第71話 再びのショートカット
「で、俺は告白されることが多くてさ。直接告白されることはもちろん、盛本がやってるみたいに、間に人を挟むこともあった。で、間に男子が入ってると大体は悲惨なことになる」
話が元に戻ったところで、呂貴也は先を続けた。
呂貴也の美貌を考えれば、あまた告白をされるであろう事は想像に難くない。
ただ、間に男子が入って悲惨になるという話は、亮平には理由がわからなかった。
それが素直に顔に出てしまったのだろう。
呂貴也は苦笑を浮かべる。
「盛本もどこかズレてるんだよなぁ。まぁ、西山さんの彼氏やってるんだから、それも当然か。だから盛本にはピンとこないかも知れないけど、男子を通して告白の段取りを整えたりしてる展開だと、たいてい男子の方に下心があるんだ」
「下心?」
本当に意味が分からないのだろう。
亮平がおうむ返しに呟いてしまう。
「そう。俺に告白したいって女子がいるだろ? で、俺が断る。そうすると段取りを整えた男子が、その女子の彼氏候補として一番良いポジションになる。……と言うか一番良いポジションになれると男子は思い込んでしまう」
そこまで呂貴也に丁寧に説明されて、亮平はようやく合点がいった。
確かに今の状態はV田も含めて、麻美のために粉骨砕身しているように見える。
その見返りを求めるのは、ある意味で自然な流れなのかも知れない。
だが亮平は他に悪巧みがあるので協力してはいるだけ。麻美のことについては妄想の材料以上には考えていないから、そこで認識に齟齬が発生したのである。
V田について、その動機はよくわからないが麻美目当てでない事は確実だろう。他に命をかけるべき対象があるようではあるし。
だからこそ今まで、亮平は呂貴也の懸念に気付くことが出来なかったのだ。
亮平は思わず「ムムム」と唸ってしまう。
呂貴也の指摘する男子の思い込みは百合妄想に使えるのでは無いかと考えたのだ。
だが、呂貴也は当たり前に亮平が「男子の思い込み」について、嫌悪感のようなものを抱いたのだろう、と受け取った。
その前提で話を進めてしまう。
「これで悲惨なことになるって意味が分かっただろ? あとは告白してきた女子と、その男子との間でトラブルになるんだ。俺はそれも見てきたし……」
当然、呂貴也もそのトラブルに巻き込まれていたのだろう。
そこで先回りして、なんとか告白をやり過ごそうと考えて、ファーストフード店ではああいう対応になってしまった、ということになるわけだ。
そこまでは理路整然のように見えるのだが、一つ大きな前提条件がある事は言うまでも無い。
紀恵は、そこを突いた。
「O次郎、あなたは告白されたら断るんだよね?」
そうなのである。
悲惨なことになる前の前提条件として、呂貴也は女子の告白を断る、という行動が必要不可欠なのだ。
紀恵は期せずして再び急所を突いてしまった。
麗玖紗の推測を、欲望のままに飛び越えてしまったときのように。
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