第59話 士気の異様な高さ

 事態が動き始めたのは明後日の水曜日。その放課後だった。

 はっきり言って展開が異常に早い。


 その理由を探すなら――


「結局、集会所に集まっていた連中には、それなりに連帯感があったというわけだ」


 万里駅から少し離れた高台。あるいは町外れ。

 都市計画というものがあるのなら、駐車場などがまとめて設置され、オフィスビルなど並んでいる硬質な区画だ。


 翠奉大付属高から歩いて数十分といったところだろう。

 先導して紀恵と亮平を案内してきた谷ことV田――逆なのかもしれないが――は、そういった区画を進みながら言い訳じみたものを並べていた。


「案外、広くないんだな。駅前の中心部は賑やかだけど」

「そうね。私にしてみれば、こっちはまだまだ新しいから。突然出現した印象があるし、これから大きくなるのかしら?」


 そんなV田には構わず、紀恵と亮平は万里駅周辺を見回しながらそう評した。


 確かに大学近くのもう一つの駅前は、すでに爛熟したような雰囲気があるが、万里駅の駅前は何かお仕着せの服のような印象がある。

 人が街の使い方を把握していない、と言うべきか。


「俺の話聞いてるか?」

「聞いてる。実際、こんなに早く段取りが整うとは思っていなかった」


 振り返りながら文句を付けるV田に、亮平が如才なく応じた。


「だから下調べも何も出来ていなくてな。万里駅周辺と言われても、こんな寂しい場所があるなんて知らなかったんだ。それで珍しくてな」

「ああ、それは俺も思った。でも通学バスが停まるなら、確かにこういった場所の方が……良いのか?」


 その辺りは不明だが、こういった区画の方が乗降車と発進がスムーズに行くのは間違いないだろう。

 駅にほど近いロータリーに乗り込むとなれば、そのややこしさは想像に難くない。


「で、昔の集会所仲間が親切だったって話になるのか?」


 再び前を向いて、坂を登りだしたV田の背中に亮平は語りかける。

 相手が男子V田であるので、自然と亮平が対応を受け持つことに。


 麗玖紗はそこまで計算して亮平を同行させたのか、どうか……


「ああ。ちょっと連絡取ってみたらすぐだったよ。でも、決め手になったのは道場からの伝手だったのかもなぁ」

「集会所は道場とは違うんだろ?」

「だから空手道場だよ。俺はその道場の方に通ってたんだ」


 V田の告白に、しばし佇む空白。

 そして亮平の視線が背中越しのV田の腹の辺りに落ちた。もちろん口に出しては何も言わない。


「で、そうやって俺の顔が広いのをな。せ……妹に見せると大分、対応がマシになると気付いた」

「V田くん、妹さんがいるの!?」


 突然、紀恵が割り込んできた。

 相変わらず欲望に忠実だ。亮平はそれを無視して話を先に進める。


「……なるほど。妹さんの前でイキってしまって、結果として話が早く進んだと」

「まぁ、そういうことだな。――あ、多分あそこだ」


 そういってV田が指さした先には――何も無かった。

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