第76話 虫ケラ
「マモンだかマモーだか知らんけど、ボクのプロミネンスでそのブッサイクな顔整形してやんよ!」
エルドラさんは燃え盛る鉄球を放り投げるも、デブラと同じ顔をした人面ドラゴンはそれをあっさり受け止める。
顔だけで数メートルあるマモンは、ニマッと歯を見せ笑みを浮かべる。
正直夢に出てきそうなくらいキモい。
これ多分悪魔マモンというより、デブラの薄汚い精神が具現化したと言われたほうがしっくりくる。
マモンは受け止めた鉄球を、後ろに放り投げるようにして引っ張ると、エルドラさんが鎖に引っ張られて吹っ飛んでいく。
「ぎゃあああああ!!」
とてもヒロインとは思えない汚い悲鳴とともに、エルドラさんは監獄の壁に打ち付けられた。
「野郎よくもエルドラを! エルドラ、ユキのことはあたしに任せて安らかに眠れ!」
ヴィクトリアさんはエルドラさんを死んだものとして扱いながら、マモンへと大斧を持って突進する。
「くたばれゲテモノ野郎!」
大斧アルデバランが豪快なスイングで横薙ぎに振るわれるが、腹の分厚い脂肪に阻まれて刃が通らない。
マモンは巨体をひねると、太い尻尾でヴィクトリアさんを跳ね除ける。
彼女は回避することも出来ず派手に吹き飛ばされ、エルドラさんの隣の壁に叩きつけられた。
「ウチの脳筋ママたちが!」
クソがよくもやってくれたなと思った直後、マモンは二股にわかれた舌を伸ばし、テミスとミーティアさんの体を拘束する。
「キャアッ!」
「舌が巻き付いて、離しなさいよ!」
舌の力だけで彼女たちの体を持ち上げると、恐るべきことにマモンの舌は、元から布面積の少ない二人の服装をシュウシュウと溶かしていく。
「やっば、こいつの唾液服が溶ける!」
慌てふためく二人を見て、マモンはご満悦状態。
この光景に隠れていたビーフも出てきて、彼女たちのあられもない姿を共に見上げる。
「なんて卑怯な奴なんや! やめろドスケベドラゴン!」
「くそっ、二人を離せ!」
「絶対にそれ以上服を溶かすんやないぞ!」
「そうだ絶対、絶対にやめろよ!」
「ネタフリみたいなこと言ってんじゃないわよ、バカ兄貴とエロ豚!」
しかしこのままではママと妹の公開ストリップである、なんとかしなければ。
「我々が隙を作ります!」
そう勇ましく言ったのは、監獄島にいた女騎士達数十人とそれを束ねたロゼ、ベアの姉妹コンビ。
「総員進め!」
女騎士達が束になって人面ドラゴンに立ち向かう。
彼女たちの連携は素晴らしく、前衛の盾騎士、後衛の魔法騎士に分かれ物理魔法両面で攻撃を仕掛けていく。
「ソードスキル、ローズカッター!」
薔薇を纏うロゼリアさんの蛇剣がマモンの鱗を切り裂く。
「リボルバーパイル!」
ベアトリクスさんのパイルバンカーが、たるんだマモンの腹に突き刺さる。
【グォォォォォォ!! ヤメロ虫ケラドモォ!!】
初めてマモンが地響きのようなうめき声を上げる。
【ヤメナケレバ、コノ二人ヲ食ラウ! 丸飲ミニサレタ瞬間コノ女ハ骨マデ溶ケルダロウ!】
まずい、ミーティアさんが食べられたら回復もできない。
おまけに酸液で体がなくなってしまうと蘇生も不可能だ。
倒せそうな状態だったが、皆攻撃の手を止めるしかなかった。
【ソレデイイ、ソノママ武器ヲ捨テロ。ヨホホホホホ!】
女騎士達は皆武器を放り捨てる、しかしその中で彼女だけは武器を離さなかった。
【オマエモダ! 聖騎士レイ!】
「断る、我ら法と秩序の番人は人質には応じない」
彼女は切れ長の瞳で醜悪なドラゴンを睨み返すと、真っ白い刀身の剣、凍氷剣を抜く。
「
詠唱とともに彼女の背後の空間が歪み、氷で精製された7人の騎士が現れる。
騎士たちはそれぞれ、剣や斧、メイスや槍など氷で出来た独自の武器を装備している。
「貴様に与えられた権利は、降伏か死だ」
【フザケルナ人間ガァァァ!!】
マモンの両目から黒色の魔法が放射され、氷の騎士が一体砕かれる。
だが、騎士は瞬時に元の姿に戻っていた。
「降伏の意思なしとみなし、貴様は……死罪だ」
彼女が腕を振り下ろすと、7人の氷の騎士は流星のごとく次々に舞い飛び、マモンに己の武器を突き刺す。
「ユキムラ、ドリルを外せ」
「はい」
俺はレイさんに言われた通りドリルアタッチメントを外すと、彼女は何か呪文を詠唱する。
「
ピースメーカーに、突如として氷で出来た剣が装着された。
「うぉすごい、ソードアタッチメントだ」
「二人を救う私に続け」
