第61話 意外な為人

 さて挨拶は済んだものの、順番としてはV田と呂貴也が久闊を叙するあたりから始めねばならないだろう。

 万里駅に近付きながら、二人は紀恵と亮平にはわかるはずも無い固有名詞を使って、語り合っていた。


 呂貴也は見た目とは違って、随分気安い性格のようだ。

 もしかしるとそれはV田が旧友であるせいなのかもしれないが、亮平にとって、それは好材料と判断することが可能だった。


 さらに――


「で、俺はこの辺りさっぱりわからないんだ。駅があるのはわかるけど、他の店はなぁ」


 と、呂貴也は意外な告白をする。


「通学途中に、こんな場所があるのに?」


 と、思わず亮平が声を上げてしまった。それを聞いてV田がポンと手を打つ。


「あ、言ってなかったっけ? ロキの家、代わったんだよ。今はあっちのマンションだっけ?」


 といってV田が指さすのは、通学バスが止まった殺風景な区画だった。

 そこから先に視線を巡らせると、確かに高層ビルがある。あれがマンションだとすると、一般に言われるところの「タワマン」ということになるだろう。


 だが呂貴也の自宅が、奥に見えるタワマンということになれば、万里駅周辺が不案内であることの理由が出来上がることになる。

 万里駅は呂貴也にとって「通学途中」にはならないからだ。


 そして呂貴也の待ち伏せポイントが、あの殺風景な通学バスの停車場所になるのも頷けるというもの。


 バスを降りてからタワマンまでの道すがらで待ってしまうと、不審者然が過ぎてしまうからだ。


「そうなんだよ。集会所に行ってた頃に住んでたアパートが懐かしいな。まぁ、それも今となっては……って奴なんだけどさ」


 V田の確認に、呂貴也は寂しげな表情を見せた。

 経済的に随分楽になった、ということなのだろうと亮平は察する。


 とは言っても、それで計画の大きな変更には至らないだろう。

 同じ高校生の身だ。手頃なファーストフード店で何かしらご馳走すれば、望んでいた状況に持ち込めるはずだ。


 だが経済的な事情を鑑みなければ、もう少し閉鎖的な喫茶店を選びたいと亮平は感じていた。

 何しろ呂貴也は目立つのである。


 頭一つ抜けた身長の高さは言うに及ばす、その美貌で自然と街を行き交う人々の視線を集めてしまうのだ。

 なるほどこれでは繁華街には行きにくいかもしれないなぁ、と亮平は他人事のように考えていたが、これは現実逃避に違いない。


「せっかく、こっちに来ることになったし、限定メニュー食べてみたい。それでいいだろ?」


 呂貴也は今の状況を把握していないのか、それとも慣れっこであるのか、ファーストフード店を所望した。

 確かに高校生としては、真っ当な提案だろう。


 V田はもちろん、亮平もそれに賛成するしかない。

 一人、あぶれたようについてくる紀恵は上の空であらぬ方向を眺めている。


 そんな紀恵の様子を、呂貴也の視線が撫でた。

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