第57話 失敗転じて?

「これは駄目だ」

「そうだね」


 難しい顔をした亮平がそう言うと、紀恵がそれに追随した。


「まさか、ハンバーグにこんな秘密があるなんて思わなかったわ。白っぽいハンバーグって、要するにパン粉が多かったのね」

「無理にパン粉を多くしたつもりは無いんやけど……」


 言い訳がましく、亮平がブツブツと呟いた。

 そんな失敗ハンバーグの上に、誤魔化すようにケチャップを山盛りに載せる紀恵。


「冷凍しておいた挽肉が足りなかったんだよ。買い物行くのは面倒だったし。冷凍してたもの使い切れて良かったと思おうよ――あ、何だか豆腐ハンバーグの風味」

「それはケチャップの風味と言わへんか?」


 だが失敗ハンバーグがケチャップによって処理できる目処が立った事は、幸いと言えるだろう。


「餃子は……出来るだけの材料はあったけど、手間がかかりすぎるしなぁ」


 しかし亮平はまだこだわっていた。

 このところ、夕飯作りが失敗続きなのが堪えているようだ。


「それに、餃子はねぇ。やっぱり説明しにくいよね」

「それはそうだな。次の週末……は、もうゴールデンウィークか。西山さん、何か予定は?」

「大学に行くよ。予定があるのはその一日ぐらい」

「じゃあ、どこかで餃子しよう。口が餃子になってきた」

「OK」


 と、失敗ハンバーグを食べながらそこまでは順調だったのだが――


「ゴールデンウィークと言えばさ。そんな話したっけ? ゴールデンウィークに遠藤さんのデートさせるって」

「あくまで目標だけどな」


 放課後の話し合いは、そのような結論でお開きになっていた。


「あとは谷がどこまで連絡とれるか? って話になるんだけど、別に久しぶりと言う程、滅多に会わない伝手では無いみたいだし。案外話が早くなるのかも」

「V田くんはそれで良いのかもしれないけど、どうして私がそのクリュウくんっていうのと会う話になってるの?」


 実はそういう話になってしまっていたのである。

 そういった流れを作ったのは、もちろん麗玖紗だ。となると理由を探すのなら――


「『森飯店』で会ったんだろ? で、安藤さんも一緒に……」


 ということになる。

 だが、それも即座に否定できるのだ。


「そうらしいけど、私は誰が誰だかわかってないのよ」

「そうやねんな……案内という理由でも谷がいるから顔がわからん、言うこともないやろうし、第一俺も、あの美形の顔は覚えている」


 亮平の言葉が関西弁と標準語でごちゃ混ぜになっていた。

 実際、亮平の頭の中も混乱していたのだろう。


 それでも何とか、言葉を繋げた。


「多分だけど、安城さんはもっと他の目的があるような気がするんや……」

「へぇ」


 その言葉に、紀恵は嬉しそうな声を上げた。

 口の端にくっついたケチャップを舐め取りながら。

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