第56話 紀恵は把握せず
「む、無理だよ! 通学バスってことは、待っている場所に他に男子が一杯いるんでしょ? そこで告白しろなんて――」
「言ってねえ。何を青くなってるのかと思ったら、そんな事考えてたのか」
頭を掻きながら麗玖紗が麻美の狼狽を断ち切った。
「へ?」
「舟城が言ってただろ。告白までに準備を整えるって。それに実際、そんなシチュエーションでいきなり待ち伏せからの告白ってのは確かにハードルが高い」
呆気にとられたままの麻美を置き去りにして、麗玖紗はブツブツと取捨選択を行っていた。
その取捨選択に比奈子が合流する。
「こうなってみると、いきなり告白しないでちゃんと親しくなってからの方が正解だってよくわかる。通学バスは知らなかったし」
「あ、そうだね。じゃあ、通学バスの待ち伏せは伝言だけにして、実際の告白は二人で遊びに行った時とかの方が良いのかも」
さらに弥夏が合流した。
これもまた妄想半分だったが、告白計画に具体性が増したのは確実だろう。
そういった形で外堀を埋められた麻美ではあるが、まんざらでも無い表情を浮かべていた。
何しろ「優しい虐待」とまで言われた、お姫様状態であったので、物事は上手く行くと無頓着に信じてしまう
それに加えて良いのならば、麻美が嬉しく感じたのは、どうやら本気で麗玖紗が告白に協力してくれるらしいことを感じたからだ。
麻美にとっては恐怖の対象。「大嫌い」とまで言われた相手であるのに、だ。
これでは麻美が調子に乗っても仕方がない部分がある。
そして麗玖紗はさらに計画を詰めていった。
「――V田。すまんがもう少し協力してくれ。その人づての人づてで、どこまで久隆って奴に正確にメッセージを送れるのか。それに通学バスが何時に万里に到着するのか」
「確か……通学バスは放課後一時間ごとぐらいに着くはずだ。部活とかがあるからな。一斉には帰れない」
「それなら尚更、情報が必要だな……先に打ち合わせが出来れば……西山」
麗玖紗は紀恵を呼ぶが、残念ながら紀恵は一息に友情を深めてゆく麗玖紗と麻美のコラボレーションに夢中である。
特に嬉しげに表情をほころばせる麻美に魅了されていた。
そこで、しばらくは仕方なく放置される事になったのだが、麗玖紗のプランでは紀恵は不可欠であったらしい。
「――西山紀恵!」
「ん……あれ? 私呼ばれた?」
もはや怒号と言っても良い麗玖紗の声によって、どうにかこうにか紀恵は正気の地平に片足を着地させることが出来たらしい。
ぼんやりとした眼差しで麗玖紗に返事をする。
「だからな。その辺りはアンタの協力がいるんだ。彼氏持ち出しな。盛本もここまで付き合ってくれてるんだ。一緒に頑張ってくれ。それにV田もその方がやりやすいだろう。元々、盛本とは友達なんだろう?」
「それはそうだな……わかった」
紀恵がボーッとしている間に、何事か決まったらしい。
慌ててそれを確認しようとした紀恵であったが――
「遠藤のためにもよろしく頼むぜ」
「うん! わかったよ!」
「麻美を守る麗玖紗」という構図に魅入られている紀恵は反射的に了承してしまった。
よくわからないままに。
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