鎧を着ているとは思えないほど素早いレイさんは、マモンの腹の下まで一気に潜り込む。俺も遅れないように後を追うと、レイさんは目線で俺に監獄内に入れと言う。
最初どういう意味かわからなかったが、すぐに理解して建物内に入り4階まで登る。
4階の窓からはマモンの背中が見えており、奴はレイさんたちの相手をするのに必至で後ろはがら空きだ。
「どりゃあああ!」
俺は窓から奴の背中に飛び乗ると、振り落とされないようよじ登っていく。
【虫ケラガァァアァァ!!】
「その虫ケラにお前はやられるんだよ!」
長首を登り頭の位置まで這い上がった俺は、アイスソードで奴の舌を切断する。
転落した二人の体を、地上にいたロゼベアが受け止めてくれる。
俺も大暴れするマモンの首に振り落とされ、頭から転落する。
しかし、レイさんが俺の体を受け止めてくれた。
「よくやった。後は私が始末する」
彼女がパチンと指を鳴らすと、彼女の背後に無数の氷剣が浮かぶ。
中空に浮いた剣は次々に射出され、マモンの腕、腹、首を貫く。
「死刑執行」
最後にレイさんが投げた凍氷剣が、マモンの額に突き刺さる。
人面竜は、首がぐにゃりと折れたように垂れ下がると、魔力を完全に失い黒い煙となって消えていった。
いや、やっぱレイさんはレベルが違うなと実感させられた。
彼女は召喚者であるデブラに近づくと、奴は土下座してヘコヘコと頭を下げてみせる。
「勘弁してくだされ、わたくしも出来心というものがありまして。決して悪気があったわけでは」
「黙れ、己が権力と悪魔の力を利用し、この国を混乱に貶め、無実の人間を監獄に収監した罪に情状酌量の余地はない。貴様は死罪だ」
レイさんが剣を振りかざす、その瞬間奴は顔を上げ、腹の下に隠していたグリモアをかざす。
「もう貴様の精神が崩壊しようと知ったことではない、最大出力の洗脳をかけてくれる! 貴様はブタとなって、一生家畜として暮らせ!」
やばい、レイさんがまた洗脳されてしまう。
だが、間一髪でビーフが体当たりを行い、レイさんの体を弾き飛ばした。
しかしかわりにビーフが洗脳を受けることになってしまう。
「大丈夫かビーフ……豚になってないか?」
「誰が豚やねん。ワイはオークや言うてるやろ!」
「ビーフ、洗脳は?」
「オークに豚になれって洗脳の意味あると思うか?」
さすがだ、奴に洗脳を無駄打ちさせた。
やっぱお前は勇気ある豚じゃなくてオークだよ。
しかし、洗脳を無駄打ちさせたと言っても回数制限があるのかわからないし、奴ならこの場にいる全員に洗脳をかけられるかもしれない。そうなったら終わりだ。
しかしずっと物陰で隠れていたラッキーが、有用なアドバイスをくれる。
「雪村、目だ! グリモアの目と洗脳対象の目があった状態で洗脳は発動する! 兵士を狂化した時も、グリモアに視線を集めていた!」
賢い。確かに奴は洗脳を仕掛ける時、グリモアを開かず目玉のついたハードカバーを対象者に見せつけた。
ラッキーはその不自然な動きが発動条件だと気づいたのだ。
「気づいたところで遅い! 貴様ら全員、ウジムシとなれ!」
俺は咄嗟に、地面に割れた鏡が落ちていることに気づいた。
「これは裁判所にあった」
俺は一番でかい鏡を正面に掲げるようにして持ち、鏡を盾にしながらデブラに突進する。
「うぉぉぉ、お前がこっち見ろ!!」
「なんだ貴サ、マ」
鏡には奴の姿と、グリモアが映し出されており、デブラは反射したグリモアの目と目を合わせてしまう。
「しまっ!!?」
強力な洗脳魔法が自分にかかり、デブラは白目を剥いてよだれを垂らしながら倒れた。
そして自分で指定した通り、ウジムシのように体をくねらせた。
「うじゅるうじゅる……」
「因果応報ってやつだな」
完全に知能も失われたデブラは、頭を地面にこすりつけて地中に潜ろうとしていた。
レイさんもその姿を見て剣をおさめる。
「奴には死よりも苦しい罰を受けてもらう」
こうしてデブラ監獄島による事件は終結。洗脳が残る者にはグリモアを使って洗脳を解除された。
その後グリモアは禁術書として、レイさんによって氷結封印が行われたのだった。
―――――――
長かった監獄島もほぼ完結です。
残るはエピローグ等です。
アクセルヒーロー事務所という現代ファンタジーものを新規で連載していますので、ご興味ありましたらよろしくお願い致します。
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