第4話 罠にかかった女


 シスターに話を聞いた後、俺は城下町を歩いていた。

 彼女の話の中で出てきた封印されしヴァルキリー。

 この話が、昔自分がプレイしたヴァルキリーマムの設定と全く同じなのである。

 また、城下町ジーナスやX教というのも同ゲームの設定と同じだ。


「俺が転生するとき、女神はヴァルキリーマムの世界に飛ばした。つまり、ここは本当にゲームの世界なのか?」


 街人の頭に表示されるHPバーを見て、これがただのVRMMOだったらどれほど良かったことかと思う。

 しかし俺の背中には、奴隷商から受けた生々しいムチの跡が残っておりその傷は未だに痛む。


「赤子攫いに攫われてから全てが狂ったな」


 もし仮にヴァルキリーマムの世界に転生したとしたら、俺の立ち位置はどこなんだ?

 主人公だと思いたいところではあるが、右腕にオナホを移植してくる女神である、端役モブにされていることも十分ありえる。


「なんだっけなー確かヴァルキリーマムの主人公って、デフォルトネームがあるんだよな。確か、マル……マルなんとか」


 名前を思い出している時、先程の偽勇者パーティーが俺の前を通り過ぎていく。


「おいマルコ、今日は向こうのいい宿に泊まるんだな」

「当たり前だろ、オレたちは勇者なんだから安い宿なんかに泊まれっかよ」

「あんたらそんなお金ないわよ」

「なくても大丈夫なんだな」

「そうそう、オレたちゃ勇者の子なんだからよ。一般市民が協力するのは当たり前だろ。おっと、こんなところで本音言ったらまずかったな」

「グハハハ、どうせ誰も聞いてないんだな」

「あーこの勇者の紋章のおかげで、楽できていいぜ」


 俺は、えっ……ちょっと待って嘘でしょ? と内心動揺する。

 マルコと呼ばれた少年の右腕に刻まれている紋章。確かにあれはヴァルキリーマムのゲーム内で、主人公が所持していた紋章だ。

 絶対偽勇者だと思っていた連中が実は本物なんだったら、俺は一体なんなんだ?


「やっぱりモブか?」



 翌日――


 俺はシスターに教えてもらったトンパ村と呼ばれる、人口50人ほどの小さな村へとやってきていた。

 王都から片道約4時間。田舎と聞いていたが、本当に周囲には小さな山と森しかない紛うことなき田舎である。


「ここか……」


 話では封印された勇者パーティーの氷は、故郷の村に運ばれたとのこと。

 つまりここが母の実家ということになる。


「ここが始まりの村ってやつか……」


 俺は話を聞こうと思い村の中へと入り、農具を持った老人に声をかけた。


「すみません、ここに勇者が閉じ込められている氷があると聞いたのですが」

「おぉ……そうじゃが。観光で行くような場所ではないぞ?」

「もしかしたら自分の母親かもしれないんです」

「ふむ……なにやら事情がありそうじゃな。ワシはこの村の村長ポピンズじゃ」

「雪村です」


 俺は村長に、自分が昔攫われた子であること、勇者の子かもしれないことを説明する。


「攫われて奴隷に……辛い思いをしたんじゃな」

「記憶が曖昧で、ただ奴隷商は俺を勇者の子だと言っていました」

「そうか……お主の答えがあるかはわからんが、この村の南西に森がある。道なりに進むと小さな湖があって、そのすぐ近くの洞窟に、勇者の氷は置かれているから見にいってみるとええ」

