第25話 徳の高い装備

 母を助けることが決定したが、問題は順番である。

 セルゲイさんから渡された氷柱の座標はバラバラで、全世界に散らばっている。

 また数人氷柱の行方がわかっていないものもあり、誰から手を付ければ良いのか。


「一番近いところから助けるのがいいか、それとも紋章の兼ね合いを考えて助けた方が良いのか……。ママたちは誰から助けるといいとかある?」


 ここは仲間のことを深く知る、彼女たちに尋ねた方が良いだろう。

 二人は「う~ん」と考えた後、それぞれオススメのヴァルキリーを答える。


「レイちゃんかな」

「エルドラだな」


 あら、意見が割れたな。


「ちなみに、お二人はどういう人なんですか?」

「レイちゃんは、元聖騎士でとっても冷静で勇者パーティーでは作戦立案をしていた、さんぼー? みたいな子よ」

「なるほど」

「エルドラは、まぁ性格に難ありなんだが、あいつはドワーフ族でモノ作りが得意なんだ。このボロ村直してもらうにはいいと思う」

「なるほどなるほど」


 それならエルドラさん先がいいかな。 

 でも確かレイさんって、マルコの実母だったはず。

 あいつの荒れっぷりを止めてもらうには、レイさんからでもいいかもしれない。


「ただな、エルドラは多分お前のママじゃないと思う」

「えっ、そうなの?」

「ああ、ドワーフは身長120~130くらいしかないからな。さすがにあいつの子なら、ユキの身長はもっと低いはず」

「ん~なるほど」


 まぁでも可能性は0ではないはず。


「性格に難ありっていうのは、どういうことなの?」

「あいつは武器や防具なんか作ったりしてくれる。でもそれ以上にぶっ壊すのが大好き。壊れる時の音が聞きたくて、人の家ぶっ壊したこともある」

「……大丈夫、それ?」


 難アリってレベルじゃなくない? と言うと、二人のママは「う~ん」と苦い顔をする。


「とにかく沸点が低い奴で、パーティー組んでた時のあいつのあだ名は、クレイジーサイコチビだからな」

「えっ……?」


 そんな面白いあだ名つけられる勇者とかいるの?


 俺はセルゲイさんから貰った地図を開いて、エルドラさんとレイさんの位置を確認する。

 エルドラさんの氷柱は地底都市マグマンで、レイさんはクリスタルフロスト。

 両方とも北側方向だが、紋章は爆熱と氷銀、全く逆の属性である。

 う~む、どうしたものかと頭を抱えていると、テミスが案を出す。


「意見割れちゃったなら、歩きながら考えれば? マグマンもクリスタルフロストも、ほぼ行き先同じでしょ?」


 確かにマグマンの先にクリスタルフロストがあるので、途中まで道は一緒だ。


「騎士の人が、ライフエナジーが狂ってて緊急を要する場合、臨機応変にって言ってたし。とりあえずマグマン目指して、クリスタルフロストがやばそうだったら進路変えたら?」

「確かに」


 テミスの意見を採用して、俺たちは一旦マグマンを目指しつつ、クリスタルフロストも見に行くことにした。



 翌日――


 マグマンを目指す出発日、俺たちは村長の見送りを受けていた。


「気をつけて行くんじゃぞ」

「はい、必ず封印された勇者を連れて村に帰ってきます」

「フォッフォッフォ、そう気張るでない。村のことは我々でボチボチやっていく。それよりドワーフ族の街へ行くのだな?」

「はい、一応予定では。まだクリスタルフロストと迷ってますが」

「雪村はドワーフ族には会ったことないんじゃな?」

「そうですね。街でもほとんど見かけませんし」

「彼らは地底で金属の採掘を好む民族じゃ。よい職人も多い」

「なるほど」

「彼らは日光をあまり浴びないせいか身長が低く、女性は可愛らしい子が多いぞ」

「ふむふむ」

「身長が伸びなかったせいかはわからんが、男はとにかく怪力になり、女は胸がとにかく大きくなるのも特徴じゃ。身長が低くて爆乳、これをろりきょぬーと言うんじゃ。飛び跳ねるとすんごい――ふべら」


 村長の頭に、ヴィクトリアさんとミーティアさんのエルボーが突き刺さっていた。


「ウチの子に何教えてんだエロジジイ」

「雪村も年頃じゃ、そういう知識もいれていかんと」

「そういうのは私達で教育します」

「フォッフォッフォ、羨ましいのぉ爆乳ママの性教育とは。ワシも入れてくれんか――ふべら」


 村長はママたちのWエルボーで、地面に倒れ伏した。


「「入れません」」

「そ、それじゃあ行ってきます」


 後頭部にたんこぶを作った村長と別れを告げ、俺たちは北を目指す。


「えっと、マグマンに行くには迷い森を越えて、トンガ鉱山に入って地下に降りると」


 地図を見ながら方向を確認する。


「迷い森はすぐ近くだな」

「あそこほんと暗くて嫌だわ」

「…………」


 俺は前を歩くヴィクトリアさんとミーティアさんの、揺れる下半身に視線が釘付けになる。


「おいエロ村」

「雪村ですが?」


 テミスに不名誉なあだ名をつけられて振り返る。


「あんたの視線がいやらしいんだが? まさかママを、いやらしい目で見てるんじゃないわよね?」

「はは、バカ言うな。ママンで興奮したら人間終わりやぞ?」

「じゃあそのピースメーカーのゲージは何だ?」


 テミスは俺の腕ピースメーカーを持ち上げ、充電されているEゲージを指差す。


「は? 元からこれくらいあったが?」

「嘘つけ、村出る前0%だったわよ。エロゲージ半分くらい充電されてるじゃない」


 Eエレクトゲージな。決してエロゲージではない。


「なんでだろ……本気でわかんないや。バグかな?」

「しらばっくれて」

「じゃあ言わせてもらうけどさ、なんでヴィクトリアママもミーティアママも、あんな扇状的な格好してるんだ? ヴィクトリアママのビキニアーマーは、100歩譲って機動力重視の戦士ならあるかなと思うけど、ミーティアママの方は乳暖簾のれんだし、ローブもスリット深すぎて臀部まで見えてるし、ストッキングはガーターベルトつきだし」


 その服で僧侶を言い張るのは無理がある。


「あれは聖女のローブっていう、とんでもなく強い防具なの。下級魔法程度なら無効化するのよ? あんたなんかじゃわからない、徳の高い装備なの」

「ただデザイナーがスケベなだけでは? ってことは、もしかしてヴィクトリアママの方も」

「あっちもパワーバンドっていう、筋力を強化する装備よ。その辺に転がってる、低ランクの装備なんか比にならないくらい防御力に優れてるわ」

「あの頼りない乳バンドが? ほぼ生身と言ってもおかしくないぞ」

「それを鼻の下伸ばして見るなってこと。ねぇママ、キモいよね?」

「私は別によ。雪ちゃんもお年頃だし、村長にも言ったけどそういった知識を教育するのもママの役目ですから」

「ぐぬぬぬ、あんたママはこう言ってるけどエロい目で見るんじゃないわよ」

「わかってるっての、人を性獣みたいに」


 全く失礼する、こちとら紳士だぞ。

 だが、俺の思いとは正反対に、ピースメーカーの充電率が上がっていく。

 俺はテミスにこれ以上白い目で見られないように、ローブで腕を隠すのだった。

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