第31話 消極的対立の三すくみ

 さて、しばしの間変態共から焦点フォーカスを外そう。

 麗玖紗逃亡の後、B組には平穏が訪れた。


 担任の化学担当、五十代の為我井先生。そして、クラス委員の坂部と戸羽の手を煩わせることも無く、粛々とした時間が過ぎてゆく。


 それというのも、一躍カーストのトップに躍り出た麗玖紗が静かなままだっただからだ。

 覆い被さる前髪の下、ギロリとした眼光は相変わらずだが、それ以上に何かするわけでは無い。


 元々、麗玖紗はクラスの後ろで一人で座っていただけなのだ。

 それがただのぼっちでは無いらしいと知られただけの話、と開き直ることも出来た――のだが。


 もう一人、もう一組と言うべきかクラス内でのポジションが恐らくは上昇したコンビがある。

 言うまでもなく、紀恵と亮平だ。


 火曜日に麗玖紗とこのコンビは一緒に帰ったわけだが、その後は接触している様子が無い。

 そしてこの二人もまた、大人しいといえば大人しいのだが、麗玖紗がこの二人を避けているようなきらいがある。


 どうやら仲良しグループを結成するわけでは無いらしい、とはクラスでの同一の見解になったわけだが、こうなると浮上してくるのが今までのトップである麻美達グループだ。


 完全にポジションが入れ替わるわけでも無く、消極的対立構造と言うべきか、それぞれが遠ざかりたいという思いで、三すくみになっている。


 この状態がB組に平穏をもたらしたのである。

 そして、そのまま週末になるかと思われたが――


「じゃあ、日曜にな」

「うん。ちゃんと覚えてるよ」


 麗玖紗と紀恵がそんな風に言葉を交わし合ったのが金曜日の放課後。

 一体何が起こったのか。いやそれ以上に、週明けにクラスの様子ががらりと変わるに違いない。


 そんな不安と期待を抱えたままの週末になったB組である。

 では、いったい何が起こったのか?


 この辺りを詳らかにしていきたい。


               ~・~


 まず状況を動かしたのはB組の誰でも無い。

 C組の佐々木梢である。


 全く接触しないまま、麗玖紗には今のB組事変の黒幕と目された梢であるわけだが、実のところ今のB組の状態は梢にとっても想定外だったわけである。


 やはり紀恵がイレギュラー過ぎたのだ。


 こうなると梢が接触する相手はもう、どんなに頑張って考えても麗玖紗しかいなくなる。


 麻美に直接言えれば苦労は無い。もちろん紀恵達についても以下同文である。

 かと言って全く事情がわかっていない、他の生徒に接触しても仕方ないだろう。


 やはり麗玖紗しかいなくなる。


 ただこれには良い面もあった。

 梢の目的を達成するには、麗玖紗が最適であろうとの目算が、梢の脳では出来上がっていたからである。


 消去法の結果。

 そして最適な人選。


 そんな矛盾をはらんだ状態で木曜日の放課後。

 梢が帰宅途中の麗玖紗に声をかけたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る