第24話 麗玖紗からの呼び出し

「アンタ達、ちょっと時間取れる?」


 騒動があった翌日の火曜日。

 麗玖紗がそう呼びかけるのは、紀恵と亮平だった。


「時間? 今から?」


 紀恵が興奮しながら、それでも肝心なところを確認したのは、現在いまが一時間目と二時間目の間のわずかな空白時間だったからだ。


「そうじゃなくて放課後。別に急いでないけど、ちょっと、まとまった時間は欲しいな」


 麗玖紗は二人の事情を考えてくれているらしい。

 どうやらそこまで物騒な話では無いようだ、と教室全体が安堵のため息を漏らした。


 もはや麗玖紗の声だけで身体の線を固くしていた麻美達も、緊張を解く。


「ああ~、今日は私は良いけど盛本くんが……」

「大丈夫だ。今からならいくらでも調整できる」


 「歴史部」に顔を出す予定があったのだろう。それを即座に調整すると宣言する亮平。さすがに麗玖紗も気を遣ったのだろう。


「いいのか……?」


 と、念押しするように確認するが、亮平は鷹揚に頷くばかり。

 麗玖紗の圧力に負けた風でも無いので、亮平は随分器が大きいという評価がB組では与えられたわけだが――


 もちろん、私達は知っている。

 亮平も、所詮は変態であることを。


 だからこれは亮平の器の広さを示すようなものでは無く、自分の妄想をより細密にするため、麗玖紗の為人を知ることを最優先にしただけなのだ。

 そして紀恵とは違って、亮平はそれを表に出すことは無い。


 逆に、紀恵だけが亮平の真意を見抜き、すがめで亮平を見ているあたりは、実情を知っていればかなりわかりやすいだろう。


 だが実情を知らない麗玖紗は、改めて反応が規格外の紀恵の様子を見て腰が引けていた。


「じゃ、じゃあ、放課後にな」

「了解。調整できたら昼休み辺りには知らせる」


 引き気味の麗玖紗に如才なく応じる亮平。

 こうして教室内の視線を集めながら、約束が交わされたのである。


              ~・~


 それから放課後までは、大過なく時が過ぎていった。

 麗玖紗は何も言わないし、紀恵と亮平は妄想で忙しいので、何を尋ねられても生返事である。


「――じゃ行こうか。どっちから帰るの?」


 かくて放課後になり。放埒な髪を揺らしながら紀恵に近付いてゆく麗玖紗。

 どっちから帰るのかという質問は「北門か? 南門か?」ということだと、この学校の生徒なら、改めて確認する必要も無い問いかけだった。


 問題となるのは、むしろ紀恵達の家の近さだろう。寄り道するだけのマージンが存在しないのである。


「北門だけど、それだと余裕がないから、そっちが良ければ南門にならないかな?」

「? まぁ、私は南門だからその方が助かるけど……」

「んじゃ、決まりね。盛本くんもそれでいいでしょ?」

「ああ。南門だな」


 こうして視線を浴びながら三人は学校を後にした。

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