが。

 それに異論を唱えるのがウチのママ。


「いえ、違います。雪ちゃんは私の子です」

「いーやあたしだ」

「ボクだってば、わかんない奴だな」

「ママたち、お願いだから今は親権主張しないで」


 テミスの言うとおりである。


「ふ、ふざけるな! それこそ贔屓の類だろう!」

「黙れ、よくも私に赤ちゃんプレイなど強要してくれたな、このカスが! 貴様を国家反逆罪で逮捕する!」


 レイさん完全に洗脳がとけて、今までデブラに何をやらされたか思い出したんだ。


「いずれ人類の王になる、このわたくしに楯突くとは……。であえであえ!!」


 デブラが悪代官みたいに叫ぶと、法廷にダイヤモンド騎士団の男騎士たちがなだれ込んでくる。


「この場にいるものを皆殺しにするのですぞ!」


 男騎士たちが剣を抜いて「「うぉーー!」」と駆けてくると、レイさんは剣をヒュンと振るう。

 するとママたちを拘束していた鎖と、俺の手錠が砕け散った。


「戦え、奴らは悪だ」


 ロゼリアさんとベアトリクスさんが、俺達の武器を放り投げてくれる。

 俺は右腕にドリルアタッチメントを装着し、取り囲む男騎士とデブラを見やる。


「よっしゃぁ! これで勝ったほうが正しい、決闘裁判ってことにしようぜ!」

「青二才が、殺せ、全員突撃ぃ!」


 デブラの号令で男騎士側は、数を生かしてこちらを押しつぶすように仕掛けてくる。

 しかしこちらはヴァルキリーチーム、監獄内で日々囚人虐めてるだけの、悪徳看守連中に負けるわけがない。

 第一槍を買って出るのはクレイジーサイコチビ、瞬間湯沸かし器の異名を持つエルドラさん。


「アッハッハッハ、ボクのプロミネンスで叩き潰されたい奴は誰かなぁ!? かかってこいよザコども! 来ないならこっちから行くぞ!」


 エルドラさんは燃え盛る鉄球を振り回し、盾を持つ騎士に投げつける。


「鋼鉄粉砕!」


 隕石のような鉄球は盾ごとぶち抜き、騎士の両腕をへし折る。


「ギャアアアアッ!」

「アハハハいい声で鳴くじゃん!!」


 どっちが敵かさっぱりわからない。

 エルドラさんから少し離れた位置で、ヴィクトリアさんが囲まれている。


「敵はミノス族だ、距離をとって攻撃しろ!」


 近距離特化のヴィクトリアさんに、看守たちはボウガンで攻撃を行う。しかし力の紋章によって筋力強化されてる彼女に弓の類はきかない。


「あたしは弱いものイジメは好みじゃねぇ、だがこの中であたしのユキに手あげたやつがいるなら出てこい」


 彼女の問いに複数の看守が笑みを浮かべる。


「あいつは懲罰房に入るまで、朝昼晩欠かさず腹パンしてやったぜ。みぞおちぶん殴られてイモムシみたいに丸くなってる姿が滑稽だったぜ」

「オレも奴の飯を目の前でぶちまけて、こぼれ落ちた飯を食わせたこともある。這いつくばってる顔面を蹴り上げるのが、最高に爽快感があったぜ」


 ニヤついた二人の騎士がヴィクトリアさんを煽ると、彼女は怒りに飲まれて目の色が赤くなってる。


「まずい、ヴィクトリアさんがキレた」


 彼女はバーサーカーのように猛進すると、騎士二人の首を掴んでそのまま壁へと叩きつける。

 すると壁は豆腐みたいに砕け散って、監獄の中庭に繋がる。


「「ごはっ!」」

「勇者になって、私情の絡んだ殺人はしないと決めてたが無理だ。ウチの子に手出されたら黙っておけねぇ」

「ゆ、許して」


 なぜ許しを乞うなら煽ってしまうのか。


「テメェ等は自分の子供が、ゲス野郎に毎日暴行されてたらどうする? 殺すだろ? 今のあたしは勇者じゃなくて親だから殺すぞ」


 ヴィクトリアさんの怒りはおさまらず、目に入る騎士たちを次々になぎ倒していく。

 防御なんか全く無意味な暴走特急ヴィクトリアがあまりにも恐ろしく、男騎士たちは壁に空いた穴から次々と逃げ出していく。


「貴様ら逃げるな! 戻って戦うのですぞ!」


