第34話 ザマス襲撃
「ダメよ、ヴィクトリア」
野郎ぶっ殺してやると言わんばかりのヴィクトリアさんを、ミーティアさんがなんとか押し止める。
「なんでだよ、赤子攫いを一番憎んでるのはお前だろ?」
「勿論そうよ。でも、あなたが安易に手を出したことで、雪ちゃんが再び奴隷商に狙われる方が危険よ」
「ならまとめて返り討ちにしてやる」
「これから毎日24時間、絶対に雪ちゃんを守りきれる保証があるの? 一体、何人いる組織かもわからないのに」
「むぐ……でも、それじゃユキがよ」
「私も勿論このまま放置するつもりはないわ。いつか必ず奴隷商たちには報いを受けさせます。でも今は雪ちゃんを守ることが最優先。他のヴァルキリー達の封印を解いて、仲間を増やしてから反撃に出ましょう」
「む、むぐぅ」
ミーティアさんの話に、渋々納得するヴィクトリアさん。
すると、銀山の外のゴンドラが上がってきて、族長のパイアさん、パイン、ピーチの三人が顔を出す。
「おーっす、やってるかー。飯の差し入れだ」
「豚トカゲの尻尾を丸焼きにして地下レタスでくるんで、鋼鉄パンで挟んだ丸焼きサンドっす」
「話聞いたぜ、お前総長の子供なんだってな。最初からそう言ってくれりゃいいのに」
食事を持ってきてくれた三人は、この場の微妙な空気を察して「あれ?」と首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「実は……」
飯を受け取りながら生い立ちと幻視痛の話をすると、三人はビエーンと涙を流す。
「辛すぎる。そんなハードな生き方してたなんて、婆ちゃん知らなかったよ」
「苦しすぎるっス。生きててよかったっス」
「あいつら碌でもない奴だと思ってたけど、やっぱり奴隷商のクズだったか、許せねぇぜ!」
憤ったパイアさんは、すくっと立ち上がる。
「オメェのその幻視痛の原因は、強いストレスを長期間に渡って受け続けたことだ。ならそのストレスを弱めてやるしかない」
「姉御、どうするんスか?」
「婆ちゃんがな、お前のために凄い風呂作ってやる」
「「「風呂?」」」
「あぁ、ストレスをとるなら風呂だ。この地底にあるマグマ結晶を水につけると、様々な効能を発揮する温泉になるんだ」
パイアさんの話に、テミスがポンと手を打つ。
「あたし地底湖にマグマが入って、温泉になったって話、聞いたことあります」
「そうだ。今から極上の風呂作ってやっからよ。ちょっと危険なとこまでマグマ結晶をとりに行かなきゃいけねぇけど、孫の為ならなんとでもならぁ」
パイアさんは安全ヘルムを被り直し、巨大ツルハシを肩に担ぐ。
「待ってくれ! あたしも手伝う!」
「総長の子なら、あたしらの家族でしょう!」
ヴィクトリアさんとピーチも一緒に立ち上がる。
「ありがてぇ、ならついてきな。マグマ結晶はタイラントサラマンダーからとれる希少アイテムだ」
「その結晶見つけるまで絶対帰らないぜ! ミーティア、テミス、ユキのこと頼むぜ」
「ええ、こっちは任せておいて」
「パイン、我が留守中任せるぞ」
「了解っス、姉御」
パイアさん、ヴィクトリアさん、ピーチはマグマ結晶を求め、採掘用のバギーに乗って鉱山の奥地へと入っていくのだった。
◇
ヴィクトリアさん達が、マグマ結晶を探しに行って3日が経過した。
当初三人でなんとかする予定だったが、タイラントサラマンダーが見つからないらしく、今ではドワーフ族300人くらいで探し回っているとのこと。
あまり無茶して、ケガなどしなければいいが。
削氷の方は順調で、3000万あった氷のHPゲージは半分近くまで減っている。
なにかしらきっかけがあれば、エルドラさんの方から外に出てきてもおかしくはない。
それと同時に、もしかしたら死んでいるのではないか? という懸念も出てきて不安だ。
「雪ちゃん、今日の晩御飯を作りに一度マグマンへと戻るわね」
「わかった。テミス、お前も一緒に戻るだろ?」
