第55話 山の上の美鷺

「あ、じゃあ、それも繋がらなかった原因か。俺今まで、その久隆って言うイケメン、もっと年上かと思ってた。結構年が近いんだな。男子校って要するに高校生なんだよな?」


 V田の説明に亮平が声を上げた。そのまま続ける。


「今さら気付いた。谷が一緒に集会所に通ってたんならそういうことになるよな」

「あ、ああ、そうだそれもある。ロキは年が近いと言うか同い年だよ」


 亮平の指摘で、さらにV田から情報が追加された。

 だが、同い年であることは麻美達にとっては周知の事実だったようだ。


 お互い目線を躱しながら「そういえば……」「言ってなかったね」などと囁き合っている。

 無論、紀恵は全くの無関心だ。


 ここで対応がややこしくなるのは麗玖紗である。

 その辺りの情報は先に梢から知らされているからだ。


 その辺りは明言を避けたいと思っていた麗玖紗であるので、自分の立ち位置があやふやになる危険性があったでのある。

 そこで麗玖紗は圧を強めて、V田へと言葉を投げた。


「……男子校ね。学校の名前はなんて言うんだ? どんな学校かわかるか?」


 久隆の年を知っていたことを隠すため、ことさら不機嫌そうに質問を並べてゆく麗玖紗。


「あ、名前ね。美鷺男子校だ。結構ランクが上なんだよなぁ」


 この附属高校もそれほど低いわけでは無いが、美鷺男子校はそれを上回るレベルであるらしい。進学校、という以上に通うこと自体がステータスになっている学校でもあるようだ。


 この辺りも、久隆の情報を集め出した女子達を夢中にさせる要因になっている。

 それに何より男子校だ。ライバルは必然的に少ない――あるいは皆無の可能性もある。


 ただ、美鷺高校を進学先として当たり前に考えていなかった麗玖紗にとってはそれ以上に聞きたい情報があった。


「どこにあるんだ? その男子校。訪ねて行ったりは……」

「あ、それは無理。美鷺って山の上にあるんだよ。そりゃ、歩いて行けなくも無いけど」

「え? そうなんだ。じゃあどうやって?」


 そこに弥夏が割り込んできた。

 V田はそれを受け止めて、肩をすくめる。


「万里駅があるだろ? あそこから通学バスが出てるんだよ。アレはアレで大変そうだけどなぁ」


 万里駅というのは、翠奉高からもほど近い、しかしながら大学からは少し離れた場所にある駅だった。

 ただ、駅前にはごく真っ当な繁華街があり映画館やショッピングモールなどがある。


 V田が気にしているのは、そういった通学途中で繁華街に必ず寄ることになるのは誘惑が多すぎるということなのかもしれない。


「――じゃあ、とりあえずそこで待ち伏せは出来るわけだ」


 情報をまとめた麗玖紗がそう結論づけた。

 つまりは通学バスが万里駅に到着するのを待っていれば良い。そうすれば自然と放課後の久隆と会うことが出来るというわけだ。


 理屈だけを言うなら、それには圧倒的な正しさがあったのだが――麻美の顔色が真っ青になる。

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