第23話 夕飯を用意する暇もなく
騒動が起こった昼休み。
そこから先、B組は小康状態であった。
正確に言うと、麗玖紗のご機嫌を窺う様な雰囲気があったということになるだろう。
昼休みに教室にいなかった者達も、異様な雰囲気に気付いて、何があったのか? と尋ねて教えて貰っていた。
図らずも、進級したばかりのB組が、打ち解けるきっかけになったのは皮肉と言えるかもしれない。
そうなると、きっかけとなった麻美を針のむしろに座らせる事になりそうだったが、それ以上に奇妙な者扱いになった紀恵、そしてその彼であるところの亮平の方がよほど注目を浴びていた。
今までも付き合っていることを隠そうとしない二人であるから、元々注目を集めていたのだ。そして紀恵の「ダブスタ、なにするものゾ」発言は、かなり好意的に受け止められてもいたのである。
……必然、紀恵の女尊男卑主義の広く知れ渡ることになったわけだが。
その二人は、クラスメイト達の視線を意にも介さず、現在はほか弁を食卓に載せて、向かい合っていた。
二人とも興奮状態で、夕食を準備する余裕がなかったのである。
「安城さん……確かに、西山さんの言ったとおりだった。凄い逸材だ」
「で、しょう~! いやぁ、私もあんな風な人だったとはわかってなかったんだけど!」
……その紀恵の言葉は果たして謙遜と言えるものだろうか?
要するに二人とも、麗玖紗が妄想するのにうってつけだと自白しているようなものなのであるから。
「だけど現状では、遠藤さんと安城さんの間に力関係が出来上がってしまったいるだろう? 俺にはもってこいだけど、西山さんの好みじゃ無いんじゃ?」
挙げ句、心配の仕方が亮平もおかしい。
「そんな事無いわよ。安城さんの強キャラ振り見たでしょ? 感じたでしょ? 男が入ってくる隙間あると思う? それは秋瀬さんも舟城さんも同じ事よ。女の子だけで、あのグループは一段上に上がったわ!」
一体、紀恵はどんな立場で話しているのか。
「……そうか。安城さんが加わることで、もう男の影を意識しなくても良いんだな。だけど、西山さんが好きな皆仲良しにはならないと思うけど」
「ま、とりあえずはきっかけとしてね。それにきっかけさえあれば、それでもう不自由は無いわけだし」
つまり現実がどう転んでも、今日の麗玖紗のキャラがあれば妄想には支障が無いということだ。紀恵の脳内ではキャッキャウフフ空間がすでに息づいているのだろう。
そこには麻美への気遣いなど微塵も無い。
きっぱりと鬼畜外道だ。
そしてそれを窘めもせず「もっともなことだ」と言わんばかりに、ホカ弁の白飯をかき込む亮平。割れ鍋に綴じ蓋というべきか。
――だがやはり、現実が二人を逃すようなことはなかったのである。
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