第74話 半月分の成果

 きっとBGMはショパンの別れの曲。

 そういう感じのイメージビデオ。


 輪郭線はセピア調。それによって描かれるのは呂貴也と麻美だ。

 二人ともめかし込んでいる。


 そして二人が訪れたのは万里駅付近の繁華街。一般に言うところのデートというイベントが起こっているのだろう。


 そして、このイベントが起きたのがゴールデンウィークの五月三日。

 四月の間、B組を騒がした麻美を中心とした問題に、この日ケリがついたのである。


               ~・~


 当たり前の話だが、二人のデートを誰かが尾行していたわけでは無い。

 だが、B組のクラスメイトは大まかなことを知っていた。


 何故なら、麻美がそれはそれは嬉しそうに教えてくれるからだ。言いふらしていたと言っても良い。

 正確に言うと、弥夏、比奈子、そして梢に向けて何度もデートのあらましを麻美が説明するから、自然と知ってしまうのである。


 では、どういうあらましであったのか。


 まず前提条件おさえておきたいこととして、デートによって麻美と呂貴也が付き合い始めたという展開になったわけでは無いのだ。

 麻美の様子からは、そうとは感じられないのだが、これは厳粛な事実である。


 では、麻美は何故こんなに浮かれているのか?


 それは呂貴也が麻美のことをよく知っていた――その一点しか理由が無い。

 それしか無いのに、ここまで浮かれることが出来る麻美も麻美であるが、その一点にはこんな具体的な部分があったのである。


 それを慣用句にまとめると、


 ――「俺のために争わないで」


 と、言うことになる。

 つまり、麻美と梢の間に起こった確執についても呂貴也は知っていて、それを取りなそうとしてくれている。


 麻美は暴力的なポジティブさで、呂貴也の取りなしを慣用的に受け取ったのである。


 これには麻美もまた、梢と仲直りしたいという心境になっていたことも大きいだろう。

 だからこそ麻美は拡大解釈じみているが、呂貴也は自分のために親身になってくれたのだ、と解釈できたのである。


 こうして麻美と呂貴也のデートは、実際の交際については進歩が見られないものの、確かに成果はあった、という評価に落ち着くことになったのだ。


 それに、このデートについても一気に告白から交際に繋げるプランでは無かったはず。これから呂貴也と交流を続けていけば良いだけの話。


 そう考えると、確かに麻美が勝手に盛り上がっているだけ、とは言いがたい状況ではあるのである。

 

 だが、この状況に違和感を覚えるものも当然いる。例えば「うまく出来すぎている」と。

 

 だからゴールデンウィークが終わって、麻美からのデート報告が一段落した頃――


「よ、ちょっと混ぜてくれ」


 と、麗玖紗が昼休みに紀恵と亮平に声をかけたのも必然と言えるだろう。

 四月の間の騒動が本当に幕を下ろすのは、これからなのかも知れない。

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