第72話 伯仲
紀恵の指摘は確かにその通りなのだが、呂貴也の話をキチンと聞いて、総合的に判断した結果、その急所を見出したわけでは無い。
ただ呂貴也の「告白は断る」という発言だけが、紀恵の頭に残っていただけだ。
その後の、一番良いポジションにいると思い込む男子の悲惨な状況については当たり前にスルー。
その辺りは紀恵にとって果てしなくどうでも良いことなのである。
だから再び調子に乗りだした――と、紀恵は思っている――呂貴也を修正するために、紀恵は肝心なところを繰り返したのである。
それに実際、呂貴也が持つ「告白は断る」という前提は亮平と共に考えていた悪巧みに関しても鍵になる部分であることは言うまでもない。
そのため呂貴也に向けられた紀恵の圧は、この時、麗玖紗に匹敵する勢いだった。
「え? あ~、う、うん。そうなる、な。あ、あれかな? 会ってもいないのに断ろうとするとか、常識が無い、とか、そういうこと?」
完全に怯えながら、何とか呂貴也は紀恵の言いたい事を汲み取ろうと頑張ってみた。
呂貴也の告白経験則から導き出される推測は、蓋然性の高いものではあったことは言うまでもないだろう。
――だが、相手は西山紀恵なのである。
そしてその相方の盛本亮平なのである。
紀恵は呂貴也の反応に「処置無し」と判断を下したのだろう。今度は亮平に向けて耳打ちするように話しかけた。
「……盛本くん。これはそのまま言ってもいいんじゃない? というか、今までだって言っても良かったと思ってたんだけど」
「谷がいたから、ちょっと迷ってたんだ。だけど確かに今なら……」
同じように小声で返す亮平。
確かに、今の状況であるなら、かなり思い切った話も出来るだろう。いつの間にか状況が整ってしまっている。
そして呂貴也も二人の様子から、どうやら自分の経験則に収まらない事が起ころうとしていることを察した。
そして、それを確認させるためには――
「……盛本。『告白……』の続きはなんて言うつもりだったんだ?」
今度は呂貴也が急所を抉る欲求を突きつけてきた。
しかし、紀恵にして見えればその要求は願ったり叶ったりであることは言うまでもない。
そして整いすぎた状況。
亮平はその流れに押されるように。続きを口にしてしまった。
即ち――
――「告白しようとする女子がいるんだけど、断ってくれないか?」
と。
その言葉だけを素直に捉えるなら「思い込んでる男子」の欲望が素直に出てしまったような言葉である。
だが、亮平はそういった男子にはカテゴライズされない事は明白だ。
呂貴也は判断に迷う。
そして迷った理由を探し、すぐさまそれを見つけ出した。
「……もっとゆっくり話す必要があるらしいな」
迷った理由は情報不足。
それを解消するためには情報収集。
そうと覚悟を決めた呂貴也は、その美貌が持つ凄味を亮平に叩きつけた。
……次の瞬間、紀恵に「生意気だと」スプーンの先で指摘されたとしても、呂貴也としては、頑張ったのである。
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