紀恵の彼は百合に厳しい

司弐紘

第1話 禁忌への導入

「……戸羽とばさんが一番良いんだけどね。まだうちのクラスには馴染んでないみたい」

「戸羽さんか。クラス委員に選ばれたし、もう少し熟成を待つしか無いだろうな」


「そうね。人望があるってことだし……よくわからない中で、それだけ惹きつけるものがあるってことよね。その点、遠藤さんはどう?」

「確かに。遠藤さんを中心にして、もうグループが出来上がってる感じがある」


舟城ふなきさんとは一年の時は同じクラスね。秋瀬さんとは、違うクラスだったけど、よく一緒にいたところを見たわ。多分、舟城さんと秋瀬さんが先に知り合いだったと思うのよね」

「相変わらず……凄まじいな、西山さん」


「そうなのよね。凄いと言って良いのかもしれない。遠藤さんが、とにかく可愛くて。私、ずっと注目してたのよ。見た? あのおでこ。二年になって同じクラスになれて幸せだわ」

「そうやのうて」


「ええ。秋瀬さんもポニテがよく似合ってるわ。ちょっと面差しだきつめだけど、それもまた良いものよ。それにね、彼女首筋に二連ホクロがあるのよ。アレは絶妙ね。それがわかっているから、秋瀬さんはポニテにしているのかもしれない……そして舟城さんはマスコットキャラね。背が低いから、とても愛らしいわね」

「確かにその通りやけども」


「やけども?」

「結局仲良くしているだけだろ。それでは妄想がはかどらない」


「十分でしょ! 女の子が仲良くしているだけで、幸せな空気が生み出されるものなのよ。あのふわふわ空間を鑑賞するだけでご飯三杯はいけるわ」

「三杯目に行こうとするなら、もっとこう抑圧されている感じが欲しいな。百合とはであるからからこそ美しい。――気付いているんだろ、西山さん」


「……気付いてない。確かに、遠藤さんグループから一人いなくなったみたいだけど、それは二年になってクラスが離れただけで」

「そうか。西山さんからは見えないんだな。明日の昼休みは席を交換しよう」


「え~? それで何がわかるって言うの?」

「わからないかもしれない。でも、あのグループが仲良し空間だけで出来ていないなら、それは西山さんにとってはいやなんだろ?」


「盛本くんはそれが良いのよね~」

「うん。仲良しの果てに愛があるのではなくて、戦いの果てに愛があった方が、よほど貴重さを感じられる」


「それで、グループがバラバラになっても?」

「一つの百合カップルを生み出すために、世界が滅んでも良い」


「それは私がいやなんだってば……そんな事になってるの?」

「そう思える雰囲気があるんだ。俺は、こっちの方が妄想がはかどる。彼女は……名前も知らないけど、メガネでロングで」


「…………」

「……知ってるな、西山さん」


「――わかった。明日はお弁当食べるときの席を入れ替えよう」

「それが良いだろうな。考えてみると俺は別に、彼女の名前を知らなくても良いんだよな」


 シャリシャリシャリ……


「それじゃ、そういうことで。ありがとう」

「うん。ありがとう」


 カシッ!

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