第49話 好き嫌いと評価
一瞬の空白。そして次の瞬間、麻美の額は真っ赤に染まった。
「な、な、なんで? 私のこと何度も嫌いだって!」
「……そういうところが嫌いなんだ」
うんざりしたように麗玖紗が吐き捨てる。
「俺の好き嫌いは、アンタが可愛いかどうかに関係ないだろ」
「え、ええと……」
つまりは絶対的に麻美は可愛い、と麗玖紗は主張している事になる。
同時に重ねて「嫌いだ」と主張しているわけだが。
好き、イコール、可愛い
という世界観で生きてきた麻美にとっては、麗玖紗の主張はなかなかのパラダイムシフトであったことは間違いない。
そしてもう一人、そんなパラダイムシフトで、さらに様子がおかしくなっている者がいた。
「西山……何やってるんだ?」
麗玖紗の言うとおりである。
紀恵は果たして何をやっているのだろうか?
紀恵は今、腰を落とし両手で何かをなだめているようなジェスチャーを繰り返している。
素直に解釈すれば――
――“ようし、そのままそのまま”
になるだろうし、ある程度教養があれば、
――“まだ慌てるような時間じゃ無い”
という解釈になるだろう。
だが、このある意味では、あからさまな紀恵の動きを前にしては、亮平も動かざるを得なかったようだ。
紀恵の両肩を後ろから掴むと、ぐるりと背中を向けて、麗玖紗の視線から紀恵を守るようなポジションに移行する。
そういった仕草は実に彼氏らしいわけだが――
「あ、あの、盛本くん」
そんな亮平に比奈子が声をかけた。
未だ混乱中の麻美に代わって、というわけでは無いだろうが、比奈子自身もこの話し合いを建設的な物にしようと考えたのかもしれない。
何しろ続く言葉は、今更ながら基本的な確認であったからだ。
「盛本くんと、西山さんは付き合っているんだよね?」
「え? ああ、そうだな」
肩越しに、亮平は比奈子の問いかけに頷いた。
「そうなったきっかけは? あさみんが告白するにしても、そういう成功例は参考になると思うんだけど」
「あ、そうだね」
弥夏が比奈子の提案に乗っかった。
もしかすると、それは単純に恋バナを欲していただけのことかもしれない。だが、それでも話し合いの潮目を変えるのには有効と言えるだろう。
何より麻美、それに麗玖紗までも興味深げに二人を見つめている。
麗玖紗であるので、ここまでの展開は想定していたかも知れないが、実際に二人がどう答えるかは、さすがに想定できなかったに違いないからだ。
亮平は自分に視線が集まっているのを察しながら、まずは紀恵を近くの席に座らせた。
そしてあっけらかんとこう答える。
「――俺達がどう告白したかってことか? それならまぁ、『付き合うことにしようか』って西山さんから言われたときに『そうしよう』って俺が返して……あれが告白になるのかな?」
この亮平の回答は麻美達、それに麗玖紗にも不評であったことは言うまでもない。
つまり麗玖紗と麻美の歩調が初めて揃った瞬間はここであったのだ。
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