「ええ、荷物持ちしなきゃだし。あんたしばらく一人だけど大丈夫?」
「数時間くらいなんともないって。どうせ氷ガリガリ削ってるだけだから、マグマン観光してきてもいいぞ」
「あんまりあんたから目離したくないから、今度にするわ」
「お前……そんなにお兄ちゃんのこと好きなのか? 痛い痛い痛い!! 人の関節はそんなふうに曲がらない!」
思いっきり腕をねじりあげられてしまった。
「今度お兄ちゃんって言ったら殺すわよ」
テミスの中で、お兄ちゃんというのが禁止ワードになっているらしい。嫌がってるの、わかってて俺も使っているが。
過去の話をして以来、すっかり気を使われてしまっているな。
二人はゴンドラに乗って銀山を降りていく。
◇◇◇
銀山を降りたテミスとミーティアは、蒸気トロッコに乗ってマグマンへと戻っている最中だった。
「はぁ、まーたやっちゃった」
「テミスちゃん、すぐお兄ちゃんに手をあげるんだから」
「お兄ちゃんって言わないで。そのフレーズ聞くと、鳥肌立つようになってきたんだから」
「テミスちゃん、雪ちゃんがお兄ちゃん……嫌?」
「嫌というかなんというか。今までマルコやガイア達が兄弟だったし、あんまり兄弟に良いイメージがないの」
「思い切って雪ちゃんに甘えちゃったらどうかしら。お兄ーちゃん♡って」
「そんなこと言ったら、あいつ手元狂ってドリル自分に突き刺しそう」
「ママは二人が仲良くしてほしいなぁ」
「……仲良くして、他人だった時どうするのよ」
「何か言った?」
「なんでもない」
そんな話をしていると、二人はマグマンへと到着。
トロッコ停車駅から降りると、何か雰囲気がおかしいことに気づく。
「あれ? 人がいないわね、皆マグマ結晶探しに出ちゃったのかしら」
いつも活気があって、カーンカーンと鉄を叩く音が響いている街なのに、なぜか今は不気味な静けさが漂っている。
しかもマグマンを覆っていた
先程まで地上の映像が映し出されていたスクリーンがなくなり、かわりに本来の地下の天井が映し出される。
「えっ? バリア解除しちゃって大丈夫なの? 落石とかやばいんじゃ……」
「何かトラブルかしら」
二人はマグマンの岩山都市を警戒しながら進む。
「待ってママ、誰かいる」
最下層の鍛冶工房から誰かが出てくる。
それは両手を頭の後ろで組んだ、パインとドワーフ達だ。
彼女たちの後ろを、ボウガンを構えた黒ローブにターバンを巻いた、サンド地方出身者らしき男が続く。
「奴隷商っぽいわね……」
更に奴隷商の後ろを、先日見たシンメッキが続く。
「全く手こずらせてくれたザーマス。それもこれもユー達が、ミーにミスリル銀を卸さないからザマス。最初に応じておけば、こんなことにならなかったザマス」
奴の話で、テミス達はシンメッキがルインズ商会を呼んで、マグマンを襲わせたと気づく。
「おい……こいつら全員奴隷にするぞ」
黒の奴隷商に頷くシンメッキ。
「構わないザマス。ドワーフみたいな下等種族、人間の奴隷にされるのがお似合いザマス。今日からミー達が、お前たちの主人ザマス」
「ふざけるなっス! お前らみたいな奴ら、総長が来れば!」
捕らえられたパインが叫ぶ。
「そういえば、一番生意気な族長がいないザマスね。まぁいい、どうせお前らを人質にとっていれば、なんにもできないザマス。さて、ミーはミスリル銀山に行くザマス。ホホホホホホホ」
テミス達はシンメッキの行き先を聞いて、一気に焦る。
「やばい、今銀山には雪村しかいないわ。ママは雪村の元に戻って」
「でも」
「あの金メッキと、雪村を会わせるのはまずいわ。いいから早く」
だが、彼女達の背後でジャリっと足音が響く。
振り返ると、そこにはボウガンを構えた奴隷商の仲間の姿があった。
「おい女、そこで何をしている」
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