第35話 痛し痒し

「それは……」

「言ってしまうとな。そこに興味があるんだ私は。経験則とも違う部分だ。別にダメ男に惹かれているわけでも無いんだろ? 多分イケメンは学生だし」


 麗玖紗の言葉に梢はまた目を見開く事になった。

 メガネ越しの瞳に驚愕が浮かぶ。これだけ事情を推測しているなら、確かに今更自分の説明はいらないだろうという納得も同時に梢を襲った。


 そんな梢の様子を見て、麗玖紗は苦笑しながら説明した。


「……時間指定して西山達がイケメンと接触するようにラーメン屋に行かせたんだろ? だとするとイケメンはバイトなんだろうって、当たりはつくさ。大学生か?」

「……美鷺男子校の二年よ」

「はっ! 同い年かよ! そこは意外だったな」


 麗玖紗が吐き捨てるように告げる。

 梢はただただ麗玖紗の能力ちからに圧倒されるばかりだ。


 いや、梢の腹案ではそんな麗玖紗を頼りに思わなければならないはずなのだが、さすがに麗玖紗はキレ過ぎる様な気がする。


 元々、麗玖紗に声をかけた時点で全部正直に答えようとしていた梢だったが、改めて決意を固めた。


「んで、どういうわけかアンタはイケメンを危険視するようになっている。この辺りがわからん。イケメンに酷い目に遭わされた……っていうなら、あの取り巻き二人ももっと熱心に遠藤を止めるだろうし……だからさっぱりわかんない」


 タイミングよく麗玖紗の話は、梢がなんとしても説明したかったところだ。

 だが、その前に――


「――それはなんとか説明するつもり。だけど先に訂正して欲しい。ミーナとヒナコ……秋瀬さんと舟城さんは取り巻きじゃ無いわ。随分面倒をかけてるもの。だから……」

「へぇ」


 この梢の訴えは、麗玖紗の予想外だったようだ。

 短くそう反応すると、


「わかったよ。取り巻きじゃなくて秋瀬と舟城だな。了解了解。確かに板挟みになっている感じはあったしな」


 と、あっさりと梢の訴えを受け入れる麗玖紗。

 しかし続けて、こう告げた。


「だけど、あの二人がそういう立場なら、遠藤はますます立場をなくすぞ」


 その指摘に、一瞬梢は表情を硬くする。

 しかしすぐに、顔を伏せた。


「それは……どうかな。結局、久隆さんにイヤなものを感じたのは、私の思い込みかもしれないんだし。私が勝手に面倒をかけてるだけかも」

「“イヤなものを感じた”」


 あえて梢の感情を無視したのだろう。

 麗玖紗が彼女にとって肝心な部分をおうむ返しに唱える。


 梢も改めて表情を引き締め直すと、麗玖紗になんとかして自分の懸念を説明した。

 それを聞き終えた麗玖紗は怒りだす。


 面倒なことに関わってしまったと自分自身に腹を立てたのだ。

 結局、麗玖紗は梢に協力する判断を選択してしまうことになったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る