ヴァルキリーマム

ありんす

1章 氷柱の母

第1話 プロローグ

 その昔、魔王は人類を滅ぼそうと試みた。

 しかし紋章を持つ勇者ヴァルキリーが立ち上がり、魔王率いる魔王軍の侵攻を防いだ。

 武に優れる勇者だったが、好色だった為パーティー内の女性全員と性交し、その全員が身ごもり出産した。

 勇者の赤ん坊が1歳になる頃、復活した魔王軍が再び侵攻を開始。

 勇者たちは、再度その身を賭して魔王軍と戦うも勇者は戦死。

 小さな子どもを持つヴァルキリー達は、全員氷結魔法によって封印されてしまったのだった。


「この物語は勇者の子として生を受けた、君たちの物語である。”ヴァルキリーマム”ねぇ……お前ママもののエロゲ好きだな。このマザコンが」


 学生服姿の少年が二人、並んで帰宅の途についていた。

 ヴァルキリーマムの公式ホームページをスマホで眺めながら、あらすじに呆れる友人石田に、さかい雪村ゆきむらは熱弁する。


「現実のマザコンと、二次元のマザコンは全く別物だろ。創作と現実をごっちゃにしてはいけない」

「まぁオレも姉ちゃんいるけど、本物とゲームは別物だからな」

「だろ?」

「これヒロインが複数人いるみたいだけど、誰が血縁で誰が非血縁なのかわかんないの?」

「わからん、ルートによって変わるんだけど、たまに攻略しているママが血縁だったりする」

「それ大惨事じゃね?」

「そこが面白いんだよ。ヒロインそれぞれがプレイヤーを産んだって主張するんだけど、実際は誰が産んだかはわからない」

「エロゲだと思ってたら推理ゲー始まるのか」

「本物の母親を探すのが、このゲームの目的だからな」

「HPにDLCヒロイン続々追加ってあるが」

「そう、このゲームアップデートで新しいヒロインママが追加されるんだ。今ヒロインの数が150人を超えてる」

「ポ◯モンかよ。よくそれだけママキャラ作ったな」

「今年中にDLCヒロインを、あと50人追加するって開発が言ってた」

「大丈夫それ? 開発資金が怪しくなって、ストックしてたキャラを放出してるだけでは?」

「そんなことないって・……今週追加されるママは宇宙海賊、スペースママか。楽しみだな」

「待って、ファンタジー世界観だよね? 新キャラSFになるって開発相当ネタに困ってるよ」

「お前もこのママライフを始めてみないか?」

「遠慮しとくわ」



 布教に失敗した雪村は、自宅へと帰りPCの電源をONにしながら、夕食のカップラーメンに湯を注ぐ。

 父子家庭だった彼に母はおらず、父も昨年事故で旅立ってしまった。

 今は父の遺産と親戚の支援を受けながら一人暮らしをしている。

 本物の母を知らない彼が、二次元ゲームにその手の趣向を求めてしまうのも母への強い憧れがあるからかもしれない。


「さて、飯食いながら始めますか」


 雪村は追加ママをダウンロードしながら、ラーメンをズゾゾっとかきこむ。

 高速回線のおかげでダウンロードはものの数秒で完了。

 自動的にクライアントが起動して、ヴァルキリーマムのタイトルロゴが画面に浮かぶ。

 雪村は慣れた手付きでゲームをスタートする。

 当初ヴァルキリーマムは紙芝居型のストーリーゲームだったが、アップデートを重ねるごとに主人公のステータスアップ要素や、ダンジョン探索など通常RPGと遜色ないレベルにまでクオリティがアップ。

 今現在ファーム要素が追加され、雪村の日課は錆びれた村を開拓し、新たな都市を築くことである。


『おはよう雪君、今日もログインしてくれてありがとう』

「おはようママ。できればログインとかメタいこと言わないでほしいな」


 当然のように本名プレイの雪村に、美女ママは優しく微笑みかけてくれる。


「さて、今日は見張り台を作って村の防御力を上げるから、とりあえず鉱石集めに行くか」

『雪村、ゴブリンの襲撃じゃ! なんとかしてくれい!』


 慌てた村長キャラが敵襲を報告すると、雪崩の勢いでザコ敵ゴブリンが押し寄せてくる。


「タワーディフェンス始まったな。そんじゃユイママをここに配置して、ミーティアママをここに、そんでこっちにはアタッカーの……」


 夢中になってプレイしていると、気づけば2時間も経っていた。

 すると玄関からキンコーンとベルが鳴り、宅配便が荷物を持ってやってくる。


「ありがとうございました」


 荷物を受け取ってから部屋に戻り、ずしっと重みのある箱をベッドの上に置く。

 ベリッとガムテープを外し、中から出てきたものに雪村は胸を踊らせた。


「とうとう来たか、……電動オナホール!」


 箱にはAZ3000ピースメーカーと、とても電動ホールとは思えない物々しい型番が書かれている。

 ヴァルキリーマムがとうとう電動ホール対応というアップデート通知を見て、つい通販でポチってしまったのだ。

 これもママライフの為、父親の遺産をこんなものに使って本当にすまないと思いつつ、メカメカしい長方形の箱を取り出す。

 重量は約3キロ、メタリックな外観に液晶ディスプレイと複数のボタンが側面についている。


「ぱっと見はおしゃれな空気清浄機に見えなくもない。偽装にも使えるな」


 一人暮らしなのでバレたところで特に問題はないが、万に一つの可能性でクラスの女子が遊びに来るかもしれない。

 そう思いつつ電動ホールにUSBケーブルを繋ぎ、PCと接続する。

 すると電源ボタンに淡い緑のLEDライトが点灯した。


「え~っとどうやって使うんだこれ?」


 電源ボタンを押してみると、メカメカしい外装とは違いヒューマンスキンゴムでできた内部が高速で横回転する。


「うぉーすげぇ、これが自慢のサイクロントルネードか」


 説明書には『ファイアータービンとプラズマタービンのツイン回転が、毎分1万回の強制力であなたを素晴らしいへ連れていきますです』と書かれている。

 翻訳機に無理やり通したような説明も気になるが、毎分1万回転ってほぼミキサーである。使い終わったあと、アレが削り取られてなくなってないか不安になる。


「これめちゃくちゃ安かったけど、どこ製だ?」


 箱や本体を確認してもメイドインの文字は見当たらない。

 本当に安全チェックやってるんだろうな? と生産国不明のホールを怪しんでいると、本体がとても熱くなっていることに気づいた。


「ん? めちゃくちゃ熱いんだけどこんなもん?」


 一応、冬でも安心の暖熱ウォーム機能もついているのでそのせいかなと思っていたが、電動ホールは持っていられないくらい熱くなる。

 電源ボタンも異常を報せるレッドシグナルが点灯。尋常ではない熱のせいで、外装も変形してきた。

 さすがにこれはまずいと思ってUSBケーブルを抜こうとするが、時既に遅く電動ホールはカッと輝き爆発した。


「しまった安物を買うんじゃなか――」


 雪村は後悔の言葉を最後に残し、この世を去った。








――――――

カクコン用の作品を書いていたはずなんですけど、また私の悪ふざけが出ています。すみません。

コンテスト参加してるんで、フォロー星などで応援していただけると幸いです。

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