第26話 もっと疑問を!
麗玖紗の問いかけに、紀恵と亮平は顔を見合わせてうなずき合った。
ラーメンを食べに行った理由は改めて思い出す、などという作業も必要ないからだ。
「それは佐々木さんよね」
「そうだな。佐々木さんだ」
しかし麗玖紗にしてみれば、突然出てきた謎の
戸惑うのも仕方がない。
例えばごく一般的に新たなラーメン店に行く動機を想像するなら、口コミやネット上の評価になる。
口コミであるなら、教えてくれた人物の名前が出てくる可能性はあるが、いきなり紹介した人物の名前を出したりはしないだろう。
その違和感に麗玖紗は瞬時に気付いたようだ。
いや、それよりも先に二人から誰かの名前が出てくることは想定していたのかもしれない。
麗玖紗が戸惑ったとするなら、二人が突然固有名詞を出したことだ。
最終的に、誰かの名前が出てくることは予想していたが、二人はその過程を飛ばしてしまった――それが麗玖紗を戸惑わせたのだろう。
「――佐々木っていうのは? どういうこと?」
だが、過程が飛んでいたとしても麗玖紗のやることは変わらない。
そのまま質問を続ける。
「最初に佐々木さんに声をかけられたのは俺だ」
そこで声をかけられるまでの経緯を、どう答えたものかと紀恵がうなり声を上げているうちに、亮平が答えてしまった。
「ちょっと事情があってな。佐々木さんに迷惑をかけたんだよ。それで佐々木さんが、その代わりに店に行けって」
その説明を麗玖紗は訝しげに聞いていた。
そして亮平もまた、事の経緯のおかしさを改めて認識する。
「あのお店は良かったよね。今のところ『醤油そば』しかわからないけど。佐々木さんには良いお店を教えて貰ったって。ただ、あの時は半端な時間に行ったから……」
「――ちょっと待て」
亮平が順調に妄想のための情報収集をしていることで、紀恵は焦ったのだろう。
いきなり会話に割り込んできた。そして麗玖紗がその紀恵の言葉を遮ったのである。
当然、紀恵は麗玖紗に声をかけられた事は本望なので、興奮しながらも黙り込む。
端的に言って不気味だ。麗玖紗の腰がやっぱり引けるが、それで少し間を置けたことが幸いしたのだろう。
「……その佐々木って奴に言われたから店に行った。それはわかったが……もしかして時間指定もされていたのか?」
二人の説明を先回りするようにして、麗玖紗はまだ説明していないところを確認する。
そうすると紀恵と亮平は再び顔を見合わせて、
「そうなのよ。よくわかったね」
「お詫び代わりという理由だから、指定については深く考えなかったな」
などと呑気なことを言い出した。
それを確認した麗玖紗はなんとも言えない表情を浮かべ、次いでミルクティーを呷ると、長々とため息をつく。
そして――
「もっと疑問を持てよ!」
と、叫んだ。
境内の鳩が一斉に飛び立つ。
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