第58話 陰謀を重ねて二つ

「それって安城さんも、本当はデートさせたくないって事よね?」

「いや、そうじゃなくてデートはデートで計画して、その他に狙いがあるんじゃないか? って事だよ」


 欲にまみれた紀恵の希望的観測に、釘を刺す亮平。

 紀恵は不満顔だが、亮平はさらに続けた。


「――安城さんはもっと簡単に話をまとめることも出来たと思うんだよ。だけど、随分長くかかっただろ?」

「そうだっけ?」


 あてにならない紀恵の時間感覚は置いておいて、亮平はさらに続けた。


「何となく、こっちが投げやりになるように場を整えていたというか……結局、俺が協力する話になってるけど、それも意味が分からんし」

「ああ、なるほどね。私もどうしてこうなったのか、よくわかってないもんね」


 紀恵の場合、その理由は明白なのだが、さすがに亮平はそこをツッコまなかった。

 不毛だからだ。


 そして不毛の主たる紀恵から、事象を裏切るように、


「で、安城さんに狙いがあるとして、それでどうするの?」


 と建設的な提案がされた。

 亮平もこれには不条理を感じて然るべき状態であるのだが、恐るべき事に亮平は更なる不条理を重ねる。


「安城さんに何か狙いがあるのなら、俺達も狙って良いと思うんだよ」


 この亮平の発言で、紀恵の表情が、スンッ、と切り替わった。

 そしてすぐさま答えに辿り着く。


「――私達は遠藤さんにキャッキャウフフして貰いたい。それが狙いよね」

「俺は違うが過渡期にキャッキャウフフ状態があることは認めよう」

「じゃあ、その狙いの為には……遠藤さんがクリュウっていうのに相手にされない方が良い」


 まさに。

 まさに悪魔の狡知と言うべきだろう。


 今日の話し合いは一体何だったのだ? と余人が知ればちゃぶ台をひっくり返すような所業である。

 ましてや友達になりかけている麻美の恋路を邪魔しようなどというのは……


「そうだ。先に久隆に接触するのは俺達だからな。その時に手心を加えれば、そういう風に持って行ける可能性がある」


 そして亮平もまた、その考えに与した。

 元々は亮平の思いつきでもあるし、何より亮平の好みから言えば、そういう展開の方が有り難い。


 救いを求めるなら、具体的に“そういう風”に持って行ける考えが出てこなかった事だろう。

 現段階では、妄想と大して違いは無い。


 だが妄想に慣れきった二人はそれに気付かなかった。

 この時、亮平もまた自分の妄想によって自家中毒状態だったのでる――倫理的には幸いなことに。


「じゃあ、そういうことでええか、西山さん」

「いいわ。そういう感じで行きましょう。じゃあ、リンゴ持ってくるわね。それともおかわりする?」


 変態達の打ち合わせは終わった。


 ――望むらくは、この二人の妄想が実現しませんように。

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