第7話 村生活
「仕事ね~……トンパ村で農業手伝うってのがあるけど、全然美味しくない仕事よ。ボランティアするかわりに少し食料もらえる程度」
「それでいい。ここ最近川の水と、村長がたまに持ってくる芋しか食ってなくて体に力が入らないんだ」
「呆れた。あんた今どこに住んでるの?」
「この洞窟だが?」
そう言うと、テミスは嘘でしょと言いたげに頭を抱えた。
「なんでこんなとこで暮らせるのよ」
「砂漠で野宿に比べたら100倍マシだぞ」
奴隷時代、砂漠のボロテント内で暮らしていたが、それに比べれば寒暖差のないこの洞窟は天国だ。
襲ってくるサソリモンスターもいないし、追い剥ぎに怯える必要もない。
「このままじゃ原始人に戻りそうだし、あたしが村長に頼んで住む場所なんとかしてもらうわ」
俺はテミスの紹介で、トンパ村で農作業の仕事を貰う。
氷を割りたいという事情は村長から通っており、特別に使われていない馬小屋をもらうことができた。
正直臭いし汚いが、壁があって屋根がある生活は洞窟で野宿するより遥かに文化的だった。
◇
馬小屋をもらった翌日――
俺は朝のドリルを終え、村の手伝いへと出る。
村長から、適当に歩いているだけで多分仕事が来ると言われていたので、畑仕事をする爺ちゃんたちを見ながら村の中をプラプラしていた。
すると早速困った老人から声をかけられる。
「おーい雪村や、牛が田んぼにハマってしもたんじゃ、なんとか持ち上げてくれんか?」
俺は300キロくらいありそうな牛を見て、気軽に言ってくれるなと思いつつ、田んぼに入ってドロドロになりながら牛の救出を行う。
1時間の格闘の後、なんとか牛を押し上げることに成功。
「おう、あんがとな! お前細っちょろいけど意外と力あるな」
「は、はい」
ゼェゼェと息を切らしへたりこんでいる俺に礼を言って、牛飼いの爺ちゃんは仕事へと戻る。
そんな疲れ果てている俺に、今度は別のお婆ちゃんが声をかけてくる。
「雪村くん、いつも使ってる薬草が森の中にあるの。とってきてもらえないかしら? 緑でフサフサした草なんだけど」
「わかりました」
俺は近くの森へと行き、山ほどある緑のフサフサした草を見つつ顔をしかめる。
「全然どれかわからん」
薬草の知識なんかないので、片っ端から草を集めて持って帰った。
「あららいっぱい持ってきてくれたのね。この葉っぱだけでいいのに」
「他のは何かに使ってください」
拾ってきた草の中に当たりがあってよかった。
草を全部渡していると、次は気難しい大工の爺ちゃんから声をかけられる。
「おい雪村、新しい家に使う材木を取りにいってくれないか? なに太い木を3,4本でいい」
「わかりました」
俺は斧を借りて、再び森へと出ると左手一本で木をカンカンと叩く。
「木1本倒すのも……結構……大変だな」
2時間ほどかけて木を倒し、村へと運ぶ。
「おっ、やるじゃねぇか。ありがとよ」
大工爺ちゃんに木を引き渡した後、俺は疲労で自分の馬小屋でぶっ倒れていた。
初日からなかなかハードだと思っていると、また別の爺ちゃんが駆け込んでくる。
「雪村、大変だ! 村長が餅を喉に詰まらせて死にかかってる! なんとかしてくれ!」
「わかりました」
俺はピースメーカーで詰まった餅を吸い上げて、幽体離脱していた村長を救った。
正直限界村をなめていた。
俺は再び馬小屋でぐったりと倒れる。
ドリルで氷を叩くのも大変だが、こっちもなかなかの重労働だ。
皆困っていたようで、たまっていた作業を全部持ってきている感がある。正直体力的苦しさを感じ、全部を引き受けるのは無理かなと思うが。
「……やってあげないとかわいそうだもんな」
住ませてもらっている恩は返さなければ。
