第64話 紀恵無双
「西山さん。彼……久隆君は例のラーメン屋でバイトしてるんだよ。俺と行ったときもいたんだけどね」
あまりの紀恵の容赦の無さに、さすがに亮平がフォローに入る。
だが、そんなフォローにも紀恵は真顔で応じた。
「盛本くん。しっかりして。例えばこの店だけど、メニュー揃えてくれた店員さん覚えてる?」
と言われてしまうと、確かに亮平は覚えていないのである。
つい先ほどなので女性か男性か、ぐらいは答えることは出来るが、それ以上は無理だ。
「ね? 行った店の店員覚えるなんてそんな事は無いのよ。それも男の子のことを」
「そ、そやけどな……全部が全部そうやないやろ?」
追い込まれた亮平が何とか説明しようとするが、紀恵の男性不認証が前提としてあるので、この場で説明するのは難しい。
だが、とにかく「森飯店」に久隆がいた事は確かなのだ。
それだけをよすがに説明を続けるしか無い。
一方で呂貴也はこの事態――というか紀恵の振る舞いに目を白黒させていた。
隣に座るV田が、何とか紀恵の特性を説明しようとする。
この両サイドの説明によって、改めて紀恵と呂貴也は認識し合うのだが――
「は、ほら。夏限定メニューでシソが入ってるかどうかさ、西山さんが尋ねただろ?」
「ああ、うん。お店の人にね。あなたがあの店員さんって事? すぐに説明出来ないから、ああバイトなのか、って私ちょっと下に見てたんだけど、あの店員か」
もはや紀恵を止める術は無かった。呂貴也はバツが悪そうに黙り込んでしまう。
そんな呂貴也に、紀恵はさらにとどめを刺してゆく。
「それで何? 接客に失敗したから覚えてるに違いないってことなの? あれを自慢みたいに思うのはちょっと……」
確かに呂貴也の
それを悟らざるを得なかった呂貴也は、ここで棒でも飲み込んだ表情になって、ギブアップしてしまった。
さすがに「俺は格好良いから覚えているだろう?」などと、改めて説明するほどには呂貴也の羞恥心もすり切れてはいないからだ。
だが他者からは呂貴也の美貌について説明することは可能だ。
V田から懇願するようにして、
「ロキは格好良いだろう? クラスでもイケメンって話になってたじゃ無いか。安城さんも遠藤さんもそういう話してただろ? 覚えて無いか?」
残念ながら紀恵は覚えていないのである。
だが、亮平の友達であるV田からのたってのお願いであるので、紀恵は仕方なく呂貴也に注目した。
今までそんな探るような目で見られたことが無い呂貴也は緊張する。
そしてその緊張は、店内全てに伝染した。いつの間にか紀恵の奇天烈さが注目されていたのである。
そんな中、紀恵は呂貴也をじっと観察し、首を捻った。
そして、呂貴也から視線を外し天井を見上げながら、うんうんと唸ると……
「……思い出した! O次郎だわ!」
と叫んだのである。
別に著作権に気を配って伏せ字にしているわけではないので、あしからず。
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