第73話 異変のはずが
さて、力関係が出来上がってしまっているこの三人。
一般に言われるところの「位付けが出来ている」状態なわけで、どんなに話が転がっても、それは揺るがない。
……はずだったのだが。
「ククク……フフフ……ワーハハッハッハ!!」
と、悪党必須の三段笑いを披露しているように見えるのは呂貴也であった。
実際にやったら、物理的に同時にツッコまれるところだが、雰囲気的にはそんな笑い声が聞こえてくるような状態である。
「違う! O次郎! あなたのそれは百合じゃ無い!」
と、まるでうつ伏せに倒れ、背もたれの高い椅子に座っている呂貴也を見上げているような雰囲気の紀恵。
あくまで雰囲気である。
「いや、これが俺にとっての百合! 亮平の百合とさほど変わらない!」
「ロキ! それは全然違う!」
目を伏せ苦悶の表情を浮かべる亮平。
あ、これはちゃんとそんな感じです。
O次郎呼びは変わら無かったが、亮平と呂貴也の間では名前呼びが浸透するほどの時間が経過していた。
それであるのに、テーブルの上には片付けられないままのカレー皿などの食器。
窓の外はとっぷりと日が暮れている。
三人が亮平の部屋に乗り込んだのが十八時半ほど。そして現在は二十一時を超えているわけだ。
つまり、この三人は三時間近くも話し込んでいたことになる。
紀恵と亮平の悪巧みを呂貴也に伝えるだけでは、こんなに時間がかかるはずも無い。つまり、何故そんな悪巧みをするに至ったのか?
そこまで呂貴也に説明することになったのであろう。
「百合」という単語が頻出しているところからも、それが窺い知れるというものだ。
だが、それがどうして最終的にこんな大袈裟な雰囲気になってしまったのか……
「これで問題ないだろう? 二人の要求通りだし、俺も遠藤さんと会おうと言ってるんだ」
実は、呂貴也の言うとおりなのである。
不穏当な単語で溢れかえっているが、表面上は成功している――あるいは成功を信じることが出来る段取りが出来上がってしまっているのだ。
「……それは……そうだが」
「盛本くん、片付けよう。私疲れちゃった」
実際、疲労によってこれ以上呂貴也に付き合っていられない、というのが二人の本音でもあるのだ。
このままなし崩し的に、この会合もお開きになりそうである。
「……ロキ、リンゴ食べるか?」
そして終了を示すように亮平がデザートを用意しようとした。
「いただけるのなら」
「あ、そうか。今日はO次郎がいるから、いつもの出来ない、って言うか必要ないわね」
「いつもの、って……普段はリンゴをどう食べてるんだ?」
その紀恵の言葉に呂貴也が食いついた。
もはや呂貴也は二人のファンであるので、なんでも知りたがるのである。
そんな呂貴也に亮平が疲れた表情で応じる。
「半分に切り分けて、俺と西山さんがそれぞれ皮を剥いて、それを交換するんだ」
「はぁ?」
呂貴也が素っ頓狂な声を上げるのも仕方ないだろう。
それほどにおかしなことを二人は普段していることになる。
その理由は――
「リンゴって、自分で剥いて自分で食べるのって虚しくなるのよ。人のために剥くのは全然良いんだけど……だから二人でリンゴ食べるときはそういう風にしてるわけ」
紀恵が早口で説明する。おかしなことをしている、という自覚はあるのだろう。
呂貴也はそれを聞いて、呆気にとられたような表情を浮かべるが、次に亮平に確認した。
「で、それを同じ事を亮平も考えてたんだ? 西山さんが、そういう虚しさを亮平に説明する前に」
と。
あまりにも具体的な確認であったが、実は呂貴也の言うとおりなのである。
亮平としても黙って頷くしか無い。
そんな二人を見て、呂貴也は魅力的な、そして自然な笑みを見せた。
どんな話が行われたとしても、これだけは確実だろう。
――紀恵と亮平は呂貴也の新たなダブスタになったのだ。
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