夜になったら氷叩きに洞窟に行こう。そう思って体を休めようとしていると、またコンコンと馬小屋をノックされる。
またトラブルかと思って起き上がると、外には今日手伝った爺ちゃん婆ちゃんが揃っていた。
「雪村、これさっき田んぼにハマった牛から作ったチーズだ。食べな。あとすくねぇけど干し肉も食いな」
「雪村くん、これあなたが取ってきた薬草。筋肉痛に効く奴があるから、氷叩いて腕が痛くなった時使って。あとこれ息子が着てた服なんだけど、夜寒いから着て」
「雪村ー、とってきた材木でテーブルと椅子作ってやったから。これ使え」
手渡された食材や服を見てキョトンとしてしまう。
「……ありがとうございます」
なんというかハードに働いた分、人の優しさが返ってきて初めての感情が込み上げている。
今まで一人だったから。
前世でも誰かに頼りにされるということがなかったから。
自分が生きるためだけに戦ってたから。
人を手伝って感謝されるということに、自分の生を実感する。
「どうした雪村、オメェ泣いてんのか?」
「いえ、変な奴ですみません」
込み上げてきたものを押さえきれなくなっていると、爺ちゃん婆ちゃんがオロオロとする。
「ごめんね、初日でいきなりいろいろ押し付けちゃって」
「ワシらも頼む人がいなくてな……」
「こんな生活が嫌で、若いもんは王都に逃げちまったのかもしれんな」
勘違いした爺ちゃん達に首を振る。
「いえ、遠慮なく言ってください。なんでもやるんで」
◇
それから一ヶ月後、俺は朝のドリル、昼は村の手伝い、夜のドリルの生活を繰り返していた。
食事も爺ちゃん婆ちゃんから常に差し入れが届き、食うに困ることはなくなっていた。
更に、空いた時間には村長からは武技の伝授を受けていた。
「ハァハァハァ……ただのモブ村長かと思ってたら、めちゃくちゃ強い」
「フォッフォッフォ、ここは勇者出生の村じゃぞ。勇者に武技を授けたのはワシじゃ。さぁ早くフニャチンドリルを使うとええ」
「なんて口の悪い村長なんだ。餅食って死にかかってたくせに」
「今のお主より、餅の方が100倍強いぞ」
「こんのぉ!」
俺は村長を捕まえようと飛びかかるも、さっきまでその場にいた村長の姿が消えていた。
「なにっ!?」
「フォッフォッフォッ、残像じゃよ」
背後から声をかけられ、慌てて振り向いたときには空中に放り投げられていた。
たっぷり滞空時間があった後、芝生の上に腰から落下して悶絶する。
「ぐえっ、村長強すんぎ」
「雪村、お主はドリルに頼り過ぎなんじゃ。ドリルはその性質上、槍と同じく突くと薙ぎ払うしかない。しかも突き刺されん限り大したダメージはない」
「確かに……でも俺攻撃スキルなんかないよ」
「ワシを見ておれ」
村長は高さ10メートルくらいのそこそこ太い木の前に立つと、腰を落とし、深く腕を引く。
魔力に鈍感な俺でもわかる。老人とは思えない青白い闘気が背中から立ち上る。青の光は右拳に集中し、輝いて見える。
「喝!!」
次の瞬間、木の幹に拳形の巨大な穴が空き、ベキべキと音を立てて倒れていく。
枯れ木のような腕から放たれた一撃とは思えない威力に、あいた口が塞がらない。
「なんだこの威力……」
「拳に闘気を集中させ爆発的な威力を放つ必殺技。名付けって村長アタックじゃ」
「技名クソだせぇけど超強い」
「恐らくそのドリルでも同じことができるじゃろう。たった一つ必殺の一撃を持つことで、戦略は大きく変わる」
「……村長、いや老師! 教えてくれ、今の技を!」
「フォッフォッフォ、よかろう。修行の始まりじゃ」
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