「わかりました」

「獣が洞窟の中に住み着かないように、罠を仕掛けてある。壁に赤いバツが書かれているところに注意するんじゃぞ」

「ありがとうございます」


 俺は場所を聞いて、洞窟へと向かう。

 森は村からすぐ近くで、鬱蒼と生い茂る木々の中を歩くと湖は見つかった。

 小さいながらも水面は虹色に輝き、とても美しい。

 村長の言った通り、洞窟はそのすぐ側にあり木の蔦が絡んだ入口には石柱が2つ並んで立っていた。


「ここか」


 洞窟の中へと足を踏み入れると、むき出しの土に湿気で苔が生えていて手入れされている様子はなかった。

 側面の壁にはカンテラ型の魔法灯がとりつけられており、頼りない光が洞窟を照らしている。


「入り口は綺麗だったけど、中はダンジョンみたいだな」


 モンスターが住み着いていそうな一本道をまっすぐ歩いていくと、俺は驚くべき光景を目の当たりにした。

 それは魔術師風の金髪の少女が、天井から伸びたロープに片足をとられ、宙吊り状態になっていたのだ。

 HPバーも上下逆さまになっており、ほんの少しずつだがHPが減っている。

 これが村長の言っていたトラップだと気づき、この少女がそれを知らずに足を踏み入れて引っかかったのだと予想がついた。


「罠にかかったイノシシみたいになってんな。生きてんのか?」


 魔術師にしてはえらく短いスカートが上下逆さまになり、黒いパンツと肉付きの良い太ももが盛大に見えてしまっている。

 ロープを切ってやれば助けることもできるが、奴隷商に捕まってからわりと人間不信なので無視して先に進む。


「ぅおい! ちょっと待って!」

「生きてた」


 振り返ると、パンツ丸出し魔術師は体をよじりながら手をふる。


「美少女が罠にかかって困ってるのよ、それを普通無視して行く!?」

「そんな変な格好の女助けたら、セクハラとか言われるからな」

「言わないわよ、早く助けて!」


 ナイフでロープを切ってやると、少女はボサッと地面に落ちた。


「いだっ! ちょっとなんでそんな雑に落とすの!? 美少女の骨格が歪んだらどうするわけ!?」

「やかましい女だな」


 少女はパンパンと土を払いながら立ち上がる。

 確かに自分で美少女と言うだけあって顔は整っている。白磁のような白い肌に、気の強そうな鋭い瞳は深い青をしている。

 ストレートな髪は肩までで切りそろえられており、前髪は左右非対称で右は目にかかっているが、左は耳の後ろへと流れている。

 服装は制服のような真っ白いブラウスで、胸が大きすぎるせいで閉まらないのか、ボタンは第4ボタンくらいまで開いている。

 下半身はさっきまでめくれ上がっていた紺色のチェックスカートに、ニーソックス。肩にローブを羽織っているものの、魔術師と言うよりは派手な学生という感じだ。


「ともかくありがと、後1時間遅かったら頭に血が上りすぎて死んでたわ。あたしはテミス」

「そうか」


 俺が先に行こうとすると少女はガッと肩を掴む。


「なんで名乗った後の返事がそうかの一言なのよ。あんたあたしに興味なさすぎじゃない? あたしわりと美少女よ?」

「言ってることは間違ってないと思うが、俺は自分のことを美少女という痛い女と関わりたくない」

「なによ失礼ね。名前くらい名乗りなさいよ」

「……名前か。そんなものに意味はない」


 気取って言うと、テミスはゲラゲラと笑い出す。


「なにそれ、あんたダッサイ英雄病患ってるの?」


 ※英雄病=中二病

 同い年くらいの少女にプークスクスと笑われ、俺は羞恥で赤くなる。


「俺には名前がない、強いて言うなら雪村だ」

「ユキムラ? 変な名前ね」

「もう知らん、俺は奥に用事があるんだ!」

「ごめんごめん、そんな怒らないでよ。あたしもだし一緒に行きましょ」

「好きにしろ」




――――————

ギルドカード2

テミス・アリエル

職業 魔術師

HP 108

MP 90

防具1 魔術学院制服(紺)

防具2 魔術師のマント(黒)

防具3 ウイッチハット

武器 魔導書

体重 54kg

身長 161cm

所持金 5000B

特殊能力 初級魔術、中級魔術

B98 W60 H92

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