 そりゃ無理だ。高レベルのミノタウロスが怒り状態で暴れてるのと一緒だし。

 戦意喪失して逃げ惑う騎士たちに業を煮やしたデブラは、グリモアを掲げ上げながら叫ぶ。


「貴様らこっちを見るのですぞ! 今から貴様らは死を恐れぬ不死身の兵士となった! 敵は祖国を売った売国奴、奴らの首を斬るまで戦うのですぞ!」


 すると逃げ惑っていた兵士の足が止まり、反転して俺達に襲いかかってくる。

 その目は殺気に満ちており、一目で洗脳強化されたことがわかった。


「男だ、男を殺すのです! 奴だけは許せんのですぞ!」


 デブラの命令で、怒りの形相を作った男騎士たちが剣を振り回しながら突っ込んでくる。

 狭い場所だとまずいと思い、俺達も中庭へと逃げた。


「死ねぇ売国奴がぁ!!」


 洗脳で狂った騎士が剣を振りかざす。

 だが、俺の前に赤の騎士ロゼリア黒の騎士ベアトリクスが立つ。

 ロゼリアさんは腰から刀身が真紅で、柄の部分に薔薇の意匠が施された剣を抜く。


「ソードスキル、ローズストーム!」


 剣技で多数を相手にするのは厳しそうだと思ったが、刀身が変形し蛇腹化すると、ムチのように剣がしなり敵を切り裂いていく。

 その名の通り嵐のような斬撃が、俺を守るドーム状に展開され敵は近づくことすらできない。

 しかし、本来刃の嵐の中に入るなんて自殺行為だが、死を恐れぬ男騎士は無理やり突破してくる。

 だが、ドームの中で待機していたベアトリクスさんが、両手にリボルバーのような弾倉がついた、いかついガントレットを装備し、突破してきた男騎士にゼロ距離で肉弾戦を挑む。

 男騎士の斬撃をガントレットでかちあげると、あいた腹に拳を叩き込む。


「リボルバーパイル」


 打撃と同時に弾倉から杭が発射され、鎧ごと刺し貫いた。


「あのガントレット、パイルバンカーになっているのか」


 両手で最大12発まで撃ち込めるリボルバーパイルは、一撃必殺の威力を放つだろう。

 俺達が押しかけていると、一際体のゴツい大斧を持った騎士が増援にやってきた。


「あんな奴に暴れられたらたまらん。テミスあれやるぞ!」

「どうなっても知らないわよ!」


 テミスが呪文を詠唱すると、雷を纏う魔法陣が中空に生成される。

 俺はそれをくぐるように飛び越えると、全身に電流が迸り、右手のドリルが限界を越えた速度で回転する。


「「サンダーリミットブレイク!!」」


 俺はテミスの電流浴び全身黄金色に輝きながら、巨漢の騎士にドリルを突き刺す。

 騎士は斧でガードしようとするが、斧ごとドリルで砕き刺し貫いた。


「ホーリーエア」


 テミスの電撃を浴びながら攻撃するという、頭の悪いコンビネーション攻撃のデメリットを、ミーティアさんが即座に回復してくれる。


「ぐぬぬぬ」


 敗色濃厚になったデブラは、唇をかみながら地団駄を踏む。


「どうやら死を恐れない兵士でも、ヴァルキリーには勝てないみたいだな。さっさと降参して大人しく豚箱に入れ!」

「黙りなさい! こうなれば!」


 奴はグリモアを取り出すと、なにかの詠唱を行う。

 中庭の地面に漆黒の魔法陣が浮かび、先程の巨漢騎士なんか目にならないほどの巨大なドラゴンを召喚する。

 ドラゴンと言ってもRPGに出てくるようなカッコいいやつでなく、腹はパンパンに太り、背中にはコウモリのような羽、長首の先にある顔はデブラと酷似した人面のドラゴンである。


「キモすぎでしょあのドラゴン」


 テミスが生理的嫌悪感を示すが、俺もそう思う。


「フハハハハ、これこそ大悪魔マモンですぞ!」

「やっぱり悪魔の書じゃねぇか! なに僧侶が堂々と悪魔召喚してんだ!」

「うるさい黙れ! 貴様らのせいで全て台無しだ! さぁマモン、奴らを殺すのですぞ!」


 監獄中庭に降り立った人面ドラゴンは、建物全てが振動するような雄叫びを上げる。

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