第2話 Bクラスの風景
進級したばかりの四月中旬――
翠奉大附属高校二年B組。その昼休みは今のところ、ごく平穏な雰囲気だ。
お弁当を広げるにしても、まだクラス内のグループが出来上がってはいない。
購買でパンを買うとしても、教室に戻ってくるとは限らないわけで、一年の時に形成されたグループで合流するパターンもあるだろう。
それでもすでに机を寄せ合って、昼食を共にするグループもあった。
まず目につくのは、付き合っていることがあからさまになっている、西山紀恵と盛本亮平のグループだ。
グループというかペアと言った方が適切なのだろう。教室の中程、窓際で机を向かい合わせして、それぞれの弁当を広げている。
紀恵は身長百五十ちょっと、といった辺り。
腰掛けているが、それでも小柄であることはわかる。
くせっ毛をショートボブにまとめ、前髪をゴムでとめていた。ゴムからはクリスタル仕様の二つのサイコロがぶら下がっている。
幼い顔立ちで、鼻は低いが愛嬌がある面差しをしていた。
ブレザーの制服に、赤いリボンタイ。
そのリボンタイが大袈裟に見えるのは。紀恵が小柄なればこそだろう。
一心に弁当箱の卵焼きを見つめているように見えるが、さっぱり箸が動いていない。視線だけが上目遣いで周囲の――いや、ある一点を見つめていた。
そんな紀恵の様子を見つめながら、冷凍食品の焼売に箸を突き刺しているのが、紀恵の彼氏、盛本亮平だ。
身長は百八十には届かないが、紀恵と比べれば随分高いようにも見える。
ボサボサ頭なのは髪質の問題か。三白眼気味で、痩せ気味あることも手伝って凶相一歩手前と言ったところだ。
そんな亮平が向かいに座る紀恵に声をかける。
「見えたか?」
その声も低く、その上ハスキーであるので凄味があった。
紀恵は一瞬だけ制止したものの、視線を亮平へと向ける。
「そう……私はいつだって遠藤さんに夢中よ」
その遠藤麻美は教室の中央でサンドイッチを食べていた。購買で買ってきたものでは無く、そういうお弁当なのだろう。
友達の秋瀬弥夏、舟城比奈子と机を寄せ合って、お菓子まで広げている。
暖かな飲み物も用意しているようで、随分幸せそうな笑顔を浮かべていた。
色素の薄いセミロングの髪はつややか。星飾りのヘアピン二つで前髪は綺麗に抑えられていて、形の良い額を見せつけるようだ。
そう感じてしまうのも、麻美があまりにも可愛いからだろう。
あざとささえ感じるほどに、整いながらも儚げな顔立ち。
そんな麻美に夢中であるという、紀恵の主張は確かに説得力があった。前後の繋がりを考慮に入れなければ。
それに実際、その可愛らしさで、現在麻美はB組の中心にいると言っても良い。教室に残る男子たちも、チラチラと麻美の様子を窺っている。
だがもちろん、紀恵が横目で確認していたのは麻美ではない。
亮平への返事は、出来れば麻美たちグループを見続けていたかったという願望交じりの誤魔化しだ。
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