第62話 亮平の停止

 呂貴也の背の高さは確かに便利だった。

 ハンバーガーのファーストフード店に乗り込んだわけだが「あそこが空いてる」と、店の中央に位置する四人がけのテーブル席を、すぐに確保出来たのだから。


 しかしその場所は、店内から自然と注目を集めるポジションであることは言うまでもないだろう。

 交代でテーブルにメニューを並べていく間に、さらに注目度が高まってゆく。


 そんな状況であるので、一人だけの女子紅一点である紀恵も注目を集めているわけだが、紀恵は全く周囲を気にしてはいなかった。

 これが例えば麻美などである場合、この段階で詰みだ。


 それほどに値踏み、嫉妬、謂れのない侮蔑の視線が紀恵に集中しているのである。

 亮平もこれにはたまらず「森飯店」で見せたような彼氏然とした動きを見せた。メニューを分け合ったり、椅子を引く、感想を耳打ちしたりなどである。


 それとなく二人の関係が知れるように振る舞ったわけだ。


 そのせいか、周囲からの視線の圧力は柔らかくなったが、次には「何故?」という疑問符付きの視線が襲いかかってきた。

 どうして呂貴也ではなくて亮平なのか? という疑問である。


 だが、こればかりはどうしようもない。


 そして時間を割いて貰ったのだから、ご馳走させてくれ、という亮平の申し出を呂貴也が断るなど、一連のごく当たり前の社交辞令をクリアしてゆき――


 さて、となったわけだが。


 当たり前に亮平は、本命の切り出し方がわからない。

 V田もそこまで段取りは決めていなかったようではあるが、そこまで求めるのは酷と言うものだろう。


 呂貴也と繋ぎを取ってくれただけ、有り難いとも言える。

 しかもせっかく旧交を温め合ったのに、これから先をV田にまかせてしまっては、再会に泥をなすりつけるようなものだ。


 実際、下心があるからこそ連絡を取ったわけだが、だからといって「毒を食らわば皿まで」を、V田に要求するわけにはいかないだろう。

 そもそも、ここから先、何をどうすればいいのか誰も具体的にはわからないのである。


 最終目標は「麻美と呂貴也がお付き合いする」なのだろう――と、この辺りからあやふやなのだ。


 やはり、この場の進行役としては亮平しかいないわけである。

 V田にはこれ以上は面倒はかけられない。紀恵はまず認識に差がありすぎる。消去法的には亮平の一択になる。


 それに、紀恵と亮平の悪巧みでは、こういう状況になることは計算済みだったはず。

 会話の主導権を握って呂貴也をそれとなく誘導する目的があったはずなのだ。


 その目的に合致しているという肯定感。

 そして、話を進めることが出来ない焦燥感。


 これが亮平の心理に作用して、思わず口走らせる。


「告白……」


 と。


 だが次の瞬間、この切り出し方はダメだ、と判断した亮平は停止してしまった。

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