第22話 昼休みの乱・結
だがこれで、紀恵が嘘をついている可能性が否定されたわけでは無い。
傍証はたくさんあるが、その異常性も騙りであり、
だから麻美が今までの主張のように「紀恵がイケメンを隠そうとしている」説にこだわり続けるなら、もう一波乱起こる可能性はあったのだ。
まずあり得ないような可能性ではあったが、それでもごねるのが駄々というものである。
しかしこの時、麻美は圧倒されていたのだ。
紀恵と亮平に。しっかりと成立している彼氏彼女という関係性に。
問題のクリュウのという名のイケメンと、麻美はそういう関係になりたいという、願いがある。恋する者なら誰でもそう願うように。
言ってみればそこがゴール地点でもあるわけだ。
しかし先にゴールしているのは、疑いようも無く紀恵。
結果として、紀恵は知らず知らずのうちに麻美にマウントを取った状態になっていたのである。
麻美はそうと理解して、今度こそ泣き始めた。
叫び出すようなことは無いが、シクシクと教室の湿度を上昇させるかのように。
それは麻美の本能であったのかもしれない。泣いていれば、周囲が自分に優しくしてくると。
しかし、この時ばかりは勝手が違った。
何しろこの場を仕切っている者は――
「泣くの止めるように言ったわ」
厳かな声で告げる安城麗玖紗なのである。
「それにアンタのやることは泣くことじゃない。行き違いはアンタのせいじゃないけど、人一人を悪者にしてたんだよ。まず謝る」
断定であり、決めつけである。
そして無慈悲であった。
弥夏と比奈子が色めき立つが、同時に麗玖紗の目力を浴びて固まってしまった。
そもそも麗玖紗の言っていること方が道理なのだ。二人もそれが理解出来るからこそ沈黙してしまったのだろう。
いよいよ麻美が追い詰められたかと思われたが……
「いいよいいよ。私気にしてないし! 遠藤さんも混乱してるしね。誤解も解けて、私はスッキリ!」
本当に晴れ晴れと寛容なところを見せる紀恵。
確かにこの事態を穏当な形で収めるなら、それは被害者である紀恵にしか出来ないだろう。
しかし我々は知っている。
紀恵がこの場を収めるために、こんなことを言い出したわけではない事を。その証拠として、紀恵の眼差しが熱を帯びている。頬も紅潮していた。
何かしらの妄想で興奮しているのだ。
「あ、アンタがそう言うなら……」
さすがの麗玖紗の腰も引けている。
「そうそう。さっさとお昼を済ませないとね」
紀恵が重ねて宣言することで教室の空気も緩んだ。
麻美の叫びから始まった騒動は終わり、いつものB組へと戻るかに思われたが――
当然、そんな事にはならない。
このクラスのヒエラルキーのトップが入れ替わったのだ。
安城麗玖紗。
そして
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