第30話 逃げるにしかず

(なるほど。こう絡めるわけか。さすが百合の専門家リリィ・オーソリティー。頭ええわ西山さん。んで、どういう構図になるんや? まず佐々木さんがヤキモチ妬いて、遠藤さんに突っかかてるわけやろ。で、それがなかなか理不尽なわけや。やけど、元々知り合いやったわけやから遠藤さんは「何か理由があるはず」ゆう感じで一人で耐えるんやな。けなげや……で、そこに安城さんが見かねて割り込んでくる、と。当然、遠藤さんはそれには反発するやろ? 昨日の様子から考えると最初はそれが自然や。やけど、自分のために戦う安城さんに遠藤さんがほだされていって……辿り着くのは三角関係! ええな! これはええな!!)

「――安城さん。遠藤さんを気にかけてみよう」


 は! 申し訳ない。

 妄想と実際に亮平が口に出した言葉を直結させるとは……


 要するに亮平は紀恵の「提案」に丸々乗っかった。

 そういうことだ。


「お、おい……」


 麗玖紗が彫りの深い目元をさらに暗くさせながら、絶望色の声を出した。


「疑問点はまだまだあるしな。遠藤さんが何故、俺達がラーメンを食べに行ったことを知っているのか? とか、そもそも佐々木さんはどうやって俺達に目を付けたのか? とか、そういうところは気になるだろ?」


 亮平の妄想が溢れ出したかのような長広舌。

 しかも、なかなか鋭いところを突いている。


 だが、それもこれも自分の妄想の解像度を上げるため。亮平は、自分好みの妄想のため、現実に即し整合性を保つために獲得した能力をフルで使っている。


 さきほどは妄想の中で文章化をスルーした部分を改めて詮議し、形を整えてしまったのだ。

 もしかすると紀恵よりも厄介な変態。


 それが盛本亮平なのである。


 そんな変態の攻撃に、麗玖紗はたまらず「ウゥ」と短く呻き声を上げた。

 彼女は追い詰められている。


 何しろ麗玖紗は自分が始めたことだという負い目がある。

 それなのに、自分が一番に「や~めた」と言い出すのは、何より麗玖紗のプライドが許さない。


 しかしそれ以上に、この二人が不気味になってしまったのである。

 命の危機ではもちろん無いが、言ってみれば精神の危機。


 それに、この疑問なぞを追求したとしても、大して得るものが無い。

 ただ、自分のこだわりがそこにあるだけ。


 そのこだわりを捨ててしまえば……


「ええい! 俺が始めたことだから俺が止めると言ったら、止めるんだよ! 付き合ってくれてサンキューな! それじゃ!」


 言葉を投げ捨てるようにして、麗玖紗は逃亡を選択した。

 そして鳥居をくぐり、あっという間に二人の視界から消えてしまう。なかなかの運動神経の持ち主らしい。


「……こういう反応になるわけね。ツンデレの枠に押し込んでしまった良いものかしら」

「……あの反応があれば、最初の展開はさらに焦らすことが出来る」


 取り残された二人はそれに構わず、自分の妄想にさらに磨きをかけたのである。

 この二人を倒す手段は、果たしてあるのだろうか?

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